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第三章 後宮の花たち
おまけ
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私はリー家の娘、ファン。
娘を皇后にして王宮での立場を向上させようとする王宮役人の父の野望のため、生まれてきた娘だ。
父は私を可愛い、可愛いと服や化粧品を買い与えて甘やかしてくれたけれど、全ては私を皇后にするために身だしなみを整えさせるのが目的で、愛しているからではなかった。
だって二言目には「お前の可愛さならば、必ずや皇后になれる」と言い続けていたから。
父の野望は、幼い娘にすら察せられるほどに分かりやすかった。
ギラついた父の目が、皇后になれと言われることが、ずっと重苦しくて怖かった。
私自身は皇后になれる器ではないと、外見を褒められても内面が伴っていないと……父の野望に耐えきれない私が、皇后という重みある席に座れるはずがないと分かりきっていた。
けれど、父の野望は私が成長しても衰えるどころかどんどん加速していき……ついに、年頃になった私は後宮に入ることが決まった。
私の意志など関係なく、上機嫌に家に帰ってきた父から「ついに後宮入りが決まったぞ!」と言われて、私の輿入れがすでに決まっていた。
私を後宮に送り出す時、父は「必ず皇后になれ」と言っていた。
後宮入りは気が重かったけれど、これで父から呪いのように吐かれ続ける言葉から解放されるのかと思うと、少し安堵している部分があった。
後宮に入って、皇帝陛下に初めてお会いした。
名君と名高い皇帝陛下は、噂の通り素敵な御方で……けれど、床を共にする恐怖はどうしても私の身体を竦ませた。
覚悟なんてできていなかった、ただただ怖かった。
けれど、いつかその時は来るのだろうと思っていた……しかし、いつまで経っても皇帝陛下が私と床を共にすることはなかった。
何度かお会いしたり、贈り物をいただくことはあったけれど、床を共にすることはない。
何か粗相をしてしまっただろうかと不安を感じていた時、同じお妃様……フォンス様という上位役人であるソ家のご令嬢からお茶会に誘われた。
同じ妃として悩みを共有できるかもしれないと、少しでも気晴らしになるかもしれないと思ったけれど……結果は散々だった。
面白みのない妃だと嘲笑され、『風邪を引けば、皇帝陛下に気にかけていただけるかもしれなくてよ』と無意味にお茶をかけられ……。
私は泣きながら自分の宮へと逃げ帰ることしかできなかった。
侍女には『問題があったのであれば、担当の宦官に訴えるべきです』と言われたけれど、報復されるかもしれないと思うと怖くてできなかった。
どこまでも弱気で、面白みのない妃……それが後宮に入った私の現実だ。
父に意見することができず、後宮に入ることになった時と、私は何も変わっていない。
そんな父からは、定期的に後宮にまで手紙が届く。
誠心誠意、皇帝陛下にご奉仕しているかと、子どもはまだかと、閨ではどうするべきかなど、口にもしたくない内容が書かれた手紙だ。
父からも解放されず、他の妃とも馴染めず、皇帝陛下との関係に進展はなく……後宮にいることは、牢獄にいる囚人のような気分だった。
そんなある日、後宮に新しい妃がやってきた。
お会いしたことはないけれど、後宮一の美姫と皇帝陛下が仰るほど美しい妃だという噂だけは聞いた。
皇帝陛下はその方に夢中らしく、足繁く宮へと通っていらっしゃるらしい。
皇后になるべき人が決まったなと、やっと私は解放されるのかもしれないと思っていたけれど、そうはならなかった。
後宮一の美姫のことが王宮でも噂になっているのか、父からの手紙が量も内容も悪化した。
律儀に返事をしなくても良いだろうと思いながらも、止まない手紙に辟易して、私なりに努力しておりますと返事をする。
実際は何もしていないのに……。
私は保身のために、嘘つきにまでなっていた。
そんな自分が嫌で嫌で……後宮の庭園に咲いている美しい花々に癒やしを求め、庭園に足繁く通った。
