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第14話 山の主は温泉マニア
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翌朝、俺は地響きで目を覚ました。
地震ではない。
リズミカルだ。
一定間隔で、ズン、ズン、と足音のような振動が近づいてくる。
「カイトさん!」
ミレイの声。
ログハウスの扉が勢いよく開いた。
「起きて。来る」
「わかった」
俺は寝袋から這い出た。
暖炉の残り火が、かすかに赤い。
タマが不満そうに「にゃ」と鳴いたが、今はそれどころじゃない。
外に出ると、夜明け前の薄暗い森が広がっていた。
木々の間から、朝靄が漂っている。
冷たい空気が、肺に染みる。
そして。
ズ、ズン。
森の奥から、巨大な影が現れた。
◆
岩だ。
いや、岩が歩いている。
高さは、五メートル以上。
ゴツゴツした岩石で構成された人型。
腕は丸太のように太く、足は地面を踏むたびに小さなクレーターを作る。
『警告:大型敵性存在』
『種別:ロック・ゴーレム』
『脅威度:A』
『注意:物理攻撃に対し極めて高い耐性を持つ』
DMSのアラートが赤く点滅した。
「この山の主、ね」
ミレイが裁ち鋏を構えた。
タエさんは煙管を咥えたまま、臨戦態勢。
スキマは、いつの間にか木の隙間に隠れていた。
「任せな、旦那!」
ハチさんが前に出た。
三メートルの巨体が、さらに大きな岩の塊と対峙する。
「待っ」
俺が止める前に、ハチさんが飛び出した。
「ぽぽぽ! デカいのは好きだよ!」
三メートルの白い巨体が、五メートルの岩の巨人に組みついた。
ズドォン!
衝撃波。
周囲の木がバキバキと折れる。
地面が陥没する。
「グォォォ!」
ゴーレムが腕を振り回した。
ハチさんが弾き飛ばされ、ログハウスの壁に激突した。
メキッ。
「やめろぉぉぉ!」
俺は絶叫した。
「せっかく建てたログハウスが! 丸太が! 俺の不動産価値がぁぁぁ!」
「旦那、今それ?」
ハチさんが壁から這い出てきた。
白いワンピースに木屑がついている。
「お前ら、一旦止まれ!」
俺は両手を広げて、二人の間に入った。
「カイトさん?」
ミレイが目を丸くした。
「見ろ。あいつ、追撃してこない」
ゴーレムは、こちらを見下ろしていた。
だが、それ以上襲ってこない。
じっと、俺たちを観察している。
いや、違う。
あいつが見ているのは、ログハウスだ。
◆
「グォォォォ」
ゴーレムが、低いうなり声を上げた。
威嚇ではない。
なんというか、不満そうな声だ。
「スキマ」
「……なに」
「あいつの言葉、わかるか?」
「……ちょっとだけ」
スキマが木の隙間から顔を出した。
目を閉じて、集中している。
スキマは隙間から覗く存在だ。
物理的な隙間だけじゃない。
言葉の隙間、意思の断片も、読み取れるらしい。
「……うるさい、って」
「うるさい?」
「……昨日、ずっとうるさかった、って」
俺は昨日の作業を思い出した。
ハチさんの杭打ち。
ズドン、ズドン、という地響き。
三時間以上、続けていた。
「騒音トラブルか」
「は?」
ミレイが素っ頓狂な声を上げた。
「あいつ、建設工事がうるさくて起きたんだ」
「山の主が、騒音クレーム?」
「そういうことだ」
俺は腕を組んだ。
なるほど。
敵意があるわけじゃない。
ただ、安眠を妨害されて怒っているだけだ。
これは交渉の余地がある。
◆
「ハチさん、下がれ」
「え、でも旦那」
「大丈夫だ。俺が話す」
俺は一歩、前に出た。
五メートルの岩の巨人が、見下ろしてくる。
圧倒的な威圧感。
岩肌から熱気が漂い、硫黄の匂いが鼻をつく。
普通なら、足が竦むだろう。
だが、俺は元社畜だ。
納期三日前に「仕様変更」を告げてくるクライアントに比べれば、こんなもの可愛いものだ。
「おい、岩」
「グォ?」
「お前、寒いのか?」
沈黙。
ゴーレムが、首を傾げた。
岩が軋む音がした。
「スキマ、通訳してくれ」
「……わかった」
スキマが囁くような声で、何かを伝えた。
俺には聞こえない。
意思の断片を、直接送り込んでいるのかもしれない。
ゴーレムが、ゆっくりとうなずいた。
「……寒い、って。地熱が薄い場所は嫌だ、って」
「なるほど」
俺はゴーレムを観察した。
岩の隙間から、白い蒸気が漏れている。
体内に熱源を持っているのか。
マグマ核のようなものがあるのかもしれない。
使える。
「提案がある」
俺はゴーレムに向かって言った。
「お前、うちで働かないか?」
◆
「は?」
ミレイの声が裏返った。
「カイトさん、今なんて」
「協力契約だ」
「いや、相手は山の主だよ? 魔物だよ?」
「魔物も怪異も、適材適所だ」
俺はゴーレムを見上げた。
「お前、熱いのが好きなんだろ?」
スキマが通訳する。
ゴーレムが、またうなずいた。
「なら、いい場所がある」
俺は親指で、建設予定地を指した。
「露天風呂を作る。お前は、その湯を沸かす係だ」
「グォ?」
「毎日、温かい湯に浸かれる。俺たちは風呂に入れる。お互いにメリットがある」
沈黙。
ゴーレムが、じっとこちらを見ている。
スキマが通訳を続けた。
「……温かい湯、毎日?」
「ああ。源泉かけ流しだ。お前が熱源になれば、二十四時間いつでも入れる」
ゴーレムの体から、蒸気が多く噴き出した。
興奮しているのか?
