うり坊、浄化で少女になった

秋の叶

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大陸を移動する猪

誘拐に乗る

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 春の換羽期に入ったアヒルの羽毛と、調理用に加工されたアヒルから毟られた羽毛を受け取るため、ジョーカイに転移した私は、加工のための認可施設に入る直前に何者かに誘拐された。

 目隠しと猿轡をされて担がれ、何かに乗せられて移動した先で会ったのは、ひょろりと痩せた男性だった。
 複数いたはずの人達がいなくなり、目隠しを取っても猿轡を外しても騒がない私に、その人は『ワン』と名乗った。
 犬の鳴き声じゃなくて、以前の世界だったら多分『王』という文字じゃないかと思われる。

 私は誘拐犯にちゃんと名乗る気がしなかったので、ちょっと考えてヂューと名乗った。
 日本語で言えば猪の事だけれど、ジョーカイのある国では豚の事を言うと思う。
 日本でいう所の猪は言い方が変わるんだって。
 
 私が名乗ると思いっきり変な顔をされたよ。
 自分で『私は豚です。』って言ったようなものだからね。
 いいの、元猪だから。

 誘拐の目的は、西洋化が進むジョーカイと貧困にあえぐ農村部との格差というか、政策の違いに憤りを感じ、なんとか生活を立て直したいがための苦肉の策だったのだという。

 ジョーカイでは教会の影響が強く、魔法も魔道具も当たり前のように使われているけれど、ワンがいる農村部などは魔道具も魔法もほとんど見かけないそうだ。
 随分前に魔道具を持った教会の人が来た形跡があるが、教会の人がいなくなり、魔道具が使えなくなったらそれきっり使えなくなったという。

 そこで今回、子供(つまり私)が魔道具をホイホイ配っていると聞きつけて、何とか手に入れて生活を立て直せないかと考えたらしい。
 ・・・ちょっと落ち着いて行動してほしかったけれど、追い詰められていたのかもしれないなぁ。
 でも誘拐はダメよ?

 身の危険が無いから状況だけでも確認しに行こうと思ったのは、ワンがあまりにも細かったから。
 マサやキヨがいる村も決して裕福とは言えないけどさ、それでも住む場所がきちんとあって、食べるものが育てられて、衣類もそこそこ揃ってきている。
 衣食足りて礼節を知るって本当にその通りで、他人を思いやる気持ちがあったもの。お陰で私は助けられた。
 切羽詰まった状態だと周りを見る余裕が無くて、ふと顔を上げた時に自分には無いものが見えたら奪う事を考える人が出てくる。殺伐とした環境があっという間に出来てしまうんだろうなと感じる。
 
 学院の先生や支援者の皆さんと対極にいる感じがしたので、複雑な思いになった。
 こういうのってもっと偉い人達が考えて対策するんだろうし、子供が動く事じゃないのかもしれないけれど、中身がおばさんの私は出来る事があるかしら?と老婆心が顔を出しちゃったんだよね。
 
 とりあえず今日は今いる謎の建物内で一泊して、明日の朝からまた移動するのだそう。
 他の人達は別々の場所に分かれて潜伏しているそうで、明日の朝に合流するという。
 え?何も食べずに過ごす気ですか?そうですか。
 まずは一人になる時間を確保して、連絡を取ったりしたいのだけれど・・・。

 お腹が空いていたらイラつくでしょうし眠れないだろうから、斜め掛けしていたメッセンジャーバックから取り出したように見せかけてインベントリから何か食べ物を出そう。
 その前に、この部屋とワンを丸ごと洗浄する。
 生活魔法を使う際には口の中でごにょごにょ適当に唱えた。

 唐突に魔法を使って洗浄したものだから、目を剥いています。
 驚かせてごめんね?
「食べませんか?」
 そう言っておにぎりを渡すと更に口を開けて固まっていたけれど、食べ物の誘惑には抗えなかったようで、ごくりと唾を飲み込んだ後にかぶりついた。
 食べ終わったところでその辺にあった桶にぬるま湯を出し、手足を浸してもらう。
 足湯や手湯って体を温めたい時に良いんだよね。

 お腹を満たして温まったら眠くなったのか、ワンがごろりと横になった。
 きっと疲れもあったんだろうなぁ。
 私はトイレに行くふりをしてそっと転移した。
 アパートの入り口前で通話の魔道具を取り出し、颯の応答を待つ。
「しのか、今日は遅かったな。」
「こんばんは颯さん。ちょっと誘拐されちゃって、今アパートの前なんですけど、お邪魔しても良いですか?。」
「は?誘拐?とりあえず、蓮と栞さんと三人でいるから来られるか?」
 返事をしてすぐに栞が滞在中の部屋に移動する。
 
「ちょっとしのちゃん、誘拐って何事?大丈夫なの?」
 真っ先に蓮さんが私の状態を確認に来てくれた。

 アパートで今日あった事をざっくり報告する間、栞さんは持ち歩ける食べ物を手早く準備してくれる。
 今後を考えるとありがたい。
 颯には文字伝達の魔道具にメッセージが送信された状態で教会に行ってもらい、フェリクスに私が誘拐されたと報告して欲しいと頼んだ。
 学院へは誘拐の話を伏せ、留学する事になったと言い訳をして、退学か休学の判断をフェリクスにしてもらう。
 教会には時々颯が連絡を入れる風を装って欲しいと言うと、呆れつつも了承してくれた。
 蓮は使いそうな魔道具を持たせてくれたので、代金を払おうとしたら却下される。
「結界もあるし、転移が出来るから大丈夫だと思うけれど、中身がどうこうじゃなく、ちゃんと大人を頼るのよ?」
 反対せずに助けてくれる仲間ってとてもありがたいなぁ。
 今後の憂いを無くすためにも、状況をしっかり確認してきたいと思います。


