雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

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第三章 舞姫の追放

第九話

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 歌姫グージェンが後宮から追い出された夜、宴の後に陛下がまた私の宮まで来た。

 陛下はお前の言うとおりになったなといたく興奮したご様子で、また私を荒々しく寝台に押し倒して自分本意な時間を過ごされた。

 私は無言で従者に下がるように指示を出してから、その苦痛を黙って耐え忍んだ。

「――次は誰を追い出すのだ?」

 寝台に寝転がる陛下は瞳を輝かせながら、身支度を整えている私にそう聞いてきた。

「……舞姫ウージェン様が順当かと」

 あまりこれからの予定をこの男に話すのは、余計なことを他の人にこぼして邪魔が入りそうで気が引けるが……答えないことであれこれ詮索されても嫌なので、素直に答えることにした。

 私の答えに陛下は、舞姫か……と彼女のことを思い出しているのか、ニヤニヤと髭を撫でながら天井を眺めている。

「あの女は後宮に出入りする芸者だったのだが、あの涼し気な舞が気に入ってな。側妃にしてやったのだ。夜のアレもまた良くてな……余の下で艶めかしく身体を動かし、涼し気な瞳を潤ませながら見つめてくるのが最高であった」

 陛下は聞いていないことまで、ベラベラと話してきた。

 父に手紙を出して彼女のことを聞こうと思っていたが、その手間が省けたなと……うんざりしながらも陛下のお喋りに黙って耳を傾けた。

 すると突然、寝台で寝転っていた陛下が起き上がって身支度を整えだした。

「話していたら、アレも味わいたくなったわ」

 そう言って陛下は足早に、上機嫌に私の宮を去っていった。

 どうやら自分の宮には帰らず、そのまま舞姫の宮まで行くらしい。

 ……そういうことを普通、別の女に言うものだろうかとか、これから追い出そうという女を抱きたいというのはどういう心情なのだろうかと、欲望のままに脳みそと言動が直結しているご様子の陛下に呆れ果てた。

 他の上級妃ならば、嫉妬の炎を燃やすことであろうが……私は陛下に特別な感情はないので、快く見送った。

 何なら、さっと帰ってくれて嬉しかったくらいだ。

 これで落ち着いて次の計画について、作戦が練れる。

 ――舞姫。

 歌姫と行動することが多く、舞台上や舞台袖、それ以外でもずっと一緒だからある程度は仲が良いものかと思っていたが……。

 彼女たちはお互いのことを見下していたし、歌姫が舞台上で倒れていた時に舞姫が嬉しそうにしていたことを思うと、舞姫の方も歌姫のことを良くは思っていなかったようだ。

 歌姫は背が低く可愛い顔立ち、舞姫は背が高くて美しい顔立ちをしていたが……他人のことを見下して不幸を喜んでいるときの醜い顔は、よく似ていたように思う。

 自分の特技で成り上がった者同士、正反対なようで似通っている部分もあって、同族嫌悪していたのかもしれないな。

「ねぇ、今日の宴で舞台袖にいたときの舞姫の様子はどうだった?」

 陛下が出ていって、寝所に入ってきた従者に早速舞姫についての報告を求める。

 舞姫の行動は歌姫の行動を調査していた時にある程度把握していたものの、歌姫がいなくなったことで行動が変わっているかもしれないことを考慮して、念の為にまた舞台袖に従者を忍び込ませていた。

「舞姫様は舞台袖では身体をほぐすことに専念しておられ、誰かと話すことはありませんでした。演舞が終わった後には何も口にすることなく、すぐに陛下のお側にお戻りになっていました」

 歌姫がいなくなって、やはり舞姫の行動が少し変化していた。

 話し相手がいなくなって舞台袖で身体をほぐすようになったし、舞台から下がる前に飲んでいた水を飲まなくなった。

 細かな違いではあるが、やはり調べておいて良かった。

 何も口にしないということは、歌姫のときのように彼女が口にするものに薬を仕込むこともできない。

 ただ歌姫がいなくなろうとも、舞姫が宴の度に舞台に立つことに変わりはない。

 だったら罠を仕掛けるのはまだまだ簡単だな。

「……歌姫と正反対でそっくりな舞姫様。絶望した時のお顔は正反対なのかしら、それともそっくり……?」

 彼女が絶望した時を想像すると、くすくすと笑いが自然にこぼれ出てしまった。

 どんな仕返しをするかはもうほぼ決まっているけど、彼女の絶望した顔がどんななのか想像がつかなくて実に楽しみだわ。

「後宮は本当に暇しない場所ね」

 穏やかだった実家での暮らしが嘘のよう。

 私はこれからの期待に胸を膨らませながら、笑顔で床についた。
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