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第一部「ブレナード反逆編」
第21話:反逆の終焉と、誓いの朝
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剣戟の音が静かに止んだ。
仮面舞踏会という名の“劇場”は、終幕を迎え、白い大理石の床には、倒された男たちの影が横たわっていた。
血ではない。
失ったのは地位と信頼、そして未来――反逆者たちの“野望”そのものだった。
「すべて、拘束完了です」
私兵隊長の報告に、アレクシスは頷きながら剣を収めた。
玉座の階段下、ひとりひざまずく女――エレーヌ・ブレナード。
華やかだった銀糸のドレスは乱れ、髪はほどけ、その瞳だけがまだ、“何か”を諦めていないように輝いていた。
「……ねえ、レイナ様。あなたは“正しさ”を証明したけれど、それで何を得たの?」
その問いに、私はほんの少しだけ微笑んだ。
「――心ですわ」
「……は?」
「剣でも、権力でもなく。“誰かの心を信じること”を、私は選びました。
それが、この国の未来を育てる唯一の方法だと、あなたを通じて気づけたから」
エレーヌは、はっと目を見開いた。
そして、静かにうつむいた。
「……きっと私は、その優しさが、何よりも怖かったのかもしれないわ」
その言葉を最後に、エレーヌは何も言わなくなった。
玉座の衛兵たちが、ゆっくりと彼女を連行していく。
――こうして、ブレナード家の“二度目の反逆”は終わった。
* * *
夜が明けていた。
仮面舞踏会の喧騒が去った王宮は、まるで長い夢から醒めたように静けさを取り戻していた。
私は一人、王妃陛下の執務室に呼ばれていた。
「……見事に果たしましたね、レイナ」
王妃は優しく笑いながら、私に一通の手紙を差し出した。
「あなたの父上、アルセリナ伯爵。今、南の療養所にて保護されております。ブレナードの手が届かぬ地で、ひそかに匿われていたのです」
「……ご無事なのですね?」
「ええ。“誤って”亡くなったことにされたのも、身を守るためだった。……貴女が無事に戦いを終えたとき、再会させるようにというご本人の願いでした」
涙が、すっと流れた。
安堵でも、悔しさでもない。
“見届けてもらえた”という静かな感情が胸に灯り、私は深く頭を垂れた。
「……ありがとうございます」
* * *
正午前。
グランデ侯爵邸。
私は久々に“ただのドレス”に身を包み、庭に咲いた春の花を一輪、手折っていた。
「……似合うよ、そういう姿も」
声の方を振り返ると、アレクシスが、普段の騎士服ではなく私服に近い装いで立っていた。
「珍しいですわね。そうした姿」
「お祝いだからな。“戦いの終わり”という、ね」
彼は私の隣に立ち、手にしていた小箱を差し出した。
「これは?」
「開けてごらん」
中に入っていたのは、細身の銀の指輪。
中央には、小さな蒼石がひとつだけはめ込まれていた。
「……アレクシス様」
「“契約”ではない、“夫婦の証”を。ようやく渡せる気がした」
私は、何も言えなくなった。
ただ頷き、彼の手の中に指を差し出す。
指輪は、吸い込まれるようにぴたりとはまった。
「……誓います」
「僕も。君とともに歩む日々を、もう誰にも脅かさせない」
そして私たちは、言葉なく抱きしめ合った。
* * *
その後。
王政は再編され、王妃陛下は名実ともに国母として信を取り戻し、ブレナード家の一族は辺境へと追放。
エレーヌ本人は、王命により死罪を免れ、修道院にて幽閉となった。
そして私たち――
レイナとアレクシス・グランデ夫妻は、すべての役目を果たしたあと、数週間の休暇を得て、誰も知らぬ小さな港町へ旅立った。
肩書きも、剣も置いて。
ただの、ふたりの人間として。
仮面舞踏会という名の“劇場”は、終幕を迎え、白い大理石の床には、倒された男たちの影が横たわっていた。
血ではない。
失ったのは地位と信頼、そして未来――反逆者たちの“野望”そのものだった。
「すべて、拘束完了です」
私兵隊長の報告に、アレクシスは頷きながら剣を収めた。
玉座の階段下、ひとりひざまずく女――エレーヌ・ブレナード。
華やかだった銀糸のドレスは乱れ、髪はほどけ、その瞳だけがまだ、“何か”を諦めていないように輝いていた。
「……ねえ、レイナ様。あなたは“正しさ”を証明したけれど、それで何を得たの?」
その問いに、私はほんの少しだけ微笑んだ。
「――心ですわ」
「……は?」
「剣でも、権力でもなく。“誰かの心を信じること”を、私は選びました。
それが、この国の未来を育てる唯一の方法だと、あなたを通じて気づけたから」
エレーヌは、はっと目を見開いた。
そして、静かにうつむいた。
「……きっと私は、その優しさが、何よりも怖かったのかもしれないわ」
その言葉を最後に、エレーヌは何も言わなくなった。
玉座の衛兵たちが、ゆっくりと彼女を連行していく。
――こうして、ブレナード家の“二度目の反逆”は終わった。
* * *
夜が明けていた。
仮面舞踏会の喧騒が去った王宮は、まるで長い夢から醒めたように静けさを取り戻していた。
私は一人、王妃陛下の執務室に呼ばれていた。
「……見事に果たしましたね、レイナ」
王妃は優しく笑いながら、私に一通の手紙を差し出した。
「あなたの父上、アルセリナ伯爵。今、南の療養所にて保護されております。ブレナードの手が届かぬ地で、ひそかに匿われていたのです」
「……ご無事なのですね?」
「ええ。“誤って”亡くなったことにされたのも、身を守るためだった。……貴女が無事に戦いを終えたとき、再会させるようにというご本人の願いでした」
涙が、すっと流れた。
安堵でも、悔しさでもない。
“見届けてもらえた”という静かな感情が胸に灯り、私は深く頭を垂れた。
「……ありがとうございます」
* * *
正午前。
グランデ侯爵邸。
私は久々に“ただのドレス”に身を包み、庭に咲いた春の花を一輪、手折っていた。
「……似合うよ、そういう姿も」
声の方を振り返ると、アレクシスが、普段の騎士服ではなく私服に近い装いで立っていた。
「珍しいですわね。そうした姿」
「お祝いだからな。“戦いの終わり”という、ね」
彼は私の隣に立ち、手にしていた小箱を差し出した。
「これは?」
「開けてごらん」
中に入っていたのは、細身の銀の指輪。
中央には、小さな蒼石がひとつだけはめ込まれていた。
「……アレクシス様」
「“契約”ではない、“夫婦の証”を。ようやく渡せる気がした」
私は、何も言えなくなった。
ただ頷き、彼の手の中に指を差し出す。
指輪は、吸い込まれるようにぴたりとはまった。
「……誓います」
「僕も。君とともに歩む日々を、もう誰にも脅かさせない」
そして私たちは、言葉なく抱きしめ合った。
* * *
その後。
王政は再編され、王妃陛下は名実ともに国母として信を取り戻し、ブレナード家の一族は辺境へと追放。
エレーヌ本人は、王命により死罪を免れ、修道院にて幽閉となった。
そして私たち――
レイナとアレクシス・グランデ夫妻は、すべての役目を果たしたあと、数週間の休暇を得て、誰も知らぬ小さな港町へ旅立った。
肩書きも、剣も置いて。
ただの、ふたりの人間として。
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