伯爵令嬢の逆転劇

春夜夢

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第12話:舞踏会の夜、選ばれし一手

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王宮主催、年に一度の慈善舞踏会――
 その華やぎは、王都の夜をまるで夢のように染め上げていた。

 正装に身を包んだ貴族たちが続々と集まり、煌めくシャンデリアの下では優雅な音楽が奏でられる。

 その中心。
 会場奥のバルコニーから全体を見下ろす位置に、クラリス・エルフォードは静かに立っていた。

 肩を出した深紅のドレスに、髪には星を模した飾り。
 彼女の姿は、まるでこの舞踏会そのものを象徴する存在のように荘厳だった。

「……よくぞ、ここまで来られましたね」

 そう声をかけてきたのは、ユリウス・ルーベルト。
 黒い燕尾服に、紅いルーベルト家の徽章。堂々とした立ち姿は、すでに次代の宰相の風格を漂わせている。

「ここで終わらせるつもりはありませんわ。私の物語は、まだ“第一幕”が終わっただけですもの」

 クラリスの言葉に、ユリウスは小さく笑った。

「その通りです。だからこそ、君と――“並び立ちたい”と思っている」

 その直後。

「クラリス嬢、遅れてしまって申し訳ない!」

 レオン・カースウェルが駆け寄るようにして姿を現す。
 青を基調とした軍装礼服に、剣を外した騎士のような佇まい。
 彼の登場に、会場内の空気がわずかに揺れた。

「あなたも……来てくれて嬉しいわ」

「君と一曲、踊れるか?」

「それは、“順番”に応じて――ですわね」

 クラリスは二人の視線を受けながら、ゆっくりとバルコニーを下りていく。

 会場中央の広間では、すでに一曲目のワルツの準備が始まっていた。

 そして、その瞬間――
 クラリスは右手を、ユリウスに差し出した。

「ご一緒していただけますか、閣下?」

 会場がざわめく。

 “最初の一曲”は、最も強い連携を世間に示すもの。
 クラリスがこの手で選んだのは、ルーベルト家の嫡男、宰相候補その人だった。

 レオンは一瞬驚いたような顔をし――すぐに、柔らかな笑みでそれを見送った。

「……ならば、二曲目は僕がいただこう」

「ええ、それなら喜んで」

 クラリスはそう答えながら、ユリウスと手を取り合って舞踏の輪へと進む。

 ワルツのリズムが始まり、二人のステップがぴたりと揃った瞬間、観客の息が止まる。

(これはただの踊りじゃない。私は今――“立場”を選び、“未来”に名を刻む)

 それが、クラリスの逆転劇における最大の一手だった。

 だが――その影で、ひとつの“事故”が始まろうとしていた。

 給仕の一人が、毒を塗った銀器を運ぼうとしている。
 それを、遠くから見抜いたのは――クラリスの忠義の騎士、ノア・ヴァレンティアだった。

「クラリス!」

 次回、舞踏会に仕組まれた“陰謀”が幕を開ける。
 優雅な夜が、静かに――血の気配を帯び始めていた。
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