後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

文字の大きさ
23 / 52
第五章 皇后という存在

第二十話

しおりを挟む
「そなたは皇后になりたいのか?」

「いえ、全く興味ありません」

 皇帝陛下に尋ねられて、わたくしはすぐに否定の言葉を返す。

 そこに嫌悪感や皇帝陛下に取り入ろうなどといった考えはなく、純粋に興味がないからこその冷めた答えだった。

 わたくしの返答を聞いた皇帝陛下は、予想通りだとでも言わんばかりに嬉しそうに「だろうな」と笑っている。

 かと思うと、皇帝陛下は笑みは浮かべたままではあるけれど、少しだけ眉尻を下げて口を開く。

「……私には十五人の妃がいる。出世のため輿入れさせられた役人の娘、皇后という地位を求めてやってくる貴族の娘。様々な女が、私の妻として後宮にやってくる」

 わたくしは皇帝陛下が何を言わんとしているのか分からず、静かに耳を傾ける。

「後宮は皇帝のための花園などではなく、世継ぎのために選んだ女と閨を共にし、野心あふれる令嬢をあしらいながら機嫌を取る場所で、私にとって居心地の良い場所ではない」

 そう仰る皇帝陛下の顔は、どこか寂しそうというか……居場所をなくした迷子のように見えた。

 かと思うと、こちらを見つめて穏やかな笑みを浮かべる。

「けれど……そなたが来てからは、後宮ここも楽しい場所になっている」

「……わたくしは何もしておりませんよ?」

「それが良いのだ。そなたはそなたらしくあるだけで、私の癒しとなる」

 皇帝陛下は楽しそうに、嬉しそうにカラカラと笑っていて、わたくしは困惑しながらも皇帝陛下がそれで良いのであればと、特に否定することはしなかった。

 それと同時に、改めて皇帝陛下という立場・存在を思うと、わたくしでは想像しきれないほどの苦労があるのだなと思う。

 日中は王宮で国のため、民のためにと働き、夜になれば望んでもいない妃のために機嫌を取り、また国のため、世継ぎのためにと閨を共にする。

 皇帝という人に、気の休まる時などないのかもしれない。

 そう思うと皇帝陛下が不憫に感じられると共に、その立場を全うして『名君』と呼ばれている皇帝陛下のことを、純粋に尊敬した。

 なので癒しの存在であるらしいわたくしは、皇帝陛下の苦労を思い、心からの微笑みを浮かべる。

「わたくしが少しでも皇帝陛下の癒しになれているのであれば、良うございました」

 そう伝えると、皇帝陛下は目を丸くして驚きの表情を浮かべて、かと思うと少しずつ顔が赤く染まっていった。

 そんな顔を隠そうとなさっているのか、皇帝陛下は口元を手で覆う。

「う……うん? なんだ……? そなたの笑顔を見たら、胸がドキッとしたぞ」

「なんでございましょうね」

「こ、これが……ときめき、というものなのか……?」

「なにを仰っているのですか?」

「心が幸せで満ち足りている感じがする!」

「……」

 わたくしの冷めた対応にもめげず、皇帝陛下は嬉しそうに楽しそうに、興奮した様子だ。

 十五人も妃がいるというのに、皇帝陛下自身はやはり初恋をしたばかりの年相応の青年のように見える。

 いつのまにかわたくしの中で、威厳のある皇帝の顔をしている彼の方が違和感があり、この年相応な表情をしている彼の方が馴染みのある存在になりつつあった。

 苦労の多い皇帝陛下に、そんな年相応の顔ができる時間があることを、わたくしは何だか微笑ましく眺めていた。

「これだけ好いた女がいながら、手を出さない私は大したものだな!」

 そう言ってまだまだ興奮冷めやらぬ様子の皇帝陛下。

 手を出したいとは思っているのかと、けれど皇帝陛下も男だからな……と、少しばかり自分の身を危うく思いながらも、そんな感情を持っていることに安心感を覚える。

 後宮に来たばかりの頃に比べて、自分の中で皇帝陛下という存在が……皇帝陛下への感情が、少しずつ変わっていく気がする。

 正直に言うと、好意はあると思う。

 けれど、イェン兄様ほどの想いはない。

 結局わたくしと皇帝陛下は、初恋に振り回されている者同士なのだなと、なんとなく笑えてきた。

 わたくしが堪えきれずにクスッと笑みをこぼすと、なぜだか皇帝陛下も嬉しそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...