君に二度、恋をした。

春夜夢

文字の大きさ
29 / 32

第29話 君がくれた未来に、今度は俺が応えたい

しおりを挟む
週末。
 空は高く、空気は少し冷たかった。

 俺が選んだ場所は、十年前の“卒業式の日”に、遥と最後に会った場所。
 その時、何も言えなかった俺が、今日――ようやく言葉を持って、ここに来た。

 

 「ここ、覚えてる?」

 「もちろん。……君が、俺を置いて逃げた場所だ」

 「……言い方、やめろ」

 

 笑いながらも、遥は少しだけ目を細めた。

 

 「でもな、あの日、お前を見送ったあとに思ったんだ。
  “もう一度会えたら、絶対に手を離さない”って」

 「それ、先に言われた」

 

 ポケットから、小さな箱を取り出す。

 遥からもらったのと同じ黒いケース。
 開ければ、そこには――シンプルな銀のリング。

 

 「お前がくれた未来に、今度は俺が応えたい」

 

 遥が息を飲んだのがわかった。

 

 「俺は、選ばれたことに甘えてばかりだった。
  でも、今度は自分の意志で言いたい。
  ――これからも、一緒にいてください。どこへでも」

 

 遥はゆっくりと箱を受け取ったあと、何も言わずに俺を抱きしめた。

 

 「……ありがとう。
  君に“選び返して”もらえるなんて、思ってなかった」

 

 「バカ。ずっと、お前だけだったよ」

 

 しばらく、言葉もなく肩を重ねたまま、空を見上げた。

 十年前、離れた場所。
 だけど今は――ふたりの始まりを刻み直す場所になった。

 

 遥は、そっと指輪を取り出して、俺の左手薬指にはめてくれた。

 「……似合うな。俺の隣に、ぴったりだ」

 

 「……俺も。ずっと、隣にいたくなる人なんて、お前だけだったよ」

 

 風が吹いた。
 でも、寒さはなかった。

 この指にある重みと、隣にいるぬくもりが――
 何よりも、あたたかかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

勘違いラブレター

ぽぽ
BL
穏やかな先輩×シスコン後輩 重度のシスコンである創は妹の想い人を知ってしまった。おまけに相手は部活の先輩。二人を引き離そうとしたが、何故か自分が先輩と付き合うことに? ━━━━━━━━━━━━━ 主人公ちょいヤバです。妹の事しか頭に無いですが、先輩も創の事しか頭に無いです。

幸せのかたち

すずかけあおい
BL
家にいづらいときに藍斗が逃げる場所は、隣家に住む幼馴染の春海のところ。でも藍斗の友人の詠心は、それを良く思っていない。遊び人の春海のそばにいることで藍斗が影響を受けないか心配しているらしい。 〔攻め〕荻 詠心 〔受け〕千種 藍斗 *三角関係ではありません。 *外部サイトでも同作品を投稿しています。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる

ユーリ
BL
魔法省に悪魔が降り立ったーー世話係に任命された花音は憂鬱だった。だって悪魔が胡散臭い。なのになぜか死神に狙われているからと一緒に住むことになり…しかも悪魔に甘やかされる!? 「お前みたいなドジでバカでかわいいやつが好きなんだよ」スパダリ悪魔×死神に狙われるドジっ子「なんか恋人みたい…」ーー死神に狙われた少年は悪魔に甘やかされる??

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...