* * * * * * 


 平日の午後は学院帰りに俺達と合流して仕事をする事が多いしの。
「ジョーカイに羽毛の引き取りに行ってくる。」と文字伝達の魔道具にメッセージを送信した後から連絡が無い。
 いつもだったら帰ってくる時間になっても音信不通だった。
 まだ子供の体だし、疲れて寝ているのか?
 別件に突撃して夢中になっているんだろうか?
 そんな事を思いながら、エゾチで使う建物を作ってインベントリに入れる作業をしていた。

 ハマのアパートのしのの部屋だったところに移動し、栞が出してくれる料理を待ちながら蓮と一緒にテーブルに着く。
 そろそろ出来上がる時間だと思っている所に、音声伝達魔道具が光る。
 応答するとしのからだった。
「ちょっと誘拐されちゃって、今アパートの前なんですけど、お邪魔しても良いですか?。」
 いきなり物騒な単語が飛び出して、思わず聞き返す。
「は?誘拐?とりあえず、蓮と栞さんと三人でいるから来られるか?」

 へらっと笑って転移してきたしのは無事なようだ。
 しかし、ジョーカイでの話を聞いて肝が冷えた。
 目隠しの上に猿轡で荷物担ぎ・・・。
 結界があって良かった・・・。

「このまま逃げても良いんだけどね。それだと根本的な解決が無いから、また誘拐の可能性があるでしょ?もしかしたらもっと乱暴な手段を使われるかもしれない。そうなると周囲への被害も出そうだから、このまま攫われて状況を確認しようかなと思って。」

 のほほんと今後について話している。
 相談も何もなく、本人なりに決めてしまったようだ。
「お手数をかける事になって申し訳ないのだけれど、教会の誰かか責任者のフェリクスさんに簡単な事情を伝えてもらえるかな?」
 しのが覚悟しているなら、ホテルの建築を手伝ってもらった俺は出来る限りバックアップしようと思う。


 俺はしのに案内されて教会の前に移動する。
 しのはアパートに戻って付与の仕事や他の準備を進めるそうだ。

 教会でしのについて緊急の用事だと伝えると、先に赤毛の女性が来て用件を聞いた。
 文字伝達魔道具に『学院帰りに誘拐されました。船でどこかに向かっています。暫く帰れないかもしれません。すみませんが学院は休学か退学の手続きをお願いします。と教会の人に伝えてください。』と送信された文字を見ると、目を見開き驚いた様子で『少しお待ちください。』と応接室に俺を案内していなくなった。

 暫く待つと、年配の男性が来て正面の椅子に腰かける。
「初めまして。この教会の責任者のフェリクスだ。君はしのの知り合いか?」
 俺は立ち上がって自己紹介する。
「初めまして、夜分に突然訪問してすみません。私はしのさんの友人の颯と言います。夕方、彼女からこのような伝達があったので、こちらに知らせに伺いました。」
 着席し文字伝達の魔道具を取り出して、フェリクスが見やすいように文字版をすっとテーブルの奥に押し出す。

 書かれた文字を見て吃驚している様子のフェリクス。
 深く、静かな呼吸を数回繰り返し、落ち着いた様子で口を開く。
「この道具は?」
「以前から販売されている文字伝達の魔道具です。対になっている板同士で文字のやり取りができます。
手紙よりも早く文字が伝わるので、重宝しています。」
「なるほど。これは彼女と対になっている魔道具という事なんだな?」
「はい。」

 顎にこぶしを当て、暫く無言になるフェリクスをじっと見つめて待つ。
「君はこの文字を見て、何を感じ、どう判断した?」
 俺は目を逸らさずに答える。
「まず、文字が書ける状態であった事から両手が自由であるという事。目隠しなどもされていないという事。荷物を奪われていない事がわかるので、現時点では最悪の状況ではないだろうと考えています。」
「そうだな。」
「それから、学院について言及しているので、大型船に乗せられていると把握している可能性と、外洋に出ていると本人が感じている事が読み取れます。」
「ふむ。」
「命の危険が無ければ、彼女は賢く立ち回ると思うので、相手と交渉して帰ってくるかもしれません。」

 暫く無言が続いたが、伝えるべきことは伝えたので、状況に変化が無いことから俺は退室する事になった。
 また何かあれば報告に来る約束をして教会を後にした。

 ハマのアパートに戻ると誘拐された当の本人が出迎える。
「おかえりなさい。伝言係をしてくれてありがとうございます。」
「ただいま、赤い髪の女性は慌てるし、眉間にしわのある男性はずっと考え込んでいるしで、ちょっと気まずかったぞ?」
「すみません。本当にすみません。」
「まぁ、俺達はしのが無事な事を知っているから良いけれど、向こうは知らないから不安だろうな。」
 ですよねー。と棒読みしながら今後の話をしていく彼女は、せっせと食べ物や魔道具を収納していた。

「衣食住が整わないと荒んでいくだけだろうから、ちょっと様子を見てくるよ。颯さんがエゾチでやっている事とそんなに変わらないかもね。」
 そう言って誘拐された場所へ転移で戻って行った。



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