実家の裏庭がダンジョンだったので、口裂け女や八尺様に全自動で稼がせて俺は寝て暮らす〜元社畜のダンジョン経営〜

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第13話 八尺様はガテン系

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 重機は、高い。

 ログハウスを建てるには、まず土地の整地が必要だ。
 整地には重機が必要だ。
 重機のリース代は、一日あたり数万円。

 それが、俺の常識だった。

 翌朝。
 俺はコアルームに戻り、DMSの召喚メニューを開いた。

「500DPか」

 従業員召喚:500DP。
 現在のDP残高:2,950。

 余裕だ。

「カイトさん、本当に召喚するの?」

 ミレイが横から覗き込んできた。
 マスク越しでも、心配そうな表情がわかる。

「ああ。建築担当が必要だ」

「でも、八尺様はっしゃくさまって……」

「知ってる。子供をさらう怪異だろ?」

 俺は検索結果を指でなぞった。

『候補:八尺様』
『分類:高位カース・スピリット』
『特性:身長三メートル超、怪力、土木適性あり』

「適材適所だ」

「その発想がおかしいって言ってるの」

    ◆

 召喚を実行する。

『従業員召喚を実行します』
『500DP消費 残高:2,450DP』

 空間が歪んだ。
 闇から、白い影が這い出てくる。

 まず見えたのは、白いドレスの裾。
 次に、異様に長い足。
 そして——

「っ!」

 ミレイが息を呑んだ。

 三メートルはある長身。
 白いワンピース。白い帽子。
 顔は帽子の影に隠れて見えない。

 圧倒的な存在感。
 本能が警鐘を鳴らす類の、原初的な恐怖。

「ぽ……」

 低く、くぐもった声が響く。

「ぽ、ぽ、ぽ……」

 背筋が凍るような笑い声。
 いや、笑い声なのか?

 ミレイが裁ち鋏を構えた。
 臨戦態勢だ。

 俺は腕を組んで、八尺様を見上げた。

「でかいな」

「……ぽ?」

「天井に頭ぶつけるぞ、ここ」

 沈黙。

 八尺様の動きが止まった。
 帽子の下から、細い目がこちらを見下ろす。

「……あんた、怖くないの?」

 声が変わった。
 低いが、意外とさっぱりした声だ。

「怖い? 何が?」

「あたいが」

「お前は従業員候補だろ。怖がる理由がない」

 八尺様が首を傾げた。
 三メートルの巨体が傾くと、それだけで圧迫感がある。

「……変わってんね、旦那」

「よく言われる」

    ◆

 八尺様は、意外とまともだった。

「ぽぽぽ」は、ただの口癖らしい。
 笑うときに出る。
 本人いわく、「昔っから」とのこと。

「名前、決めてくれよ。旦那」

「ハチさんで」

「即決じゃん。いいね、そういうの」

 ハチさんは愉快そうに笑った。
 ぽぽぽ、と。

 ミレイがこっそり耳打ちしてきた。

「……意外と、普通?」

「お前も最初は怖かったぞ」

「それ、褒めてないよね?」

 ハチさんが周囲を見回した。
 結界杭で守られた安全地帯。
 張りっぱなしのテント。
 焚き火の跡。

「で、何建てるの?」

「ログハウス」

「お、いいねえ! あたい、建築好きなんだよ」

 目が輝いた。
 三メートルの巨体が、子供のようにはしゃぐ。

「マジで?」

「マジマジ。昔っから、でっかいもの作るの好きでさ」

 ハチさんは両手を広げた。

「任せな、旦那。あたいに不可能はないよ」

 頼もしい。
 採用してよかった。

    ◆

 作業は、その日の午後から始まった。

 まず、整地。

 ハチさんが地面に手をついた。
 ぐっ、と力を込める。

 ゴゴゴ……と地鳴りがした。

 岩が砕ける。
 土が均される。
 木の根が引き抜かれる。

 わずか10分で、平坦な土地が出現した。

「……重機いらないじゃん」

 ミレイが呆然とつぶやいた。

「リース代が浮いた」

 俺は満足げにうなずいた。

    ◆

 次に、基礎工事。

 昨日狩ったトレントの木材を使う。
 丸太を杭として使用する。

 ハチさんが丸太を持ち上げた。
 片手で。軽々と。

 そして、地面に叩きつけた。

 ズドン!