花を見つめている時だけは、父のことも自分のことも、全てを忘れられるような気がした。
いつものように庭園で過ごしていると、後宮一の美姫と名高いメイリン様と偶然お会いする。
お茶の香りを身にまとい、濡れそぼっている彼女を見て、フォンス様の嫌がらせを受けた仲間かもしれないと、不謹慎ながら親近感を感じた。
だから自分の宮に招待して、手ぬぐいを渡して、話をして……すると、彼女は『今度は自分の宮でお茶会を』と招待してくれた。
お茶会には嫌な思い出があるけれど、仲間だと思うと、もう一度お会いできる時が純粋に楽しみだった。
二回目にお会いした時、メイリン様が後宮に入った理由を尋ねてみると、自分の意志で輿入れしたという返事をもらった。
自分とは違うのだなと、勝手に感じていた親近感が間違っていたことを痛感させられる。
自分の意志をしっかりと持っていて、それを行動に移す心の強さがあって、皇帝陛下からも愛されているメイリン様。
私とは、ぜんぜん違う。
そう思いながらも、気付きながらも……メイリン様に自分の身の上話をすると、耐えきれずに涙が溢れ出てきてしまった。
メイリン様も、突然お茶会の相手が泣き出してさぞ驚かれただろうと、私はまた泣いてばかりなのだなと……恥ずかしくて、情けなくて、余計に涙が止まらなかった。
けれどメイリン様はそんな私に『定期的に会おう』と、『友人になろう』と提案してくださった。
嘲笑うことも、責めることもなく……ただいたずらっ子のように微笑んでいらっしゃるメイリン様は、誰よりも美しく、そして可愛らしかった。
メイリン様の言葉に嘘や悪意なんて感じられなくて……気が抜けた私は、泣きながら小さく笑ってしまっていた。
思えば、後宮に来てから笑ったのなんて初めてだった。
こうして私に、後宮に来てから初めての友人ができた。
定期的にお会いして、お茶を一緒に飲んで、他愛のない話をして……牢獄のようだった後宮が、楽しい場所に変わったように感じられた。
皇后になれと急かし続ける父の手紙も、侍女に私に見せないようにと指示を出すことができた。
これからは今まで思い悩んでいた時間を、自分の宮の庭に花を植えようかなと、そんなことを考えている。
娘を皇后にして王宮での立場を向上させようとする王宮役人の父の野望のため、生まれてきた娘だ。
父は私を可愛い、可愛いと服や化粧品を買い与えて甘やかしてくれたけれど、全ては私を皇后にするために身だしなみを整えさせるのが目的で、愛しているからではなかった。
だって二言目には「お前の可愛さならば、必ずや皇后になれる」と言い続けていたから。
父の野望は、幼い娘にすら察せられるほどに分かりやすかった。
ギラついた父の目が、皇后になれと言われることが、ずっと重苦しくて怖かった。
私自身は皇后になれる器ではないと、外見を褒められても内面が伴っていないと……父の野望に耐えきれない私が、皇后という重みある席に座れるはずがないと分かりきっていた。
けれど、父の野望は私が成長しても衰えるどころかどんどん加速していき……ついに、年頃になった私は後宮に入ることが決まった。
私の意志など関係なく、上機嫌に家に帰ってきた父から「ついに後宮入りが決まったぞ!」と言われて、私の輿入れがすでに決まっていた。
私を後宮に送り出す時、父は「必ず皇后になれ」と言っていた。
後宮入りは気が重かったけれど、これで父から呪いのように吐かれ続ける言葉から解放されるのかと思うと、少し安堵している部分があった。
後宮に入って、皇帝陛下に初めてお会いした。
名君と名高い皇帝陛下は、噂の通り素敵な御方で……けれど、床を共にする恐怖はどうしても私の身体を竦ませた。
覚悟なんてできていなかった、ただただ怖かった。
けれど、いつかその時は来るのだろうと思っていた……しかし、いつまで経っても皇帝陛下が私と床を共にすることはなかった。
何度かお会いしたり、贈り物をいただくことはあったけれど、床を共にすることはない。
何か粗相をしてしまっただろうかと不安を感じていた時、同じお妃様……フォンス様という上位役人であるソ家のご令嬢からお茶会に誘われた。
