宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花

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六章

3、遠慮と愛護をお願いします

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 国境を越えるというアフタルに、ラウルとミーリャがついてくることになった。
 離宮を出ると、湖まではすぐだ。
 林に入ると波の音と水の匂いを感じた。

「海のような潮の香りとは、また違うんですね」

 ラウルが遠いまなざしをする。

「早く乗って。対岸まで送るわよ」

 湖畔の杭に泊めてある舟の舳先に、ミトラが立っている。腕を組んで、たいそう勇ましい。小舟よりも軍艦が似合いそうにも思う。

「ミトラ姉さま、舟を漕げるんですか?」
「離宮に来るたびに、舟遊びしていたのよ」

 きらめく湖面を、すべるように進む小舟。舟のへりから手を差し伸べて、冷たい水に触れる……なんて、優雅な遊びを想像したが。

「出航―っ。行くわよ」

 どばばばば! 人……じゃないけど、とても人力とは思えないほどの力強さでミトラは櫂を動かした。
 顔にかかる水飛沫。上下する舟、いやむしろ空中に浮いては湖面に叩き付けられている。
 そのたびに胃が浮き上がる気がする。

「ね、姉さま。もっと……静かに」
「しゃべると、舌を噛むわよ」

 なぜかミトラは「あはははは」と笑いながら、舟を漕ぐ。
 速い。速すぎる。
 湖畔の風景は、まるで飛んでいくように後方に流れていく。岸辺で釣りをしている人が、ぽかんと口を開けてミトラの舟を見送っている。

「やっぱり馬よりも、自分の力で進むってのが、いいわよねー。ほら、動物に遠慮しなくて済むじゃない?」

 人間にも遠慮してください。

「動物愛護は大事だものね」

 人間も愛護してください。

 三王国の湖は大きいのに。あっという間に対岸に到着した。

「ウェドじゃなくて、カシア側でいいのよね。ミーリャ」
「はい、ミトラさま」

 なぜかミーリャはけろりとしている。
 アフタルとラウルは、気持ち悪さに舟を下りてもしゃがみこんでいた。

「……地面が揺れている気がするんですけど」
「奇遇ですね、アフタルさま。私もです」

 帰りは遠回りになっても、陸路で帰ろう。
 来た時よりも、激しく跳ねながら戻っていく舟を見送りながら、アフタルは心に決めた。

 ようやく落ち着いたアフタルは、ラウルに地図を出してもらった。
 ミーリャは、地図を読むのが得意とのことなので、何処へ行けばいいのか確認してもらう。

(そういえば、ヤフダ姉さまから本を渡されていましたっけ)

 平易な会話本を、アフタルは荷物から取り出した。

『簡単カシア語会話。これであなたも侵入者』
『簡単ウェド語会話。これであなたも侵犯者』

 なんという直接的な書名なのだろうか。
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