好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう

文字の大きさ
25 / 43
ミラ編

ミラの帰還

しおりを挟む
「さあ マリアンヌ入って。ヘルマン様は時間が無いのよ」

 ミラが足早にエミールとマリアンヌを院長室に招き入れる。

「マリアンヌ こちらはエミール・ヘルマン様 あなたが言っていたエミリアのお父様だという方。わたくしの手紙を読んでわざわざ本土からおいでくださったの」

 マリアンヌがおずおず入って来て扉の前に立っている。ミラと院長をすがるように見つめた。

「この人はあたしの言ってたエミールではないです。あたしのエミールはエミリアにそっくりでサラサラのプラチナブロンドの髪に碧眼なんです。まるで王子様みたいにキラキラしてるんです。だからその人は違います。人違いだと思います。せっかく探してもらったのにごめんなさい」

 言うだけ言ってマリアンヌが出て行った。
エミールが後ろ姿を見ていたが院長に座るように促された。

「エミリアの父親は黒髪黒目のヘルマン様ではありませんでしたね」

 院長はため息をついた。

「そうですね。茶色の髪に茶色の目のあの子は当時マリアンヌと関係のあったドルン侯爵の息子のディビスによく似ていると思います。と言っても彼はもう処刑されてますが」

 ミラが驚愕に目を見開いた。重ねて院長がエミールに尋ねる。

「マリアンヌの言うプラチナブロンドに碧眼の人に心当たりありますか」

「王太子殿下だと思います。もちろんなんの関係もありませんでしたが、マリアンヌは王太子殿下に恋をしていました」

「王太子殿下に……」

 ミラが呟く。

「院長、ホーク伯爵に頼まれたのですが、マリアンヌの件がはっきりしたら、ミラ嬢を伯爵家に戻して欲しいと」

 ミラがハッとしたように物思いからもどる。

「兄がお願いしたのですね。ですが精神が不安定なマリアンヌの子育てを手伝ってやらないといけないので、このままここにいようと思っています」

 ミラは視線を自分の掌に移し、指先をじっと見る。

「わたしはマリアンヌがおかしいことに何となく気がついていたけれど、ヘルマン様が茶色の髪に茶色の瞳の方だとずっと思って自分の気持ちを抑えておりました。エミリアの髪は茶色なのに、なぜプラチナブロンドとマリアンヌが言い張るのかよく考えるべきだったと今なら思います」

「院長 マリアンヌを医者にみせませんか?エミリアが育っていくにあたってマリアンヌがこのままでいいとは思えません。本土に戻ってマリアンヌを医者に見せて、エミリアを養育してくれるものを付けたらどうでしょうか」

「そうですわね。このままにしてはエミリアの将来によくありません。ミラもいい加減ここを出る決意をしなければいけません。元々あなたにとってここは仮の場所だったのだから」

「ミラ嬢がついて来てくださるなら心強いです。ですがまず本土で三人を受け入れる準備をして来ます。ホーク伯爵家ではミラ嬢の還俗手続きを進めていると聞きました。すべて揃いましたら迎えに来ます」

「よろしくお願いします。私もミラとマリアンヌとエミリアがすぐに出ていけるように準備します」

「わかりました。それでは今日はこの辺で」

 院長室を出るとエミリアが待っていた。

「おじさん、おじさんはエミリアのパパじゃないんだよね?ママがエミリのパパはプラチナブロンドだって言うから」

「パパじゃないけど、また来るね。」

 エミリアにちぎれんばかりに手を振られて出て行く船のデッキでエミールはなんとも言えない気持ちになった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

婚約破棄は夜会でお願いします

編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。 夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。 お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか? お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。 待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!

旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。 なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。 そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、 「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」 突然夫にそう告げられた。 夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。 理由も理不尽。だが、ロザリアは、 「旦那様、本当によろしいのですか?」 そういつもの微笑みを浮かべていた。

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...