冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている

春夜夢

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第9話 「それでも、君の隣にいたいから」

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――王からの勅命が下った。

「リク・ノーネームを王宮へ召し出し、正式に血統の照合を行うこと」
「王家に連なる可能性がある以上、国家の安寧のために、その素性を明らかにする必要がある」
「これは、命令である」

リクの正体を巡る噂が拡がりきった今、
王政は宰相ゼフィルスに“透明性”を求めた。

だが、その命令は――
“リクがゼフィルスの傍にいられなくなる可能性”を孕んでいた。

「お前の血が、王家のそれと繋がっていた場合――
お前は、俺の庇護を離れ、“国家の所有物”になる可能性がある」

ゼフィルスは、あくまで冷静に言った。

「俺はその未来を、絶対に受け入れない」

「……わかってるよ。でも、俺は……行く」

「――何?」

「このままじゃ、俺はずっと“曖昧な存在”のままだ。
それに、あんたの立場まで悪くなってしまう」

「お前が俺のために“自分を犠牲にしようとしている”のなら――今すぐやめろ」

ゼフィルスの声が、低く震えた。

「俺は、そんな愛し方を望んでいない」

「……でも、俺は、俺自身が“何者か”を知りたい。
そして、その上で……あんたの隣にいたいんだ」

「リク……」

「逃げてばかりじゃ、あんたの隣に立つ資格なんてない。
たとえ、あんたに嫌われることになっても――俺は、自分の足で答えを見つけたい」

それは、少年が少年でいられなくなる決意だった。

ゼフィルスの胸が、激しく締めつけられる。

(守ってやりたかった。過去を背負わせることなく、
ただ“リク”として生きていてほしかった)

だが彼は、もう“ただの子ども”ではなかった。

「……好きにしろ。
だが、“何があっても帰ってくる”と誓え」

「うん。俺は、絶対に帰る。あんたのところに。
――それが、俺の答えだよ」

* * *

血統照合は、王宮内“聖なる間”で執り行われた。

リクは一人、白い衣をまとって立ち、
王妃が立ち合い、王の代理で宰相局の査察官が見守る中、
聖石へと血を注いだ。

石が淡く光った瞬間、結果は記録として封じられる。

そして、数時間後。

結果が、ゼフィルスとリクの元に届いた。

「……やはり」

ゼフィルスは無言で手紙を握り締めた。

“リク・ノーネームは、アルフェン家・カレヴィル前公爵の嫡男と高い一致率を示した”
“当時行方不明となった嫡男・レインハルトである可能性が極めて高い”
“ゆえに、本件は王位継承第三位の資格を持つ事案として扱う”

「レインハルト……俺が……」

リクは、目を伏せた。

血の繋がりが明かされた瞬間――
王族の血が、自分の中にも流れていることを否応なく知った。

「これからは、俺に“王族としての振る舞い”を求めてくる人が現れるんだろうね」

「ならば、拒絶しろ。お前が望むなら、俺がすべてを焼き払ってやる」

「ゼフィルス……」

「王家の血など、俺にとってはどうでもいい。
お前の目が曇るくらいなら、王政すら否定する」

ゼフィルスの言葉は、どこまでも真っ直ぐだった。

「だが、それでも――お前自身がそれを知り、背負う道を選んだのなら、
俺は隣で支え続ける。
……お前が“俺のリク”である限り」

リクは、泣きそうになりながら笑った。

「ありがとう……俺も、俺自身を信じる。
過去がどうであっても、“今”を選ぶよ。
――“あんたと生きる”っていう今を」

その瞬間、ゼフィルスの手がそっとリクの頭を撫でた。

「おかえり、リク」

「……ただいま」

血ではなく、心が結びつけた絆。

それは、王家よりも、国よりも――
たったひとりを愛し続けるための、確かな誓いだった。
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