雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第三章 舞姫の追放

第十話

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 ある日の宴……私はまた、舞台袖にいた。

 歌姫グージェンがいなくなって、舞台が寂しくなったからお前が舞姫ウージェンの舞に合わせて琵琶を披露しろとのことだ。

 あの男は私が『上級妃を排除するためだけに雇われた側妃』ということを忘れているのだろうか。

 次の狙いが舞姫だから、接触の機会を増やすために舞台に立たせるというのならばまだ分かるが……。

 女を侍らせ、酒を浴びるように飲んで上機嫌なご様子のあの男に、そんな思考回路は残っていないだろう。

 陛下の気まぐれにうんざりしながらも、この機会を無駄にしないように、少し離れた場所にいる舞姫に目をやる。

 私と一緒に舞台に立たされることが不満なのであろう……険しい表情をしながら、身体の柔軟を念入りにしている。

 ……ん? よく見てみると、口元がかすかに動いている。

 ブツブツと何かを呟いているようだ。

 私は琵琶の手入れをするふりをしながらこっそりと舞姫に近づいて、視線は琵琶の方に向けながら彼女が何を言っているのか耳をすませてみる。

「私だけでは舞台が寂しいですって……やっと歌姫がいなくなったのに……私の舞の何が不満なのよ……だいたい陛下は……」

 歌姫のように私に対して真っ向から不満をぶつけてくることはないが、どうやら内心は不満で溢れかえっているご様子。

 ブツブツと呟いていることを思うと、本人的には不満を口に出しているつもりはないのだろうが……口から勝手に不満が漏れ出しているのだろう。

 歌姫と舞姫はよく似ていると思っていたが、歌姫は思ったことをすぐ口にする人間、舞姫は不満を溜め込む人間といった違いがあるのかもしれないな。

「……陛下の思いつきには、困ったものですね」

 私は舞姫のことをもっと探るために、少し困ったように微笑みながら声を掛けてみた。

 突然声を掛けられた舞姫は、一瞬柔軟をやめて私の方をギロッと睨みつけていたが、すぐに睨むのをやめて柔軟に戻っていた。

「私達は上級妃だもの。陛下の御心のままに、陛下の望むものを提供するだけだわ」

 あらあら……思ったよりも冷静なお返事。

 不満はこぼしつつも、上級妃として陛下に尽くす心は持ち合わせているらしい。

「そうですね。陛下の望むものを提供できなくなってしまったから、歌姫様は後宮を出されたんですものね」

 もう少し歌姫の心の内を探るために『歌姫』の名前を出す。

 するとピクッと舞姫は反応を示し、また柔軟の動きが止まった。

 やはり……歌姫の名前にはすぐ反応する。

「舞姫様は歌姫様と仲が良さそうでしたから、さぞお寂しいでしょう」

 私は笑ってしまいそうになるのを口元に袖を持ってきて隠しながら、さらにわかりきった嘘を並べて彼女に語りかける。

「……仲良くなんかないわ」

 すると舞姫はぼそっと呟くように、そう答えた。

 知っていますと思いながらも、え……? と分からないふりをしていると、舞姫はワナワナと身体を震わせながらまたブツブツと呟くように不満を漏らし始めた。

「仲良くなんかない……歌姫はいつも私のことを見下していた……陛下も陛下よ……歌姫歌姫って……私だって舞を披露しているのに……!」

 上級妃としての心構えは持ち合わせているけれど、お口は随分ゆるくいらっしゃる様子。

 顔を醜く歪めながら不満を呟いているその姿は、歌姫とよく似ているなと思いながらも口には出さず、口元を袖で隠しながら舞姫の様子を眺める。

 すると舞姫はやっと自分がブツブツと不満を漏らしていることに気がついたのか、ハッと気がついたように口をギュッと結んでから私の方を睨んできた。

「……陛下の寵愛を受けるのは私よ。少し琵琶が弾けるくらいで、調子に乗らないことね」

 彼女は私を見下すように少しだけ鼻で笑ってから、私から距離を取って舞台の方まで歩いていった。

 ……あなただって舞が踊れるだけのくせに、よくも人を見下せたものね。

 私は笑い出しそうになるのを堪え、口元を袖で隠しながら舞姫に続いて舞台の方へと歩いていく。

 不満の漏らし方は違うけど、やはり歌姫と舞姫はよく似ている。

 お互いを敵視していて、陛下の寵愛は自分だけのものだと必死で、自分の芸に誇りを持っているからこそ他人を見下すところなんて……本当にそっくりだわ。

 ただ決定的な違いはという心構えがあるか否かというところかしら。

 ……私、少しだけあなたの絶望する姿が想像できたような気がしますわ。

 私はこれからのことを考えながら、満面の笑みで舞姫と共に舞台上に立った。
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