雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ

文字の大きさ
9 / 40
第三章 舞姫の追放

第九話

しおりを挟む
 歌姫グージェンが後宮から追い出された夜、宴の後に陛下がまた私の宮まで来た。

 陛下はお前の言うとおりになったなといたく興奮したご様子で、また私を荒々しく寝台に押し倒して自分本意な時間を過ごされた。

 私は無言で従者に下がるように指示を出してから、その苦痛を黙って耐え忍んだ。

「――次は誰を追い出すのだ?」

 寝台に寝転がる陛下は瞳を輝かせながら、身支度を整えている私にそう聞いてきた。

「……舞姫ウージェン様が順当かと」

 あまりこれからの予定をこの男に話すのは、余計なことを他の人にこぼして邪魔が入りそうで気が引けるが……答えないことであれこれ詮索されても嫌なので、素直に答えることにした。

 私の答えに陛下は、舞姫か……と彼女のことを思い出しているのか、ニヤニヤと髭を撫でながら天井を眺めている。

「あの女は後宮に出入りする芸者だったのだが、あの涼し気な舞が気に入ってな。側妃にしてやったのだ。夜のアレもまた良くてな……余の下で艶めかしく身体を動かし、涼し気な瞳を潤ませながら見つめてくるのが最高であった」

 陛下は聞いていないことまで、ベラベラと話してきた。

 父に手紙を出して彼女のことを聞こうと思っていたが、その手間が省けたなと……うんざりしながらも陛下のお喋りに黙って耳を傾けた。

 すると突然、寝台で寝転っていた陛下が起き上がって身支度を整えだした。

「話していたら、アレも味わいたくなったわ」

 そう言って陛下は足早に、上機嫌に私の宮を去っていった。

 どうやら自分の宮には帰らず、そのまま舞姫の宮まで行くらしい。

 ……そういうことを普通、別の女に言うものだろうかとか、これから追い出そうという女を抱きたいというのはどういう心情なのだろうかと、欲望のままに脳みそと言動が直結しているご様子の陛下に呆れ果てた。

 他の上級妃ならば、嫉妬の炎を燃やすことであろうが……私は陛下に特別な感情はないので、快く見送った。

 何なら、さっと帰ってくれて嬉しかったくらいだ。

 これで落ち着いて次の計画について、作戦が練れる。

 ――舞姫。

 歌姫と行動することが多く、舞台上や舞台袖、それ以外でもずっと一緒だからある程度は仲が良いものかと思っていたが……。

 彼女たちはお互いのことを見下していたし、歌姫が舞台上で倒れていた時に舞姫が嬉しそうにしていたことを思うと、舞姫の方も歌姫のことを良くは思っていなかったようだ。

 歌姫は背が低く可愛い顔立ち、舞姫は背が高くて美しい顔立ちをしていたが……他人のことを見下して不幸を喜んでいるときの醜い顔は、よく似ていたように思う。

 自分の特技で成り上がった者同士、正反対なようで似通っている部分もあって、同族嫌悪していたのかもしれないな。

「ねぇ、今日の宴で舞台袖にいたときの舞姫の様子はどうだった?」

 陛下が出ていって、寝所に入ってきた従者に早速舞姫についての報告を求める。

 舞姫の行動は歌姫の行動を調査していた時にある程度把握していたものの、歌姫がいなくなったことで行動が変わっているかもしれないことを考慮して、念の為にまた舞台袖に従者を忍び込ませていた。

「舞姫様は舞台袖では身体をほぐすことに専念しておられ、誰かと話すことはありませんでした。演舞が終わった後には何も口にすることなく、すぐに陛下のお側にお戻りになっていました」

 歌姫がいなくなって、やはり舞姫の行動が少し変化していた。

 話し相手がいなくなって舞台袖で身体をほぐすようになったし、舞台から下がる前に飲んでいた水を飲まなくなった。

 細かな違いではあるが、やはり調べておいて良かった。

 何も口にしないということは、歌姫のときのように彼女が口にするものに薬を仕込むこともできない。

 ただ歌姫がいなくなろうとも、舞姫が宴の度に舞台に立つことに変わりはない。

 だったら罠を仕掛けるのはまだまだ簡単だな。

「……歌姫と正反対でそっくりな舞姫様。絶望した時のお顔は正反対なのかしら、それともそっくり……?」

 彼女が絶望した時を想像すると、くすくすと笑いが自然にこぼれ出てしまった。

 どんな仕返しをするかはもうほぼ決まっているけど、彼女の絶望した顔がどんななのか想像がつかなくて実に楽しみだわ。

「後宮は本当に暇しない場所ね」

 穏やかだった実家での暮らしが嘘のよう。

 私はこれからの期待に胸を膨らませながら、笑顔で床についた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...