後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第十章 その後の小話

第四十三話

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 ポウザンもすっかり成長して、いよいよ次期皇帝としての勉強や鍛錬が始まっていた。

 周囲は名君と名高い皇帝陛下の息子ということで、王宮役人たちから家庭教師まで、幅広い人がポウザンに期待している。

 そしてポウザン自身も、そんな父の背中を追いかけようと、文武両道の立派な皇帝になるのだと、日々精進している。

 わたくしは母として、そんな姿を嬉しく思いながら、日々成長していく息子を温かく見守っていた。

「父上はどうして母上以外にも妻がいるのですか?」

 そんなある日、ポウザンにそう問われて目を瞬かせた。

 どうやら皇帝の妃や後宮のこと、それとは対照的に市民の、いわゆる『普通の結婚』というものを勉強したらしい。

 けれど、彼の中で授業の内容に納得がいかなかったのか、疑問が残ったのか、わたくしに尋ねてきた。

 母としてここで慌ててはいけないと、笑顔を見せて答える。

「あなたの父上は皇帝陛下だから、多くの方を妻に迎える必要があるのよ」

 政治的な思惑や世継ぎのためなど、細かく説明するともっと言い添えなければいけないことはあるのだけれど、子どもに話すべき内容ではないだろうと端的に伝える。

 わたくしの答えを聞いたポウザンは、むーっと何か納得のいかない表情をしている。

 どう説明すれば彼を納得させられるのだろうと笑顔のまま困惑していると、話題の根源とも言えるが仕事を終え、わたくしの宮にやってきた。

「ただいま、私の愛する家族たち」

「おかえりなさいませ、ミン様」

 出迎えると、ミン様がわたくしを抱き寄せて頬に優しく唇を寄せる。

 昔のわたくしだったら、こんなことをされたら顔を赤く、熱くさせて、まっすぐ立っていることすら難しかったかもしれない。

 けれど子どももできた今となっては、こんなやり取りも嬉しい日常になっている。

 ミン様は我が子にも同じことをしようと、手を広げてポウザンが通ってくるのを待っている。

 これもいつもの光景ではあるけれど、今日はいつもと違い、ポウザンが大好きな父の下へ駆け寄らない。

 それどころか、不満げに頬を膨らませてミン様を睨んでいた。

 ミン様は衝撃を受けるとともに、なぜ来ないのか困惑なさっている。

「父上は僕と母上を愛していますか?」

「もちろんだ。この世界の誰よりも愛している」

 むくれたまま、先程と同じように疑問を投げかけるポウザンに対して、ミン様は即答する。

 キリッと、何を当たり前のことを尋ねているのだろうというような表情をしているミン様を、ポウザンはさらに頬を膨らませて見つめている。

「ではなぜ、母上以外に妻がいるのですか?」

「それはの意志は関係なく、それが皇帝としての務めの一つだからだな」

「父上の仰る『自分』と『皇帝』というのは別なのですか?」

「そうだな。私は……いや、私とメイリンは、別物だと考えているよ」

 淀みなく答えるミン様。

 最後の言葉に、ポウザンがこちらをちらりと見てきたので、肯定の意味で頷いた。

 するとポウザンはむーっと何やら考え込んでから、不安げな声を漏らす。

「では……僕も将来は妻がたくさん必要になるのですか……?」

 その疑問に、わたくしとミン様は驚きから顔を見合わせる。

 ポウザンの表情と言いようからして、妻をたくさん娶ることは彼にとって不服なことであるらしい。

「ポウザンは、妻がたくさんいるのが嫌なのか?」

 ミン様が尋ねると、ポウザンはこくりっと頷く。

「僕は父上と母上のように、心から愛する人とだけ夫婦になりたいです」

 ミン様がかつて、両親を見て後宮という場所が嫌いになったように、ポウザンもわたくしたちを見て、彼なりに後宮という場所が嫌になったらしかった。

 皇帝という席が決まっている人は、誰しも一度は通る道なのかもしれない。

「僕の考えは、次期皇帝として間違っているのでしょうか……」

 泣きそうな顔をしながらそう呟くポウザンを、わたくしとミン様が優しく抱きしめる。

「別に間違っているとは思わない」

「そうですね。ただ、その考えを大人になっても貫き通すかどうかは、もっと勉強してから考えなさい」

 わたくしたちがそう告げると、ポウザンは短い手でぎゅっとわたくしたちを抱きしめ返してから「はい」と答えた。

 その声は、まだ悩んでいる途中のようだったが、先程までよりかはいくらか明るい声色に感じた。
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