「……いい、って」
スキマが報告した。
「……でも、条件がある、って」
「条件?」
「……静かにしろ、って」
俺は振り返った。
ハチさんが、バツが悪そうに目を逸らした。
「昨日は、ちょっとやりすぎたかね」
「今後は配慮する。それでいいか?」
スキマが通訳した。
ゴーレムが、ゆっくりとうなずいた。
交渉成立だ。
◆
その日の午後。
露天風呂の建設が再開された。
ただし、今回は「静かに」だ。
「ハチさん、杭打ちは禁止」
「えー」
「代わりに、岩を積み上げて浴槽を作れ」
「あいよ」
ハチさんが、しょんぼりしながら岩を運んだ。
杭打ちができないのが不満らしい。
ゴーレムは、その様子を見守っていた。
監督気取りだ。
「グォ」
「……もっと大きく、って」
スキマが通訳した。
「なんであいつが指示出してるんだ」
「……温泉の専門家だから、って」
「専門家か」
どうやら、この山の地熱地帯に長年住んでいたらしい。
温泉の適温も、湯船の深さも、全部把握している。
まあ、任せるか。
◆
三時間後。
岩風呂が完成した。
直径五メートル。深さ一メートル。
ゴツゴツした岩で囲まれた、野趣あふれる露天風呂だ。
湯気の向こうに、夕焼けの森が見える。
「で、あいつはどこに入るんだ?」
「……ここ」
スキマが、浴槽の底を指さした。
見ると、浴槽の中央に、ゴーレムがすっぽり収まる穴が掘られていた。
「半身浴か」
「グォォ」
ゴーレムが、満足そうな声を上げた。
ゆっくりと、浴槽の中央に沈んでいく。
岩の体が、水と一体化する。
そして。
ボコボコボコ。
湯が沸き始めた。
「おお」
ゴーレムの体熱で、水が温められていく。
五分もしないうちに、湯気が立ち上った。
硫黄の香りが、ふわりと漂う。
「ホウ」
ゴーレムが、息を吐いた。
リラックスしている。
まるで、温泉に浸かるおっさんのようだ。
「ガス代、浮いたな」
「魔物を給湯器扱い? それ、どこまで本気で言ってるの」
ミレイが呆れた顔でこちらを見た。
「給湯器じゃない。熱源担当だ」
「同じでしょ」
◆
夕暮れ。
俺たちは完成した露天風呂を囲んでいた。
ゴーレムの名前は「ガンさん」に決まった。
湯を沸かし続けている。
適温は四十二度。
絶妙だ。
「入らないの? カイトさん」
「ああ。今は足湯で十分だ」
俺は岩に腰かけて、足を湯に浸けていた。
じんわりと、熱が体に染み込んでくる。
疲れが、足の裏から抜けていく感覚。
これだ。
これが、俺の求めていた「秘密基地」だ。
「ぽぽぽ、いい湯だねえ」
ハチさんが、向かいで足湯を楽しんでいる。
巨大な足が、湯船からはみ出しそうだ。
「……きもちいい」
スキマは、岩の隙間から足だけ出している。
相変わらず、全身を見せない。
「あんたたち、もう少し普通に入りなさいよ」
ミレイが呆れている。
彼女は肩までしっかり浸かっていた。
タオルを頭に乗せて、完璧な温泉スタイルだ。
「師匠は?」
タマはログハウスの中、暖炉の前で丸くなっていた。
「……めんどい」
相変わらずだ。
尊敬する。
「グォォ」
ガンさんが、また息を吐いた。
湯面に波紋が広がる。
満足そうだ。
