勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流

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おっさん、試合を観戦④

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「ふう……危ないところだったな」

 控室に戻った俺は重い腰を椅子に下すと、傍らに樫名刀を置き一息つく。
 試合後に感じる微かな充実感に比例するこの気だるげな感じ。
 力と精神を極限まで駆使した反動故か。
 見た目は若返ったとはいえ、真剣勝負は神経に堪える。
 そういった意味では俺もメンタル的にロートルなのだろう。
 備え付けの水差しから直接浴びる様に水を飲みながら、今の戦いを思い返す。
 クラスネーム【魔女】ことマドカ・ペテルギウスとの戦い。
 傍から見れば俺が優勢に戦いを進めていたように見えるかもしれないが……
 実情は綱渡りであった。
 どういう理屈か知らないが、マドカはリア並の無詠唱魔術を連打出来るらしい。
 無論それだけならば脅威ではないのだが、その数が異常だった。
 賢者のリアでさえ同時に数発発動がやっとというそれを、マドカは数十発同時にぶっ放してくるのである。
 魔術戦において手数の多さはそのまま制圧力に関わる。
 詠唱時間の掛かる高位魔術を一つ撃つより、例え呪文のランクを落としても有効属性を連続発動させた方が実戦では効果的だ。
 その場に敵を縫い留めるという意味でも手数は多い方が良い。
 しかも更に恐ろしいことに、マドカの魔術はその一発一発が中位ランクに匹敵する威力も伴っていた。
 まともに相対すれば接近戦に持ち込めず遠距離で仕留められてしまう。
 なので――俺は防御に徹することにした。
 無限に続く魔力などはあり得ない。
 マドカの持つ力の種は分からないが……いずれ必ず隙が生じる。
 それまで守りを固めて耐える事にしたのだ。
 幸い俺の持つ樫名刀【静鋼】は退魔の効果を持つ。
 魔術という具象化された魔力そのものを斬り裂く事が可能だ。
 となれば、後は反射神経の問題である。
 襲い来る魔術を先読みし、しっかり刃筋を捉えて無効化していく。
 勿論それだけでは対処しきれない。
 全力可動で及ばない分は、短時間発動させた前衛究極闘技【気と魔力の収斂】で強引に捌いていく。
 その際は相手にプレッシャーを掛ける事も忘れない。
 舌鋒戦は安いコストで得られる効果も莫大、費用対効果に優れている。
 いにしえの勇者の家庭教師が得意としたのも口殺法だったらしいしな。
 強い言葉には言霊が宿る。
 言葉が通じる相手にとってそれは時に【祝福】にも【呪い】にもなりえるのだ。
 幾度も繰り返される「無駄だ」という言葉にマドカは惑わされた。
 冷静に(そう装っている)的確に(実際は必死だが)自身の魔術を捌く相手。
 ひょっとして、本当に魔術が通じないんじゃ……
 そう――思ってしまったのだ。
 滑らかに連続発動していた魔術に生じた僅かな遅延。
 俺はその隙を待っていたし――見逃さない。
 最短最速で発動させた魔現刃をマドカ目掛け放つ。
 クラスチェンジ後に習得階位が【天仙】となったお陰か、以前あったようなラグが魔現刃に発生しなくなっていた。
 意識するのと同じ感覚、しかも完全な威力を剣筋に乗せられる。
 つまり抜刀速度に合わせた高速発動斬撃が可能になったのだ。
 実戦で扱ったのはこれが初めてだったが――効果は上々。
 防ぐ間もなく抜刀術に乗せられた魔現刃はマドカの宝珠を砕いた。
 こうしてどうにか勝利をもぎ取った、という訳だ。
 マドカがめげずに、あと5分ほど魔術を解き放っていたなら……勝敗の行く末は正直分からなかっただろう。
 しかし……彼女の言っていた視聴率っていうのはいったい何だ?
 最初は俺の【神龍眼】やノスティマの【神魔眼】のように世界に刻まれた物語や筋書を【読む】力を持った者なのかと思ったが……どうにも違うみたいだし。
 あの衣装といい、世の中には知らない方が良い事が多々あるに違いない。
 深入りしない事を決めた俺は魔導モニターに注目する。
 そこでは【剣聖】イゾウ先生と【拳帝】ヴァルバトーゼの戦い……第10回戦が開始されようとしていた。
 共に鍛え上げられた人類最高峰の剣と拳。
 下馬評では老いたイゾウ先生より肉体的に一番旬の乗っているヴァルバトーゼの方が優位と噂されている。
 しかし――開始数秒でそれは覆された。
 腰溜めに構えた超低姿勢からの神速での抜刀一閃。
 ただそれだけで勝敗はついた。
 地に伏し倒れたまま動かないヴァルバトーゼを背に立ち去るイゾウ先生。
 慌てて勝利宣言をする司会に、何が起きたか分からないまま拍手を送る観客。
 らしくない。
 今の先生の戦いは初手の一撃に全てを懸けていた。
 当たれば確かに必殺だが……万が一回避されたら大きな隙が生まれる。
 通常の先生ならばもっと試合を楽しんだ筈だ。
 あんな博打にも似た戦法に身を委ねることなど決してしなかった。
 それはつまり、試合を楽しむ余裕すらないという事で……
 イゾウ先生の身体はもう限界なのかもしれない。
 モニターに映り出される老剣士の背中。
 孤高に去り行くその背に――俺は限りない哀愁を感じるのだった。






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