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四章 一年目はるの月

37 はるの月14日、感謝祭①

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 シルキーは、妖精にしては人間っぽいというか、真面目すぎるのかもしれない。

 イーヴィンに「ばか」と言われて腹を立てたとしても、きちんと夕飯を用意していたし、翌日は何事もなかったように彼女の世話を焼いている。
 妖精である彼の特性を考えれば、イーヴィンを家から追い出したり、家を滅茶苦茶にすることが当然なのに、そうしなかった。

 そもそも、シルキーは妖精なので人の常識に疎いし、従う義理もない。
 それでもイーヴィンのためにと譲歩してファーガルを招いてくれたのに、彼女はシルキーに対して感謝するどころか責めたのである。

(謝らなくちゃいけないのは、私の方ね)

 妖精としての本能よりイーヴィンを優先してくれた健気なシルキーを、よく考えずに責めてしまった。

 謝るべきは、イーヴィンの方だ。

 そう思うのに、シルキーがいつも通りなものだから謝るに謝れず、タイミングを待つうちにずるずると日が経ってしまった。

 そうしてやってきた、感謝祭。
 感謝祭とは、普段お世話になっている人にお菓子を渡して「いつもありがとう」と感謝を告げる日である。
 前世でいう、バレンタインデーやホワイトデーがこれなのだろう。

 通常時に貢ぎ物プレゼントを渡すよりだいぶ好感度が上昇するので、ゲームプレイしていた時は、ここぞとばかりに婿候補へ渡していたものだ。
 もちろん、今回も恋愛イベントへのフラグ回収第一歩としてイーヴィンもそれを狙っている。

 そして、彼女にはもう一つ狙いがあった。
 このイベントに便乗して、シルキーに謝る計画である。

(シルキーはもう気にしていないかもしれない。私の自己満足でしかないけど……でも、ちゃんと謝らないと。今後も一緒に暮らしていくんだから、こういうわだかまりはきちんと解消しておくべきだよね)

 今日はシルキーに頼み込んで彼の城であるキッチンを使わせてもらっている。
 手伝いたそうにウロウロしている彼を掃除へ送り出して、イーヴィンはキッチンを占拠した。
 ヤマダサンが産んだタマゴをボウルに割り、シャカシャカと泡立て器で混ぜる。

 感謝祭で渡すお菓子は、なんでも良い。
 時期が来ると販売される感謝祭用のお菓子でも良いし、手作りのお菓子は気持ちがこもっているということで最も好まれる。
 それに、シルキーへのお詫びの品なら、手作りの方がより気持ちが伝わって良いと思う。

 小鍋に入れたミルクを火にかけて、タマゴにバニラエッセンスを加える。
 温めたミルクは、ローナンに頼んで用意してもらったSランクのものだ。砂糖を混ぜて、ボウルの中身と合わせる。
 前世の記憶を引っ張り出して、ミルク瓶で作ったら可愛いよね、なんてらしくもなく女子力を発揮しながら、イーヴィンはプリンを焼き上げた。

 頑張った甲斐もあり、プリンはツヤツヤプルプルの最高な出来である。
 粗熱が取れたミルク瓶のプリンを掲げて、イーヴィンは満足そうに微笑んだ。

「我ながら、良い出来!」

 プリンは、イーヴィンが唯一作れるお菓子だ。
 腹が減ったと騒ぐ弟を宥めるために必死に覚えたレシピが、ここで役立つとは思いもしなかった。

(あの頃の私、よくやったわ!)

 完成したのは、全部で五つ。
 会ったことがある人にしか渡せないので、今回渡せるのは婿候補ではファーガルとローナン、婿候補以外だとシルキーとリアンの四人だ。
 シルキーに謝るタイミングを計ることに一生懸命になりすぎて、異国の王子ハリーファとの出会いイベントを発生させてなかったのは少々痛手だが、仕方がない。

 リボンとレースでラッピングして、それなりの見栄えになったプレゼントをカゴに詰める。
 綺麗に並んだプリンは、かなり女子力が高い出来に見えた。

 うんうんと満足そうに頷いて、今度は後片付けに取り掛かる。
 キッチンはシルキーのお城だ。汚したままでは、彼に迷惑をかけてしまう。

 昼ごはんの準備を始める時間までにキッチンを片付けられたことに安堵しながら、イーヴィンはプリンを詰めたカゴを持って家を出た。
 カゴの中に並んだものを再度、問題がないか確認する。

「これで大丈夫かな?よし。じゃあ、行ってきます!」

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