「タエさんは?」
「あたしは後でいいさね。煙管が濡れちまう」
タエさんは、少し離れた岩の上で煙を吐いていた。
夕焼けを背に、煙が紫に染まっている。
風情がある。
「明日から、ここが俺の出勤場所だな」
「出勤って、風呂に入るだけでしょ」
「入浴は仕事だ。疲労回復は生産性に直結する」
「屁理屈」
ミレイが湯の中で肩をすくめた。
俺は空を見上げた。
夕焼けが、木々の間から差し込んでいる。
湯気が、オレンジ色に染まっている。
どこかで鳥が鳴いた。
悪くない。
ブラック企業を辞めて、よかった。
心の底から、そう思った。
◆
『協力者登録』
『名称:ガンさん(ロック・ゴーレム)』
『役職:設備担当(熱源)』
『契約形態:業務委託』
『報酬:毎日の入浴権』
DMSに、新しい協力者が追加された。
怪異ではなく、魔物。
召喚ではなく、契約。
従業員ではなく、外部委託。
まあ、細かいことはいい。
仕事をしてくれるなら、それで十分だ。
「よし。これで設備担当も揃った」
「揃ったって、まだ六人目でしょ」
「質だ。量じゃない」
俺は湯から足を上げた。
「明日は何をする?」
「明日?」
「そうだ。秘密基地はまだ完成してない」
俺は周囲を見回した。
ログハウス。露天風呂。結界杭。
基本的なインフラは整った。
だが、まだ足りない。
「次は、食料自給システムだな」
「食料?」
「ダンジョン産の食材を安定供給できれば、外部依存度が下がる」
「また効率の話か」
ミレイが苦笑した。
だが、俺は本気だ。
完全自給自足。
外部との接点を最小化。
究極の引きこもりライフ。
それが、俺の最終目標だ。
「グォォ」
ガンさんが、また湯を沸かし直した。
いい仕事をする。
契約してよかった。
続く
地震ではない。
リズミカルだ。
一定間隔で、ズン、ズン、と足音のような振動が近づいてくる。
「カイトさん!」
ミレイの声。
ログハウスの扉が勢いよく開いた。
「起きて。来る」
「わかった」
俺は寝袋から這い出た。
暖炉の残り火が、かすかに赤い。
タマが不満そうに「にゃ」と鳴いたが、今はそれどころじゃない。
外に出ると、夜明け前の薄暗い森が広がっていた。
木々の間から、朝靄が漂っている。
冷たい空気が、肺に染みる。
そして。
ズ、ズン。
森の奥から、巨大な影が現れた。
◆
岩だ。
いや、岩が歩いている。
高さは、五メートル以上。
ゴツゴツした岩石で構成された人型。
腕は丸太のように太く、足は地面を踏むたびに小さなクレーターを作る。
『警告:大型敵性存在』
『種別:ロック・ゴーレム』
『脅威度:A』
『注意:物理攻撃に対し極めて高い耐性を持つ』
DMSのアラートが赤く点滅した。
「この山の主、ね」
ミレイが裁ち鋏を構えた。
タエさんは煙管を咥えたまま、臨戦態勢。
スキマは、いつの間にか木の隙間に隠れていた。
「任せな、旦那!」
ハチさんが前に出た。
三メートルの巨体が、さらに大きな岩の塊と対峙する。
「待っ」
俺が止める前に、ハチさんが飛び出した。
「ぽぽぽ! デカいのは好きだよ!」
三メートルの白い巨体が、五メートルの岩の巨人に組みついた。
ズドォン!
