伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第11話:揺れる心、二つの手

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季節は初夏。王宮主催の慈善舞踏会が間近に迫り、王都の空気は華やぎと緊張が入り混じっていた。

 その舞踏会の責任者――すなわち“主催者代理”として名が挙がったのは、クラリス・エルフォード。

「貴族派、王政派、それぞれが“この場”で影響力を示したがっている……。そして私は、その両陣営から“歩み寄り”を受けている状態」

 クラリスは自身の書斎で、集まった招待者リストと支援金の明細書を眺めながら、冷静に状況を整理していた。

 彼女がこの舞踏会を成功させれば、“中立かつ実力派”という評判が不動のものとなる。
 しかし裏を返せば――この場を狙う敵も現れるということ。

「……今夜は、誰を“選ぶべきか”を考える機会になるかもしれないわね」

 その夜。
 クラリスは王都の高級レストランにいた。
 対面に座るのは、侯爵令息レオン・カースウェル。

「この数日、王政派の一部が我が家との関係を問題視している。……だが僕は、君が“政治ではなく、個人”を見て判断してくれると信じている」

「レオン、それは……少し“甘えすぎ”ではなくて?」

「甘えてる。間違いなく。でも、それでも僕は――君と“同じ未来”を見たいと思ってる」

 真剣な眼差しだった。だがクラリスの表情は揺れなかった。

「私はまだ、“誰か”を選べる立場にはありません。……私自身が、もっと高くまで登らなければ、誰とも対等にはなれないから」

「なら……僕も、登る。君と並ぶために」

 レオンのその言葉は確かに胸を打った。
 だが、それと同じような言葉を、もう一人の男――ユリウス・ルーベルトも、別の形で告げていた。

(レオンは“情熱”を向けてくれる。ユリウスは“構想”を共有してくれる。けれど、どちらの手も取れば――もう片方を手放すことになる)

 クラリスはグラスを傾けながら、自身の内に芽生えた小さな迷いを認めざるを得なかった。

 翌日。
 慈善舞踏会の準備が最終段階に入った頃、クラリスの屋敷に、密偵から報告が入った。

「舞踏会当日、“事故”に見せかけた騒ぎを起こそうとする動きが確認されました。黒幕は……王政派の急進派です」

「……やはり動いたのね」

 クラリスは深く息を吐き、視線を鋭くした。

(今、私がこの舞踏会を守り抜けば、“社交界の中立”という幻想は崩れ、私は実力で頂に立てる)

(逆に――混乱が起これば、私は“無力だった令嬢”として再び後ろに押し戻される)

 選ばなければならない。
 誰と手を取り、どの旗のもとに立つのか。
 そして――舞踏会で誰と“最初の一曲”を踊るのか。

(それが、この国の未来を占う一手になる)

 クラリスは、扇子を閉じ、そっと瞳を閉じた。

 慈善舞踏会の夜は、もう目前。
 そしてその夜、彼女の逆転劇は“終盤”から“決着”へと向かう。
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