後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第五章 皇后という存在

第十八話

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「……母上と言えども、わたくしの妃に余計なことを吹き込むのはやめていただきたい」

 皇帝陛下のことを考えていた時、わたくしの後ろから本人の声が聞こえてきた。

 驚いて振り返ってみれば、皇帝陛下が厳しい目つきで皇太后様を見つめ、彼女の閨指導を中断させる。

 皇太后様は皇帝陛下の厳しい目つきなど意に介していない様子で、にっこりと笑みを浮かべている。

「まぁ、あなたは今のままのメイリンさんを気に入っているのね」

「はい。そうです」

「そう……。けれど皇帝たるもの、世継ぎは必要ななのよ」

「そんなことは分かっています。しっかりと皇帝としての務めも果たしておりますので、母上に気にしていただかなくとも結構です」

 皇帝陛下と皇太后様の会話は親子のやり取りとは思えないほど冷めきっていて、まるで業務連絡でもしているようだった。

 皇太后様は変わらず物腰柔らかに話していたけれど、皇帝陛下の最後の言葉を聞くと、笑みを消してじっと皇帝陛下を見つめていた。

 その表情は、母が子どもに向けるものには見えなかった。

 背筋がゾッとするのを感じていると、ふいに皇帝陛下がわたくしの腰と手を掴んで立ち上がらせる。

 「え?」と戸惑っていると、皇帝陛下は「宮に帰ろう」と皇太后様に挨拶もなしに、その場を立ち去ろうとする。

 わたくしはどうすれば良いのか分からず、ちらりと皇太后様の方を見やる。

 すると皇太后様からは先程の冷めた表情は消え、お茶を飲んでいた時と同じような柔和な笑みを浮かべていた。

「まぁ。仲睦まじいこと。……メイリンさん。ぜひまた一緒におしゃべりしましょうね」

「は、はい!」

 わたくしがそう返事をしている間も、皇帝陛下の足は止まらず、半ば強制的に皇太后様とのお茶会はお開きとなった。

 ――皇太后様の庭園から、宮の入口に停めてある牛車に向かうまでの間、皇帝陛下はずっと不機嫌そうに無言だった。

 声をかけるのがためらわれるほどに。

 そのままそれぞれ牛車に乗り込み、わたくしの宮まで戻る。

 わたくしの宮の茶の間に到着すると、皇帝陛下は一つ伸びをしてからふぅー……とため息を吐いて、やっと不機嫌そうな表情からいつものお顔に戻られた。

 いつもの皇帝陛下を見ると、何だか安心する。

「メイリン、先程は母がすまなかったな」

「い、いえ。皇太后様の仰るように、皇后を目指すのであれば必要なことですから。ですが……皇帝陛下が来てくださって、正直、助かりました。ありがとうございます」

 皇帝陛下の表情の変化を見てほっとしていたところに声を掛けられたので、わたくしは少し驚いて動揺しながらも、感謝を伝える。

 すると皇帝陛下はニコッと笑みを浮かべた。

「好いた女を己の母親から守るのは、夫の務めだからな」

 そう言ったかと思うと、皇帝陛下は「あー……」と言葉にならない声を漏らして、少し言いにくそうに頬を掻きながら、言葉を続ける。

「実はな、イェンから『そなたが母上から茶会に誘われた』と報告を受けたんだ。『母上は妃に厳しい人だから、メイリンは大丈夫だろうか』とな」

 皇帝陛下の言葉を聞いてまず驚いて、次に気に変えてもらえたことを喜んで、次に心配を掛けて申し訳ないという気持ちが湧いて、それらが一気に心を駆け抜けてゆく。

 自分の感情に困惑し、頬に手をやると少しだけ顔が熱いように感じる。

 イェン兄様が、わたくしのことを心配してくださった。

 妃として自分が成長してないからこそ心配を掛けてしまっているという不甲斐なさを感じつつも、いつまでも気にかけてもらいたいという我儘な感情が入り乱れる。

 そんなわたくしを見て、皇帝陛下は少し困った様子で笑みを浮かべていた。

「実際に助けたのは私かもしれんが、そなたを助けたのはやはりイェンだな」

「そんな……皇帝陛下とイェン兄様、お二人のおかげです。助けてくださって……教えてくださって、重ね重ねありがとうございます」

 改めて感謝を伝えるけれど、皇帝陛下はやはり困ったように微笑んでいた。
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