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3.弟のエスコートと私の弱音
しおりを挟む「姉さん、緊張してる?」
「そうでもないわ。
今日はエリカ叔母様が主催のパーティで見知った顔ばかりだし。
それに、あなたがいるもの」
エスコートがアレックスなので気負うこともない。
純粋に楽しみだった。
「それ、僕じゃない相手に言った方がいいんじゃない?」
「あなた以外にこんなことを言う相手はいないわ」
婚約者は私を夜会に連れて行くのを嫌がるし、父と兄はそもそも夜会にあまり出ない。
アレックスは私の言葉に肩を竦めて話を終わらせると叔母様に挨拶に向かう。
「まあ! 2人ともいらっしゃい。
少し見ないうちに2人ともすっかり素敵な紳士と淑女になったわね」
「お招きありがとうございます。
未熟な身ですが、叔母上にそう言っていただけると励みになります」
「お久しぶりです、叔母様。
アレックスは毎日頑張っていますもの。
だから私もこうして安心してエスコートを任せられますわ」
身長も私に並ぶくらいになったし挨拶も堂々として頼もしいわ。
「まあ、ふふふ。
相変わらず仲の良いこと。
あなたも花嫁修業で気を張っているのではなくて?
今日はゆっくり楽しんでいらっしゃい」
「ありがとうございます」
2人で礼をして移動する。途中父の仕事の関係者や叔母様の親族(母の親族でもある)に挨拶をしながら飲み物を取れる場所まで来た。
こうしてパーティに参加するのは苦ではない。
それにしても……。
「どうして覚えられないのかしら」
「なにがさ」
独り言のつもりだったけれどエスコートをしている弟には聞こえていた。
素直に答えるのを迷ったけど辺りを見回して人がいないのを確認して口を開いた。
弟に自分が不出来だと晒すのは情けないけれど、日々勉強を頑張っている弟になら呆れられても仕方ないかと思う。
「婚約者の親戚が覚えられないの。
いずれ自分の親戚にもなるのに失礼だし情けないわ」
「待って、姉さん別に人を覚えるの苦手じゃないよね。
今日だって挨拶した人はちゃんとわかってたでしょう。
それなのに婚約者の親戚は覚えられないって?」
「うちよりももっともっと親戚が多いのよ。
辞典のような本とずっと見つめ合ってるのに全然覚えられる気がしないわ」
実際何か月もずっと見ているのに全く頭に入らない。
覚えたと思ってもこの前のように兄と弟を間違えて答えてしまうくらいだ。
「辞典? 家系図じゃなくて?」
「そう、まさに辞典よ。
小さい文字で名前が順に並んでいてその方の来歴から好んだ食事の内容までびっしりと。
おもてなしのためには覚えないといけないのはわかるから頑張って読んでいるのだけれど、どうしてもすんなりとは覚えられないのよね」
重要な方から順に教えてほしいとお願いしてもダメでほとほと困っている。
本当に私、嫁ぐ前に覚えられるのかしら。
「……なるほど」
アレックスが神妙に頷く。
こんな弱音を吐いてしまって呆れられるかと思ったけれどアレックスは私を馬鹿にするようなことはなかった。
「姉さんが疲れてた理由がわかった。
努力が中々実を結ばないのは辛いよね」
優しい労りを表してくれるアレックス。
ただ、次に言われた事実が少し胸に重たく感じた。
「やっぱり、姉さんにあの侯爵家は釣り合わなかったんじゃないかな」
「……そうね」
私よりも辞典を暗記できるような才女が相応しいのではないかと、自分でもそう思った。
◇◇◇
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