衝撃波。
周囲の木がバキバキと折れる。
地面が陥没する。
「グォォォ!」
ゴーレムが腕を振り回した。
ハチさんが弾き飛ばされ、ログハウスの壁に激突した。
メキッ。
「やめろぉぉぉ!」
俺は絶叫した。
「せっかく建てたログハウスが! 丸太が! 俺の不動産価値がぁぁぁ!」
「旦那、今それ?」
ハチさんが壁から這い出てきた。
白いワンピースに木屑がついている。
「お前ら、一旦止まれ!」
俺は両手を広げて、二人の間に入った。
「カイトさん?」
ミレイが目を丸くした。
「見ろ。あいつ、追撃してこない」
ゴーレムは、こちらを見下ろしていた。
だが、それ以上襲ってこない。
じっと、俺たちを観察している。
いや、違う。
あいつが見ているのは、ログハウスだ。
◆
「グォォォォ」
ゴーレムが、低いうなり声を上げた。
威嚇ではない。
なんというか、不満そうな声だ。
「スキマ」
「……なに」
「あいつの言葉、わかるか?」
「……ちょっとだけ」
スキマが木の隙間から顔を出した。
目を閉じて、集中している。
スキマは隙間から覗く存在だ。
物理的な隙間だけじゃない。
言葉の隙間、意思の断片も、読み取れるらしい。
「……うるさい、って」
「うるさい?」
「……昨日、ずっとうるさかった、って」
俺は昨日の作業を思い出した。
ハチさんの杭打ち。
ズドン、ズドン、という地響き。
三時間以上、続けていた。
「騒音トラブルか」
「は?」
ミレイが素っ頓狂な声を上げた。
「あいつ、建設工事がうるさくて起きたんだ」
「山の主が、騒音クレーム?」
「そういうことだ」
俺は腕を組んだ。
なるほど。
敵意があるわけじゃない。
ただ、安眠を妨害されて怒っているだけだ。
これは交渉の余地がある。
◆
「ハチさん、下がれ」
「え、でも旦那」
「大丈夫だ。俺が話す」
俺は一歩、前に出た。
五メートルの岩の巨人が、見下ろしてくる。
圧倒的な威圧感。
岩肌から熱気が漂い、硫黄の匂いが鼻をつく。
普通なら、足が竦むだろう。
だが、俺は元社畜だ。
納期三日前に「仕様変更」を告げてくるクライアントに比べれば、こんなもの可愛いものだ。
「おい、岩」
「グォ?」
「お前、寒いのか?」
沈黙。
ゴーレムが、首を傾げた。
岩が軋む音がした。
「スキマ、通訳してくれ」
「……わかった」
スキマが囁くような声で、何かを伝えた。
俺には聞こえない。
意思の断片を、直接送り込んでいるのかもしれない。
ゴーレムが、ゆっくりとうなずいた。
「……寒い、って。地熱が薄い場所は嫌だ、って」
「なるほど」
俺はゴーレムを観察した。
岩の隙間から、白い蒸気が漏れている。
体内に熱源を持っているのか。
マグマ核のようなものがあるのかもしれない。
使える。
「提案がある」
俺はゴーレムに向かって言った。
「お前、うちで働かないか?」
◆
「は?」
ミレイの声が裏返った。
「カイトさん、今なんて」
「協力契約だ」
「いや、相手は山の主だよ? 魔物だよ?」
「魔物も怪異も、適材適所だ」
俺はゴーレムを見上げた。
「お前、熱いのが好きなんだろ?」
スキマが通訳する。
ゴーレムが、またうなずいた。
「なら、いい場所がある」
俺は親指で、建設予定地を指した。
「露天風呂を作る。お前は、その湯を沸かす係だ」
「グォ?」
「毎日、温かい湯に浸かれる。俺たちは風呂に入れる。お互いにメリットがある」
沈黙。
ゴーレムが、じっとこちらを見ている。
スキマが通訳を続けた。
「……温かい湯、毎日?」
「ああ。源泉かけ流しだ。お前が熱源になれば、二十四時間いつでも入れる」
ゴーレムの体から、蒸気が多く噴き出した。
興奮しているのか?
