君に二度、恋をした。

春夜夢

文字の大きさ
28 / 32

第28話 君の未来に、俺は自分の意志で立ちたい

しおりを挟む
遥の海外勤務の話が出てから、数日が経った。

 変わらずふたりで暮らしているのに、
 心のどこかに「あと何ヶ月で離れるかもしれない」という不安が、静かに根を張っていた。

 

 「どうした? 珍しく、朝からパソコン凝視して」

 「いや……ちょっと調べ物」

 

 画面には、「イギリス フリーランス IT」「ビザ申請要件」なんて文字が並んでいた。
 遥はすぐに気づいて、でも何も言わなかった。

 

 「……考えてるんだ。ちゃんと、選びたいと思ってる」

 「うん。俺も、待つだけじゃなくて、ちゃんと支えるよ」

 

 お互いの“夢”や“将来”に、どれだけ相手を含められるか――
 それが今、ふたりの間の静かなテーマだった。

 

 その夜、俺はふと、引き出しから小さな箱を取り出した。

 遥からもらったプロポーズリングと、同じブランドの、シンプルな銀のペア。

 

 買ってから、ずっと渡せずにいた。

 渡すタイミングが見えなかったのは、
 「もらった側だから、自分から言うのはどうか」なんて、妙な意地があったからだ。

 

 でも――いまなら、わかる。

 これは、俺の意思で渡したい。

 遥に選ばれたことが、どれほど救いだったか。
 だからこそ、今度は俺が、“遥の人生に自分の言葉で立ちたい”と思った。

 

 「なあ、遥」

 「ん?」

 「今度の週末、休み取れそう?」

 「なんだ、デートの誘いか?」

 

 俺は少し笑って、それから真面目に言った。

 

 「お前に、ちゃんと話したいことがある。
  ……次は、俺の番だから」

 

 遥の目が、すこしだけ見開かれたあと、やわらかく細められる。

 

 「……ああ。楽しみにしてる」

 

 どんな未来が待っていてもいい。
 でも、その未来には“俺の足で選んだ道”で、遥の隣に立っていたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

処理中です...