君に二度、恋をした。

春夜夢

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第27話 同じ未来を選びたいって、はじめて本気で思った

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 「……なあ、冷蔵庫の中、ピーマンしか残ってないんだけど」

 「うそ。昨日買い足しただろ?」

 「全部、俺がチンジャオロースにした。しかも失敗した」

 

 遥があきれたように笑って、スマホをぽちぽちしながら「出前にしよ」と言った。

 休日の午後。
 実家へ行った翌日とは思えないほど、穏やかで、平和な時間が流れていた。

 

 部屋には柔らかい音楽。
 洗濯機の回る音。
 足元には、丸めた靴下と宅配のチラシ。

 

 こんな日常が、あたりまえに続いていくんだと、思っていた。

 

 ……その時までは。

 

 「そういえばさ、春翔。ちょっと話しておきたいことがある」

 

 遥のトーンが変わった。

 

 「会社から、海外勤務の打診があったんだ。期間は一年。ロンドン支社」

 

 頭の中が、一瞬で真っ白になった。

 

 「……決めたのか?」

 

 遥はすぐに首を振った。

 

 「まだ。“君と相談してから”って、即答は避けた」

 

 そう言った遥の声に、迷いはなかった。
 けれど――覚悟は滲んでいた。

 

 「俺に、選ばせてくれるのか?」

 「違うよ。“一緒に選びたい”んだ。
  俺が行くなら、君に来てほしいって思ってる」

 

 はじめてだった。
 遥が、“自分の夢”と“俺”の両方を真っすぐに言葉にしたのは。

 

 「俺も……少し考えたい。今の仕事のことも、生活も、すぐに手放せるわけじゃないし」

 

 遥は「わかってる」と言ったあと、静かに微笑んだ。

 

 「でも、“離れててもいい”とは言わせないからな」

 

 その言葉が、なんだか嬉しかった。
 遥はやっぱり、遥だった。

 

 「俺もたぶん――同じ未来を選びたいって、本気で思ってる」

 

 正直、まだ不安はあった。
 でも、“逃げずに選ぶ”って、こういうことなんだと思った。

 

 出前のチャイムが鳴った。

 ふたりで同時に立ち上がって、笑い合う。

 

 答えはまだ先。
 でも、“一緒に考えられる相手がいる”って、それだけで世界が明るくなるんだ。
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