同じ妃として悩みを共有できるかもしれないと、少しでも気晴らしになるかもしれないと思ったけれど……結果は散々だった。
面白みのない妃だと嘲笑され、『風邪を引けば、皇帝陛下に気にかけていただけるかもしれなくてよ』と無意味にお茶をかけられ……。
私は泣きながら自分の宮へと逃げ帰ることしかできなかった。
侍女には『問題があったのであれば、担当の宦官に訴えるべきです』と言われたけれど、報復されるかもしれないと思うと怖くてできなかった。
どこまでも弱気で、面白みのない妃……それが後宮に入った私の現実だ。
父に意見することができず、後宮に入ることになった時と、私は何も変わっていない。
そんな父からは、定期的に後宮にまで手紙が届く。
誠心誠意、皇帝陛下にご奉仕しているかと、子どもはまだかと、閨ではどうするべきかなど、口にもしたくない内容が書かれた手紙だ。
父からも解放されず、他の妃とも馴染めず、皇帝陛下との関係に進展はなく……後宮にいることは、牢獄にいる囚人のような気分だった。
そんなある日、後宮に新しい妃がやってきた。
お会いしたことはないけれど、後宮一の美姫と皇帝陛下が仰るほど美しい妃だという噂だけは聞いた。
皇帝陛下はその方に夢中らしく、足繁く宮へと通っていらっしゃるらしい。
皇后になるべき人が決まったなと、やっと私は解放されるのかもしれないと思っていたけれど、そうはならなかった。
後宮一の美姫のことが王宮でも噂になっているのか、父からの手紙が量も内容も悪化した。
律儀に返事をしなくても良いだろうと思いながらも、止まない手紙に辟易して、私なりに努力しておりますと返事をする。
実際は何もしていないのに……。
私は保身のために、嘘つきにまでなっていた。
そんな自分が嫌で嫌で……後宮の庭園に咲いている美しい花々に癒やしを求め、庭園に足繁く通った。
花を見つめている時だけは、父のことも自分のことも、全てを忘れられるような気がした。
いつものように庭園で過ごしていると、後宮一の美姫と名高いメイリン様と偶然お会いする。
お茶の香りを身にまとい、濡れそぼっている彼女を見て、フォンス様の嫌がらせを受けた仲間かもしれないと、不謹慎ながら親近感を感じた。
だから自分の宮に招待して、手ぬぐいを渡して、話をして……すると、彼女は『今度は自分の宮でお茶会を』と招待してくれた。
お茶会には嫌な思い出があるけれど、仲間だと思うと、もう一度お会いできる時が純粋に楽しみだった。
二回目にお会いした時、メイリン様が後宮に入った理由を尋ねてみると、自分の意志で輿入れしたという返事をもらった。
自分とは違うのだなと、勝手に感じていた親近感が間違っていたことを痛感させられる。
自分の意志をしっかりと持っていて、それを行動に移す心の強さがあって、皇帝陛下からも愛されているメイリン様。
私とは、ぜんぜん違う。
そう思いながらも、気付きながらも……メイリン様に自分の身の上話をすると、耐えきれずに涙が溢れ出てきてしまった。
メイリン様も、突然お茶会の相手が泣き出してさぞ驚かれただろうと、私はまた泣いてばかりなのだなと……恥ずかしくて、情けなくて、余計に涙が止まらなかった。
けれどメイリン様はそんな私に『定期的に会おう』と、『友人になろう』と提案してくださった。
嘲笑うことも、責めることもなく……ただいたずらっ子のように微笑んでいらっしゃるメイリン様は、誰よりも美しく、そして可愛らしかった。
メイリン様の言葉に嘘や悪意なんて感じられなくて……気が抜けた私は、泣きながら小さく笑ってしまっていた。
思えば、後宮に来てから笑ったのなんて初めてだった。
こうして私に、後宮に来てから初めての友人ができた。
定期的にお会いして、お茶を一緒に飲んで、他愛のない話をして……牢獄のようだった後宮が、楽しい場所に変わったように感じられた。
皇后になれと急かし続ける父の手紙も、侍女に私に見せないようにと指示を出すことができた。
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