「……いい、って」
スキマが報告した。
「……でも、条件がある、って」
「条件?」
「……静かにしろ、って」
俺は振り返った。
ハチさんが、バツが悪そうに目を逸らした。
「昨日は、ちょっとやりすぎたかね」
「今後は配慮する。それでいいか?」
スキマが通訳した。
ゴーレムが、ゆっくりとうなずいた。
交渉成立だ。
◆
その日の午後。
露天風呂の建設が再開された。
ただし、今回は「静かに」だ。
「ハチさん、杭打ちは禁止」
「えー」
「代わりに、岩を積み上げて浴槽を作れ」
「あいよ」
ハチさんが、しょんぼりしながら岩を運んだ。
杭打ちができないのが不満らしい。
ゴーレムは、その様子を見守っていた。
監督気取りだ。
「グォ」
「……もっと大きく、って」
スキマが通訳した。
「なんであいつが指示出してるんだ」
「……温泉の専門家だから、って」
「専門家か」
どうやら、この山の地熱地帯に長年住んでいたらしい。
温泉の適温も、湯船の深さも、全部把握している。
まあ、任せるか。
◆
三時間後。
岩風呂が完成した。
直径五メートル。深さ一メートル。
ゴツゴツした岩で囲まれた、野趣あふれる露天風呂だ。
湯気の向こうに、夕焼けの森が見える。
「で、あいつはどこに入るんだ?」
「……ここ」
スキマが、浴槽の底を指さした。
見ると、浴槽の中央に、ゴーレムがすっぽり収まる穴が掘られていた。
「半身浴か」
「グォォ」
ゴーレムが、満足そうな声を上げた。
ゆっくりと、浴槽の中央に沈んでいく。
岩の体が、水と一体化する。
そして。
ボコボコボコ。
湯が沸き始めた。
「おお」
ゴーレムの体熱で、水が温められていく。
五分もしないうちに、湯気が立ち上った。
硫黄の香りが、ふわりと漂う。
「ホウ」
ゴーレムが、息を吐いた。
リラックスしている。
まるで、温泉に浸かるおっさんのようだ。
「ガス代、浮いたな」
「魔物を給湯器扱い? それ、どこまで本気で言ってるの」
ミレイが呆れた顔でこちらを見た。
「給湯器じゃない。熱源担当だ」
「同じでしょ」
◆
夕暮れ。
俺たちは完成した露天風呂を囲んでいた。
ゴーレムの名前は「ガンさん」に決まった。
湯を沸かし続けている。
適温は四十二度。
絶妙だ。
「入らないの? カイトさん」
「ああ。今は足湯で十分だ」
俺は岩に腰かけて、足を湯に浸けていた。
じんわりと、熱が体に染み込んでくる。
疲れが、足の裏から抜けていく感覚。
これだ。
これが、俺の求めていた「秘密基地」だ。
「ぽぽぽ、いい湯だねえ」
ハチさんが、向かいで足湯を楽しんでいる。
巨大な足が、湯船からはみ出しそうだ。
「……きもちいい」
スキマは、岩の隙間から足だけ出している。
相変わらず、全身を見せない。
「あんたたち、もう少し普通に入りなさいよ」
ミレイが呆れている。
彼女は肩までしっかり浸かっていた。
タオルを頭に乗せて、完璧な温泉スタイルだ。
「師匠は?」
タマはログハウスの中、暖炉の前で丸くなっていた。
「……めんどい」
相変わらずだ。
尊敬する。
「グォォ」
ガンさんが、また息を吐いた。
湯面に波紋が広がる。
満足そうだ。
「タエさんは?」
「あたしは後でいいさね。煙管が濡れちまう」
タエさんは、少し離れた岩の上で煙を吐いていた。
夕焼けを背に、煙が紫に染まっている。
風情がある。
「明日から、ここが俺の出勤場所だな」
「出勤って、風呂に入るだけでしょ」
「入浴は仕事だ。疲労回復は生産性に直結する」
「屁理屈」
ミレイが湯の中で肩をすくめた。
俺は空を見上げた。
夕焼けが、木々の間から差し込んでいる。
湯気が、オレンジ色に染まっている。
どこかで鳥が鳴いた。
悪くない。
ブラック企業を辞めて、よかった。
心の底から、そう思った。
◆
『協力者登録』
『名称:ガンさん(ロック・ゴーレム)』
『役職:設備担当(熱源)』
『契約形態:業務委託』
『報酬:毎日の入浴権』
DMSに、新しい協力者が追加された。
怪異ではなく、魔物。
召喚ではなく、契約。
従業員ではなく、外部委託。
まあ、細かいことはいい。
仕事をしてくれるなら、それで十分だ。
「よし。これで設備担当も揃った」
「揃ったって、まだ六人目でしょ」
「質だ。量じゃない」
俺は湯から足を上げた。
「明日は何をする?」
「明日?」
「そうだ。秘密基地はまだ完成してない」
俺は周囲を見回した。
ログハウス。露天風呂。結界杭。
基本的なインフラは整った。
だが、まだ足りない。
「次は、食料自給システムだな」
「食料?」
「ダンジョン産の食材を安定供給できれば、外部依存度が下がる」
「また効率の話か」
ミレイが苦笑した。
だが、俺は本気だ。
完全自給自足。
外部との接点を最小化。
究極の引きこもりライフ。
それが、俺の最終目標だ。
「グォォ」
ガンさんが、また湯を沸かし直した。
いい仕事をする。
契約してよかった。
続く
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【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
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旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
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世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
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