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第三部「継ぐ者の光、試される未来」
第2話:来訪の姫と、揺れる少女
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春風が王都の並木道を揺らした午後、
一台の豪奢な馬車が、王宮正門をくぐった。
旗には東方連邦の紋章。
そしてその扉から降り立ったのは、瑠璃色の瞳を持つ小さな姫――ソフィーナ・ユリシール姫であった。
「東方からの賓客……“同い年の姫”?」
エリアは、王妃陛下の私室でその名を初めて聞かされた。
「そう。文化使節として、短期間王都に滞在なさいます。
ただの訪問ではありません。正式な“視察”を兼ねていると聞いています」
王妃陛下は穏やかな笑みを保ちながらも、その目には鋭い光が宿っていた。
「エリア。あなたがどう振る舞うかを見て、
“この国の未来”を測ろうとする者たちがいます」
「……わたしが、“未来”なの?」
「そう見ている人たちがいる、ということ。
でも、それを信じる必要はないわ。あなたが“あなた自身でいられる限り”、それでいい」
王妃の手が、そっとエリアの肩に置かれる。
「貴女の母は、いつだって“自分の声”で世界を変えたの。
だからあなたは、ただ“自分の心”を守っていればいいのよ」
* * *
その夕刻、王宮南庭での小さな歓迎式典。
エリアは白いドレスに身を包み、父・アレクシスの隣に立っていた。
そこへ現れたのが――
「ソフィーナ・ユリシール、東方連邦よりまかりこしました。
王女ではなく、ただの“姫”として参上しました」
澄んだ声。
けれど、その背筋の伸び方と目の高さは、“まるで大人”だった。
「あなたが……エリア?」
「う、うん。はじめまして……」
「私は剣も学んでいるの。
言葉の国には、強くなるための“別の方法”があると聞いて、来たのよ」
言葉の国――
それは、レイナのことだと、エリアはすぐに察した。
「ねえ、あなたの“お母様”って、本当に剣を持たずに国を守ったの?」
「あ……うん。でも、わたしは……まだ、よくわかんない」
ソフィーナは微笑んだ。
「そう。でも、きっとあなたの中にも、なにかあるはずよ」
それが脅しでも侮蔑でもないと分かっていながら、
エリアの心には、冷たい石が落ちたような感覚が残った。
“わたしの中に、なにか……ある?”
* * *
夜。
レイナの書斎にエリアがやってきた。
「お母様……わたし、“未来”に選ばれたくない」
「……エリア」
「だって、ソフィーナ姫は剣が持てるのよ?
わたしは、怖くて何もできないの。お母様みたいになれる気がしない」
レイナは椅子から立ち上がり、娘の前にしゃがみ込む。
「エリア。私が“剣を持たなかった”のは、怖かったからよ」
「……え?」
「本当はね。たくさん怖かった。
でも、“怖い”って思えるからこそ、“傷つけたくない”って思えたの」
「……じゃあ、わたしが怖がりでも、いいの?」
「もちろん。あなたはまだ七歳よ。
焦らなくていい。“怖がること”も、“守られること”も、全部、いまのあなたに必要なこと」
エリアは、少しだけ涙をこぼしながら頷いた。
「ありがとう……お母様」
「ゆっくり、あなたのペースで。
“王でも象徴でもない、あなた”を育てていきましょう」
* * *
その夜、エリアは夢を見た。
広い庭の真ん中に立つ自分と、剣を構えたソフィーナ。
でも、その隣に、母と父がいた。
そしてその手の中には――言葉の本があった。
「……そうだ。わたしには、剣じゃなくてもいい。
“わたしの言葉”が、見つかればいいんだ」
小さな決意が、春の夜風に包まれた。
一台の豪奢な馬車が、王宮正門をくぐった。
旗には東方連邦の紋章。
そしてその扉から降り立ったのは、瑠璃色の瞳を持つ小さな姫――ソフィーナ・ユリシール姫であった。
「東方からの賓客……“同い年の姫”?」
エリアは、王妃陛下の私室でその名を初めて聞かされた。
「そう。文化使節として、短期間王都に滞在なさいます。
ただの訪問ではありません。正式な“視察”を兼ねていると聞いています」
王妃陛下は穏やかな笑みを保ちながらも、その目には鋭い光が宿っていた。
「エリア。あなたがどう振る舞うかを見て、
“この国の未来”を測ろうとする者たちがいます」
「……わたしが、“未来”なの?」
「そう見ている人たちがいる、ということ。
でも、それを信じる必要はないわ。あなたが“あなた自身でいられる限り”、それでいい」
王妃の手が、そっとエリアの肩に置かれる。
「貴女の母は、いつだって“自分の声”で世界を変えたの。
だからあなたは、ただ“自分の心”を守っていればいいのよ」
* * *
その夕刻、王宮南庭での小さな歓迎式典。
エリアは白いドレスに身を包み、父・アレクシスの隣に立っていた。
そこへ現れたのが――
「ソフィーナ・ユリシール、東方連邦よりまかりこしました。
王女ではなく、ただの“姫”として参上しました」
澄んだ声。
けれど、その背筋の伸び方と目の高さは、“まるで大人”だった。
「あなたが……エリア?」
「う、うん。はじめまして……」
「私は剣も学んでいるの。
言葉の国には、強くなるための“別の方法”があると聞いて、来たのよ」
言葉の国――
それは、レイナのことだと、エリアはすぐに察した。
「ねえ、あなたの“お母様”って、本当に剣を持たずに国を守ったの?」
「あ……うん。でも、わたしは……まだ、よくわかんない」
ソフィーナは微笑んだ。
「そう。でも、きっとあなたの中にも、なにかあるはずよ」
それが脅しでも侮蔑でもないと分かっていながら、
エリアの心には、冷たい石が落ちたような感覚が残った。
“わたしの中に、なにか……ある?”
* * *
夜。
レイナの書斎にエリアがやってきた。
「お母様……わたし、“未来”に選ばれたくない」
「……エリア」
「だって、ソフィーナ姫は剣が持てるのよ?
わたしは、怖くて何もできないの。お母様みたいになれる気がしない」
レイナは椅子から立ち上がり、娘の前にしゃがみ込む。
「エリア。私が“剣を持たなかった”のは、怖かったからよ」
「……え?」
「本当はね。たくさん怖かった。
でも、“怖い”って思えるからこそ、“傷つけたくない”って思えたの」
「……じゃあ、わたしが怖がりでも、いいの?」
「もちろん。あなたはまだ七歳よ。
焦らなくていい。“怖がること”も、“守られること”も、全部、いまのあなたに必要なこと」
エリアは、少しだけ涙をこぼしながら頷いた。
「ありがとう……お母様」
「ゆっくり、あなたのペースで。
“王でも象徴でもない、あなた”を育てていきましょう」
* * *
その夜、エリアは夢を見た。
広い庭の真ん中に立つ自分と、剣を構えたソフィーナ。
でも、その隣に、母と父がいた。
そしてその手の中には――言葉の本があった。
「……そうだ。わたしには、剣じゃなくてもいい。
“わたしの言葉”が、見つかればいいんだ」
小さな決意が、春の夜風に包まれた。
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