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第8話 「君は、誰の子なのか」
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「リク・ノーネーム――あの少年は、本当に“名もなき者”なのか?」
王宮の奥深く、密やかに囁かれた声が、
ひとつ、またひとつと陰を生み出していく。
疑念の出所は、ギルベルト侯爵。
かつてゼフィルスと政敵関係にあり、
王政改革の渦中で地位を追われた男。
彼は、“あの少年の顔”に見覚えがあった。
「間違いない。十数年前に消息を絶った“アルフェン家の嫡男”に、あの子はよく似ている」
アルフェン家――王族傍系の名家。
王位継承権の“枝”としてかつて重宝されたが、
ある年を境に一族ごと姿を消した、封印された血統。
「もしあの少年がアルフェン家の生き残りなら……
宰相閣下とその庇護下にあることは、まさに“爆弾”そのもの」
ギルベルトは薄く笑い、
禁忌とされる“血統照合”の儀式を密かに準備させた。
* * *
「ゼフィルス、なんだか最近、みんなの目が冷たい気がする」
リクは、書庫の窓辺に座りながら呟いた。
「それはお前が、“何者かわからない存在”として目立っているからだ」
「……俺って、そんなに正体不明かな」
「名前も、家も、記録もない。
王都で拾われるまでの記憶も曖昧。
――だからこそ、奴らは“お前の素性”を騒ぎ立てたがる」
ゼフィルスは手を止めずに言ったが、
その横顔に、ほんのわずか影が射していた。
「……ねえ、俺のこと、調べたことある?」
リクの問いに、ゼフィルスは静かに頷いた。
「一度だけ。お前を引き取った直後、王都記録局で“それらしき子ども”の情報を洗った。
だが、お前の記録はどこにもなかった」
「つまり……」
「存在ごと、誰かが消したのかもしれない」
「……俺、怖いよ」
リクは膝を抱えて、顔を伏せた。
「もし俺が……あんたの敵になるような血を引いてたらどうしよう。
俺自身が、“君のそばにいてはいけない存在”だったらって、考えたら――」
「それでも、俺はお前を離さない」
「……!」
ゼフィルスは、手元の書類を閉じてリクを見つめた。
「たとえお前が王の隠し子であろうと、
先王の復讐者であろうと、
――俺の心が“お前を選んだ”という事実は、変わらない」
リクの胸が、ぎゅっと締めつけられた。
あたたかい。
でも、苦しいほどに重い。
(……俺は、なにをしても、
この人から“拒絶されることはない”って信じてしまう)
* * *
その夜、ギルベルトの手によって用意された血統照合が、
王城の“儀式の間”で極秘に行われた。
採取されたのは、リクが偶然落としたハンカチに残った微量の血。
そして――結果は、一通の封書となって、
ギルベルトの手に届いた。
“リク・ノーネームは、アルフェン家当主・カレヴィルの嫡子である可能性が極めて高い”
“ただし正式な確認には、王家の血との照合が必要となる”
「……やはりな」
ギルベルトはほくそ笑んだ。
「“王政改革を掲げる冷血宰相の懐に、王族の血が混じっている”――
この事実は、必ず王と王妃の不信を招く」
「さらに、“王家の血を盾に王位を狙う宰相”という噂が広がれば――」
「ゼフィルス、お前の終わりだ」
静かに、政の盤面が動き出していた。
一方その頃、ゼフィルスはすでにその気配を察知していた。
「……リク、お前の正体が明かされる日が来ても、
俺は、“リク”という名前だけを信じる」
「もし、俺が王家に呼び出されて、“血を見せろ”って言われたら?」
「断れ」
「でも……」
「俺の庇護下にある以上、お前は“俺のもの”だ。
たとえ王命であっても、手を出させはしない」
そう言った彼の声は、決意と――
それ以上に、かすかな“怖れ”を孕んでいた。
それは、愛が深すぎるがゆえに生まれた“喪失への予感”。
