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四章 一年目はるの月
36 はるの月3日、ガテンなお兄さん③
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昼過ぎになって、ニワトリ小屋は完成した。
確認してくれと呼びにきたファーガルの後ろをついて行くと、人が一人暮らせるくらいの大きさの小屋が建っている。
ニワトリ小屋というには立派なそれに、イーヴィンは「おぉぉ」と手を叩いて喜んだ。
そんなイーヴィンの頭を、ファーガルは無表情のまま優しい手つきで撫でる。
「えっと……?」
どうして撫でられたのか分からない。
不思議そうにファーガルを見上げれば、彼も困ったような顔をしてイーヴィンを見つめていた。
「すまん、つい」
低すぎる声は、ボソボソと喋られると聞き取れない。
聞き取ろうとイーヴィンが身を乗り出すと、ファーガルはますます困惑したようだった。
「ちょっと、近くないか?」
「そうですか?」
「俺は、男だから、女に近づかれると、その……少々困る」
「困る?」
「女と接することにあまり慣れていないんだ。だから、どうしていいか分からない。うっかり怪我をさせてしまうかもしれないし……そうなったら、困るだろう?」
太い眉をこれでもかと下げて困った顔をしたファーガルは、おそらくイーヴィンより年上だろうに、どこか子供のように見えた。
その姿はどことなく、弟を彷彿とさせる。
ふと思い出すのは、末の弟のことだ。
彼ははいつも兄たちのお下がりばかりで、たまに買ってもらった自分のものを、それはもう大事にしていた。買ったばかりの物を大事にするあまり、壊さないように恐々使っていたものである。
「これでも牧場主ですよ?触ったくらいで怪我なんかしませんって」
鍛えられた太い腕を笑いながら軽く叩けば、ファーガルがおっかなびっくりといった様子でイーヴィンの手に触れてくる。
ちょんちょんとまるで危険物を触るような手つきがくすぐったく、イーヴィンはケラケラと笑いながら身をよじった。
「ほら、大丈夫でしょう?」
「そうだな」
えっへんと胸を張ってお姉さんぶれば、ほんの少しリラックスしたらしいファーガルがうっすらと笑みを浮かべる。
側から見ればちょっと良い雰囲気の二人だったが、シルキーの目にはそうは映らなかったらしい。
二人の姿を見つけるなり、家から慌てて飛び出してくる。
イーヴィンを庇うようにファーガルの前に立つと、まるで手負いの猫のような目で彼を睨みつけた。
「シルキー?どうしたの、突然」
シルキーの背に庇われながら、イーヴィンは意味が分からないと首を傾げている。
鋭い視線で睨みつけられながら、ファーガルはとりあえずシルキーを怒らせていることだけは理解した。
「すまない。シルキーを怒らせたようだ」
「え?なんで怒ってるの?」
「もしかしたら、ニワトリ小屋が出来たなら帰れということかもな。シルキーは、特定の人間しかテリトリーに入れない。今回はニワトリ小屋を作るために仕方なく入れてくれたんだろう」
「そうなの?シルキー」
「……」
シルキーは小さな声で何かを喋ったが、それがイーヴィンに聞こえることはなかった。
妖精の言葉は、人間には聞き取れない。幼い子供か、特殊な能力を持つ者にしか聞くことができないのだ。
「それって失礼よ」
これからお茶に誘って昨日のことを改めて謝ろうとしていたのに、これでは台無しである。
とはいえ、シルキーが認めないならこの牧場でファーガルとのお茶は叶わない。
むくれるイーヴィンに、ファーガルは「まぁいいさ」と言って帰り支度をし始めた。
早く帰れとばかりに、牧場の入り口がキィィとひとりでに開く。
もちろん、シルキーの仕業である。
ますますむくれるイーヴィンに「じゃあまたな」と頭を撫でて、ファーガルは帰って行った。
「もう。せっかく、仲良くなれそうだったのに。シルキーのばか!」
シルキーとしては彼女を守っているつもりだったのに、責められてイライラした。
イーヴィンの、分からず屋。
言い返すことも出来ないことに、シルキーは初めて人間の言葉を話すことが出来ないことを後悔する。
