うり坊、浄化で少女になった

秋の叶

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大陸を移動する猪

簡易トイレ

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 ワンが寝ている建物に転移で戻ると、彼はぐっすりと眠ったままだった。
 やっぱり疲れているんだね。
 そっと回復と治癒の魔法をかける。
 私は少し離れた場所で人型結界で保温して寝た。


 翌朝、早朝に起きたと思われるワンに起こされる。
「おい、起きろ。移動するぞ。」
 私が起きたのを確認すると、またもや目隠しされたが、猿轡はされなかった。
 泣いたりわめいたりしないから不要だと判断してくれたようだ。

 これ、普通にこの年代の子供は泣くと思うよ?
 同じ年ごろの子供にこんな事をしないで欲しいと切実に思う。
 昨日と同じく周囲には複数の人の気配がするけれど、話し声は一切聴こえない。

 何処に向かっているのか分からないけれど、台車か何かに乗せられてガタゴトと移動する。
 お尻どころか体のあちこちをぶつけて痛いし、舌を噛みそうになるし、酔いそうだし・・・毎回同じ理由になるけれど、私は寝たよ。
 吐きたくないからね。

 どこかに到着したのか、また起こされる。
「起きろ。」
 なんだろう・・・デジャヴ。
 ああ、ジェドに運ばれている時もこんな感じだったんだ。
 目隠しはされていなかったけれど。

「厠だ。」
 目隠しを外し、一言だけ説明されたので大人しく付いて行って用をた・・・せないよこれ。
 ドアが無いんですけど?
 仕切りすらないです。
 そういえば聞いたことがあった。
 でも『そんなおとぎ話のような事があるの?』と本気にしていなかったけれど、今、私は目の前に見ている。
 トイレらしき穴が開いたところで身動きできずにいると、後ろから急かされたので、横に避けて『お先にどうぞ』のジェスチャーをした。

 いくら子供の姿でも、私には無理だ。
 せめて壁(目隠し)があればさっと済ませて洗浄するのに。
 山の中の茂みの方がましだと戻ってワンに伝える。
「一人きりで用を足す方が不安じゃないか?見ていてやるから安心しろ。」
 乳幼児が親族の見守りで行うのと違って他人だよ?しかも異性だよ?どこに安心する要素があるの?
 全く言葉が通じなかった。
 私は見られたら安心できるどころか不安だよ。怖いよ。
 お願いだから人目に付かない場所で休憩したいとごねました。
 郷に入っては郷に従えと言うけれど、攫われてこれでは従いたくないというか、生理的に無理。

 なんだろう、ノーパン以上の衝撃を味わってます。
 そういう文化なんだと言われて、否定はしないよ?
 ただ、私には無理というだけなんだよ。
 え?私がおかしいの?

 もういっそ衣服を付けたまま用を足して、丸ごと洗浄したい。
 うん、そうしよう。
 洗浄魔法万歳!

 その後、また目隠しをして移動し、日が暮れる頃には周囲にいた人がいなくなってどこかの建物の中に案内され、そこで目隠しを外される。
 この人達、ご飯を全く食べていないけれど大丈夫なの?

 私はまたもやワンと部屋を丸ごと洗浄し、バックからおにぎりを取り出して一つ渡す。
「もらう。」
 昨日は無言でかぶりついていたけれど、今日は一言言ってから食べ始めた。
 流石に二回目なので慣れつつあるのかもしれない。
 バックから木の椀を取り出して生活魔法でお湯を入れて椀に渡す。
「温かい内にどうぞ。」
 手足を温める為ではなく、飲むためのお湯に恐る恐る口を付け、適温になったところで一気に飲んでごろりと横になった。
 
 私はトイレに行くふりをしてハマのアパート前に転移し、文字伝達魔道具を確認する。
『こっちに来られるタイミングになったら連絡なしで栞さんの所に転移していいぞ。』

 大きなテーブルがある応接間兼作業部屋だった場所に転移する。
 三人の顔を見たら泣けてきた。
「うわぁーん。私の言葉が通じる人がいるー。」
 わーわー喚きながら栞の胸に飛び込んだ。
「え?ちょっ、しのちゃんどうしたの?」
 おろおろする栞。
「何があったのかしら?泣き終わったら話してね。」
 私の扱いに慣れた蓮。熟練者か。
「お疲れさん。とりあえず何か食べるか?」
 食事の心配をしてくれる颯。

 ひとしきり喚いてすっきりしたところで、一旦トイレに行き、戻ってくると準備されていたご飯を食べながら今日の話をする。
 といっても、寝ていた事とトイレ事情しかないけど。
「あー聞いたことがあるわね。以前の世界でも2015年になってからようやく『トイレ革命』があったのよね。」
「そうなると、これから行くところは全部そんな感じじゃないか?」
 うっ・・・私の精神状態が試されている気がする。
「えーっとあれよ、災害時の個人用トイレ。試着室みたいなものを畳んで持って行く?」
 栞の発言にがばりと顔を上げる。
「栞さん!それだ!それだよ!まるごと結界を張れば中にいても怖くないし。今から布を縫う!」