そしてその予感は、間もなく現実になる。
次なる王命は――
“リクを王宮に召し、血統照合を受けさせよ”というものだった。
王宮の奥深く、密やかに囁かれた声が、
ひとつ、またひとつと陰を生み出していく。
疑念の出所は、ギルベルト侯爵。
かつてゼフィルスと政敵関係にあり、
王政改革の渦中で地位を追われた男。
彼は、“あの少年の顔”に見覚えがあった。
「間違いない。十数年前に消息を絶った“アルフェン家の嫡男”に、あの子はよく似ている」
アルフェン家――王族傍系の名家。
王位継承権の“枝”としてかつて重宝されたが、
ある年を境に一族ごと姿を消した、封印された血統。
「もしあの少年がアルフェン家の生き残りなら……
宰相閣下とその庇護下にあることは、まさに“爆弾”そのもの」
ギルベルトは薄く笑い、
禁忌とされる“血統照合”の儀式を密かに準備させた。
* * *
「ゼフィルス、なんだか最近、みんなの目が冷たい気がする」
リクは、書庫の窓辺に座りながら呟いた。
「それはお前が、“何者かわからない存在”として目立っているからだ」
「……俺って、そんなに正体不明かな」
「名前も、家も、記録もない。
王都で拾われるまでの記憶も曖昧。
――だからこそ、奴らは“お前の素性”を騒ぎ立てたがる」
ゼフィルスは手を止めずに言ったが、
その横顔に、ほんのわずか影が射していた。
「……ねえ、俺のこと、調べたことある?」
リクの問いに、ゼフィルスは静かに頷いた。
「一度だけ。お前を引き取った直後、王都記録局で“それらしき子ども”の情報を洗った。
だが、お前の記録はどこにもなかった」
「つまり……」
「存在ごと、誰かが消したのかもしれない」
「……俺、怖いよ」
リクは膝を抱えて、顔を伏せた。
「もし俺が……あんたの敵になるような血を引いてたらどうしよう。
俺自身が、“君のそばにいてはいけない存在”だったらって、考えたら――」
「それでも、俺はお前を離さない」
「……!」
ゼフィルスは、手元の書類を閉じてリクを見つめた。
「たとえお前が王の隠し子であろうと、
先王の復讐者であろうと、
――俺の心が“お前を選んだ”という事実は、変わらない」
リクの胸が、ぎゅっと締めつけられた。
あたたかい。
でも、苦しいほどに重い。
(……俺は、なにをしても、
この人から“拒絶されることはない”って信じてしまう)
* * *
その夜、ギルベルトの手によって用意された血統照合が、
王城の“儀式の間”で極秘に行われた。
採取されたのは、リクが偶然落としたハンカチに残った微量の血。
そして――結果は、一通の封書となって、
ギルベルトの手に届いた。
“リク・ノーネームは、アルフェン家当主・カレヴィルの嫡子である可能性が極めて高い”
“ただし正式な確認には、王家の血との照合が必要となる”
「……やはりな」
ギルベルトはほくそ笑んだ。
「“王政改革を掲げる冷血宰相の懐に、王族の血が混じっている”――
この事実は、必ず王と王妃の不信を招く」
「さらに、“王家の血を盾に王位を狙う宰相”という噂が広がれば――」
「ゼフィルス、お前の終わりだ」
静かに、政の盤面が動き出していた。
一方その頃、ゼフィルスはすでにその気配を察知していた。
「……リク、お前の正体が明かされる日が来ても、
俺は、“リク”という名前だけを信じる」
「もし、俺が王家に呼び出されて、“血を見せろ”って言われたら?」
「断れ」
「でも……」
「俺の庇護下にある以上、お前は“俺のもの”だ。
たとえ王命であっても、手を出させはしない」
そう言った彼の声は、決意と――
それ以上に、かすかな“怖れ”を孕んでいた。
それは、愛が深すぎるがゆえに生まれた“喪失への予感”。
そしてその予感は、間もなく現実になる。
次なる王命は――
“リクを王宮に召し、血統照合を受けさせよ”というものだった。
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