プリプリと怒りながらヤマダサンの方へ行ってしまったイーヴィンの背を見送りながら、シルキーは八つ当たりするようにファーガルが出て行った扉をガチャンと閉めた。
確認してくれと呼びにきたファーガルの後ろをついて行くと、人が一人暮らせるくらいの大きさの小屋が建っている。
ニワトリ小屋というには立派なそれに、イーヴィンは「おぉぉ」と手を叩いて喜んだ。
そんなイーヴィンの頭を、ファーガルは無表情のまま優しい手つきで撫でる。
「えっと……?」
どうして撫でられたのか分からない。
不思議そうにファーガルを見上げれば、彼も困ったような顔をしてイーヴィンを見つめていた。
「すまん、つい」
低すぎる声は、ボソボソと喋られると聞き取れない。
聞き取ろうとイーヴィンが身を乗り出すと、ファーガルはますます困惑したようだった。
「ちょっと、近くないか?」
「そうですか?」
「俺は、男だから、女に近づかれると、その……少々困る」
「困る?」
「女と接することにあまり慣れていないんだ。だから、どうしていいか分からない。うっかり怪我をさせてしまうかもしれないし……そうなったら、困るだろう?」
太い眉をこれでもかと下げて困った顔をしたファーガルは、おそらくイーヴィンより年上だろうに、どこか子供のように見えた。
その姿はどことなく、弟を彷彿とさせる。
ふと思い出すのは、末の弟のことだ。
彼ははいつも兄たちのお下がりばかりで、たまに買ってもらった自分のものを、それはもう大事にしていた。買ったばかりの物を大事にするあまり、壊さないように恐々使っていたものである。
「これでも牧場主ですよ?触ったくらいで怪我なんかしませんって」
鍛えられた太い腕を笑いながら軽く叩けば、ファーガルがおっかなびっくりといった様子でイーヴィンの手に触れてくる。
ちょんちょんとまるで危険物を触るような手つきがくすぐったく、イーヴィンはケラケラと笑いながら身をよじった。
「ほら、大丈夫でしょう?」
「そうだな」
えっへんと胸を張ってお姉さんぶれば、ほんの少しリラックスしたらしいファーガルがうっすらと笑みを浮かべる。
側から見ればちょっと良い雰囲気の二人だったが、シルキーの目にはそうは映らなかったらしい。
二人の姿を見つけるなり、家から慌てて飛び出してくる。
イーヴィンを庇うようにファーガルの前に立つと、まるで手負いの猫のような目で彼を睨みつけた。
「シルキー?どうしたの、突然」
シルキーの背に庇われながら、イーヴィンは意味が分からないと首を傾げている。
鋭い視線で睨みつけられながら、ファーガルはとりあえずシルキーを怒らせていることだけは理解した。
「すまない。シルキーを怒らせたようだ」
「え?なんで怒ってるの?」
「もしかしたら、ニワトリ小屋が出来たなら帰れということかもな。シルキーは、特定の人間しかテリトリーに入れない。今回はニワトリ小屋を作るために仕方なく入れてくれたんだろう」
「そうなの?シルキー」
「……」
シルキーは小さな声で何かを喋ったが、それがイーヴィンに聞こえることはなかった。
妖精の言葉は、人間には聞き取れない。幼い子供か、特殊な能力を持つ者にしか聞くことができないのだ。
「それって失礼よ」
これからお茶に誘って昨日のことを改めて謝ろうとしていたのに、これでは台無しである。
とはいえ、シルキーが認めないならこの牧場でファーガルとのお茶は叶わない。
むくれるイーヴィンに、ファーガルは「まぁいいさ」と言って帰り支度をし始めた。
早く帰れとばかりに、牧場の入り口がキィィとひとりでに開く。
もちろん、シルキーの仕業である。
ますますむくれるイーヴィンに「じゃあまたな」と頭を撫でて、ファーガルは帰って行った。
「もう。せっかく、仲良くなれそうだったのに。シルキーのばか!」
シルキーとしては彼女を守っているつもりだったのに、責められてイライラした。
イーヴィンの、分からず屋。
言い返すことも出来ないことに、シルキーは初めて人間の言葉を話すことが出来ないことを後悔する。
プリプリと怒りながらヤマダサンの方へ行ってしまったイーヴィンの背を見送りながら、シルキーは八つ当たりするようにファーガルが出て行った扉をガチャンと閉めた。
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