 以前蓮から作ってもらったミシンを取り出し、布を選んでズダダダダダダーと直線縫いをする。
 骨組み部分は颯が細工をしながら作ってくれたので簡単に畳めるようになる。
 蓮が長いファスナーを鍛冶魔法と物質変化を駆使して作ってくれたので、一緒に縫いこんだ。
 丸椅子に穴を開けて小さな桶を嵌め込んで完成。
 洗浄魔法で後始末できるから便利。

 子供の私が使うサイズなので、コンパクトな作りになって丁度いい感じ。
 他の人は困っていないようだし、私専用トイレが出来た。
 私の尊厳が守られた気がする。

「今のところずっと目隠しのまま移動しているので、とんでもなく奥地まで運ばれている感じなんですよね。脱走しても逃げられないような場所に行くんじゃないかと思ってます。」
 ご飯を食べて落ち着いたところで今後の話をする。

「しのちゃんじゃなかったら途方に暮れる距離よね。」
「そいつらの目的地っていうか住処?に着いたらどうするんだ?」
 しみじみと蓮が言い、颯は行動計画を聞く。

「まずは昔教会の人が行った形跡を確認したいですね。魔道具があったら使えそうですし。もしかしたら魔力の補充方法すら失伝しているかもしれないので、魔道具だけでも使えるようになったら随分楽になるはずなので。」
 うんうんと栞が頷く。
「洗浄と水差しの魔道具があるだけで衛生環境が劇的に変わりますよね。」
「でしょう?そこを確認したくって。」

 暫くはワンと移動する日が続きそうだが、あの人達ご飯をどうしているんだろう?
 まだ春だけれどなんだか気温が高いから熱中症になるんじゃないかと心配になる。
「道中で何か食べられそうなものがあった時には焼いて香辛料をかけるだけでも味わえるから。」
 そう言って栞が調味料セットを持たせてくれた。ありがたい。

 四人でひとしきり話し、付与の仕事をしてからワンがいる謎の建物に戻る。
 ワンは昨日と同じようにぐっすりと眠っていたので、私も自分が寝る場所を確保して横になった。

 
 翌朝は昨日と同じように早くから起こされ、目隠しをされて移動する。
 途中のトイレ休憩では、穴の開いた建物の横に自分のトイレを出して済ませる。
 メッセンジャーバックから取り出した瞬間、ワンをはじめ周囲の人にぎょっとされたが華麗にスルーしてファスナーを開けて中に入り、インベントリから便座代わりの丸椅子を出して用を足して洗浄して出る。
 簡易個室を折り畳んでバックに入れるとワンが眉間にしわを刻んで睨むが気にしない。
 おばちゃんの図々しさを発揮してやるんだ。

 再び移動するために目隠しをされるが、気になっていた事を聞いてみる。
「ご飯はどうしているんですか?」
「出る前に食べている。」
 顔は見えないので分からないが、不機嫌な気配で答えが返ってきた。
 そうか、早起きしないと食いっぱぐれるというわけか。
 まぁ、私はお弁当もあるし、向こうに転移すると食べられるからこのままでもいいけどね。

 三日目に水辺で休憩時間が取られた。
 池なのか湖なのか川なのか分からなかったけれど、何かが泳いでいるのが見えた。
 目隠しされる前にワンに『あれは何?』と聞いたところ、湖の魚だという。
 食べられるのかと聞けば、食べられるというし、釣ってもいいのか?と聞けば出来るならなと鼻を鳴らす。
 ちょっと見せてくれと頼みこんで湖の縁まで移動し、あたりを付けて結界魔法で囲って引き上げる。

 水が引き挙げられ、その中を魚が泳いでいる様子に目を剥いていた。
「この魚、食べる人ー?」
 振り向いて聞けば、ワンを始めとしてまだ名前も知らない男達全員が手を上げていた。
 全員で六人だったので、結界の中の魚をつかみ取ってバックの中から出したナイフで締めていく。
 一人につき二匹の魚を洗浄して渡し、残りは湖に返した。
「あぁぁ・・・。」
 もったいないと言いたそうな声が聞こえたけれど、腐らせるわけにいかないからね。
 
 目隠しをされて暫く移動し、着いたところで石で組んだ竈が作られて魚を焼き始めた。
 調味料を持っているのか分からないけれど、焼いて食べるつもりらしい。
 飲み物を入れる器はあるのかと聞けば、少し上にあげて見せるので、その中に魔法で水を入れたらワン以外の人に驚かれた。

 私は釣りで能力が少し上がったし、誘拐犯達は食事にありつけたようで何よりだ。
 六日ほど同じような生活が繰り返され、目的地らしきところに到着した。


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