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第3話 「お前が傍にいるだけで、俺は――」
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ゼフィルスの傍で暮らし始めて、一ヶ月が経った。
最初は異物を見るような目で見ていた使用人たちも、
最近はリクに笑いかけてくれることが増えてきた。
「リク様、今朝はお食事をしっかり召し上がりましたね」
「宰相閣下、今日はご機嫌がよろしいようですね。……リク様が傍にいると、特に」
――宰相の気分に影響を与える存在。
それが、リクにとっては何よりも不思議だった。
「……なんで、あんな偉い人が、俺を気にしてくれるんだろ」
問いの答えは、いつもゼフィルス自身が伏せたままだった。
でも最近は、ほんの時折――視線が、やわらかくなる。
それだけで、リクの胸はきゅうっと締めつけられる。
(この人に、触れたい)
(この人を、もっと知りたい)
その感情が、いつしか“あたたかさ”では説明できないものに変わっていることに、
リク自身、まだ気づいていなかった。
* * *
ある日、ゼフィルスの食事に付き添っていたときのこと。
「リク。お前、これを先に飲んでみろ」
ゼフィルスが自分の前に置かれた茶を示す。
「……え?」
「宰相の飲み物は、毒見が必要だ。だが今日の分は、侍従が見当たらん」
「いいよ。俺がやる」
リクはためらいもなく、その杯を手に取った。
「……っ!」
けれど、口をつけた瞬間――鋭い痛みが舌を刺した。
「が、っ……! あ、熱く、て……!」
リクの身体がぐらりと傾ぐ。
「リク!!」
ゼフィルスが椅子を蹴るように立ち上がり、リクの身体を抱きとめた。
その目は、今まで見たことのないほどに、恐怖で揺れていた。
「……誰だ。誰が、この杯を用意した……!!」
部屋中に怒声が響く。
次の瞬間、従者たちが雪崩れ込んできた。
「閣下、毒……ではなく、これは強めの神経麻痺薬のようです。
死には至りませんが、舌と喉の感覚が……」
「そんなことは、どうでもいい。リクの身体に害が及んだことが問題だ」
ゼフィルスの声は、冷気のようだった。
リクは視界の端で、その顔を見た。
(こんな顔……この人が、誰かのために怒ってる顔なんだ……)
「っ……ぁ……」
声が出せない。
口を開けても、うまく舌が動かない。
ゼフィルスはそっと、リクの頭を抱いた。
「喋るな。……大丈夫だ。俺がいる」
「……」
リクは、涙が出そうになるのをこらえた。
(この人は、やっぱり――冷たくなんてない)
(こんなにも、あったかい人なのに……)
* * *
その晩。
ゼフィルスは寝台に横たわるリクの横に椅子を置き、ずっと離れなかった。
書類は一切開かれず、政務も他人に任せた。
「……お前が、俺の代わりに痛みに耐えた。
それが許せない。……俺は、もうこんな後悔をしたくなかったのに」
「……」
リクは喉を傷めたまま、涙をぽろぽろと零した。
ゼフィルスは、その小さな頭を抱き寄せ、額をそっと寄せた。
「お前が傍にいるだけで、俺は、知らずに人間に戻ってしまう」
「お前だけが、俺を“ただの男”にしてくれるんだ」
それは告白のようで、懺悔のようで。
孤独だったふたりが出会った意味を、
ようやく言葉にできたような――そんな夜だった。
最初は異物を見るような目で見ていた使用人たちも、
最近はリクに笑いかけてくれることが増えてきた。
「リク様、今朝はお食事をしっかり召し上がりましたね」
「宰相閣下、今日はご機嫌がよろしいようですね。……リク様が傍にいると、特に」
――宰相の気分に影響を与える存在。
それが、リクにとっては何よりも不思議だった。
「……なんで、あんな偉い人が、俺を気にしてくれるんだろ」
問いの答えは、いつもゼフィルス自身が伏せたままだった。
でも最近は、ほんの時折――視線が、やわらかくなる。
それだけで、リクの胸はきゅうっと締めつけられる。
(この人に、触れたい)
(この人を、もっと知りたい)
その感情が、いつしか“あたたかさ”では説明できないものに変わっていることに、
リク自身、まだ気づいていなかった。
* * *
ある日、ゼフィルスの食事に付き添っていたときのこと。
「リク。お前、これを先に飲んでみろ」
ゼフィルスが自分の前に置かれた茶を示す。
「……え?」
「宰相の飲み物は、毒見が必要だ。だが今日の分は、侍従が見当たらん」
「いいよ。俺がやる」
リクはためらいもなく、その杯を手に取った。
「……っ!」
けれど、口をつけた瞬間――鋭い痛みが舌を刺した。
「が、っ……! あ、熱く、て……!」
リクの身体がぐらりと傾ぐ。
「リク!!」
ゼフィルスが椅子を蹴るように立ち上がり、リクの身体を抱きとめた。
その目は、今まで見たことのないほどに、恐怖で揺れていた。
「……誰だ。誰が、この杯を用意した……!!」
部屋中に怒声が響く。
次の瞬間、従者たちが雪崩れ込んできた。
「閣下、毒……ではなく、これは強めの神経麻痺薬のようです。
死には至りませんが、舌と喉の感覚が……」
「そんなことは、どうでもいい。リクの身体に害が及んだことが問題だ」
ゼフィルスの声は、冷気のようだった。
リクは視界の端で、その顔を見た。
(こんな顔……この人が、誰かのために怒ってる顔なんだ……)
「っ……ぁ……」
声が出せない。
口を開けても、うまく舌が動かない。
ゼフィルスはそっと、リクの頭を抱いた。
「喋るな。……大丈夫だ。俺がいる」
「……」
リクは、涙が出そうになるのをこらえた。
(この人は、やっぱり――冷たくなんてない)
(こんなにも、あったかい人なのに……)
* * *
その晩。
ゼフィルスは寝台に横たわるリクの横に椅子を置き、ずっと離れなかった。
書類は一切開かれず、政務も他人に任せた。
「……お前が、俺の代わりに痛みに耐えた。
それが許せない。……俺は、もうこんな後悔をしたくなかったのに」
「……」
リクは喉を傷めたまま、涙をぽろぽろと零した。
ゼフィルスは、その小さな頭を抱き寄せ、額をそっと寄せた。
「お前が傍にいるだけで、俺は、知らずに人間に戻ってしまう」
「お前だけが、俺を“ただの男”にしてくれるんだ」
それは告白のようで、懺悔のようで。
孤独だったふたりが出会った意味を、
ようやく言葉にできたような――そんな夜だった。
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