 杭が、一発で地中深くまで刺さる。

「杭打ち機だ……」

「人力でやってるけどね」

 ミレイのツッコミが虚しく響いた。

 ハチさんは次々と杭を打ち込んでいく。
 リズミカルに。楽しそうに。

「ぽぽぽ、こりゃいい運動だね!」

「運動……」

 10分後、基礎が完成した。

    ◆

 問題は、組み立てだった。

 ハチさんの仕事は豪快だ。
 だが、繊細さに欠ける。

「ハチさん、その丸太、三センチずれてる」

「え、マジ? ま、いっか!」

「よくない」

 俺は頭を抱えた。

 そこで、分業体制を構築した。

「ハチさんは組み立て担当」

「あいよ!」

「ミレイは調整担当。鋏で隙間を削れ」

「……大工道具扱い?」

「スキマは隙間埋め担当」

「……わかった……」

 スキマが壁の隙間から顔を出した。
 いつの間にか来ていたらしい。

「タエさんは資材運搬」

『あいよ。任せな』

 通信用魔石から返事が聞こえた。

 四人体制。
 いや、四怪異体制か。

 作業が再開された。

    ◆

 ハチさんが丸太を積み上げる。
 ミレイが鋏で角を調整する。
 スキマが隙間にパテ代わりの樹液を流し込む。
 タエさんが猛スピードで木材を運んでくる。

 チームワーク。
 連携。
 効率。

 美しい。

「カイトさん、あんたは何するの?」

 ミレイが髪をかき上げながら聞いてきた。

「監督」

「働けよ」

 正論だった。

 だが、社畜時代に学んだことがある。
 できる仕事は、できる奴に任せろ。
 上司の仕事は、邪魔しないことだ。

「俺は判断だけする。それが経営だ」

「……そう」

 ミレイは何か言いたげだったが、黙って作業に戻った。

    ◆

 3時間後。

 骨組みが完成した。

「早くない?」

「ハチさんの怪力とタエさんの機動力の賜物だ」

 俺は出来上がった骨組みを見上げた。

 頑丈そうだ。
 というか、頑丈すぎる。
 丸太が三重に積まれている部分もある。

「核シェルター並みの強度だな」

「ぽぽぽ、頑丈が一番だろ?」

 ハチさんが誇らしげに笑った。

「異論はない」

    ◆

 作業は夕方まで続いた。

 壁が立ち、屋根が乗り、窓が開いた。

 完成だ。

 俺たちは出来上がったログハウスを眺めた。

 正直、プロの大工が見たら卒倒しそうな出来栄えだ。
 歪んでいる。傾いている。隙間だらけだ。

 だが、スキマが隙間を埋め、ミレイが調整した結果——
 なんとか「家」と呼べる形になった。

「悪くない」

「……基準が低くない?」

「雨風がしのげれば、それは家だ」

 俺は中に入った。

 広い。
 天井が高い。
 ハチさん基準で設計したので、天井高は四メートルある。

「ここはハチさんの部屋にするか」

「え、いいの?」

 ハチさんの目が輝いた。

「あたい、デカすぎて普通の家じゃ住めなくてさ……」

「なら、ちょうどいいだろ」

 ハチさんが黙った。
 俯いている。

「……旦那」

「なんだ」

「あんた、いい人だね」

「違う。効率的なだけだ」

 ハチさんが笑った。
 今度は「ぽぽぽ」ではなく、普通の笑い声だった。

    ◆

 ログハウスの外に出る。

 タエさんが煙管をふかしながら待っていた。

「いい仕事だったねえ」

「ああ。だが、まだ足りない」

「足りない?」

 俺は周囲を見回した。

 第三階層には水源がある。
 川のせせらぎが聞こえる。

「露天風呂を作る」

「……は?」

 ミレイの声が裏返った。

「秘密基地に風呂は必須だろ。男のロマンだ」

「いや、その発想がおかしいって何度も……」

「ハチさん、岩風呂作れるか?」

「余裕余裕! 任せな、旦那!」

 ハチさんが腕まくりをした。
 やる気満々だ。

「配管はスキマに任せる」

「……がんばる……」

「水源からの導線はタエさんが調査」

「あいよ」

 全員が動き始めた。

 秘密基地開発計画。
 次のフェーズは、インフラ整備だ。

 俺は満足げにうなずいた。

    ◆

 その夜。

 露天風呂の工事は翌日に持ち越しとなった。
 さすがに一日で全部は無理だ。

 俺たちはログハウスの中で焚き火を囲んでいた。
 暖炉代わりの石組みを、ハチさんが急造してくれた。

「師匠は相変わらず炬燵か」

 つぶやくと、ミレイの眉がぴくりと動いた。

「……まだ師匠って呼んでるんだ」

「当然だ。怠惰の先達に敬意は欠かせない」

「今日は疲れたねえ」

 タエさんが煙を吐いた。
 話題を変えてくれたらしい。

「……マシュマロ……」

 スキマがまた持ってきた。どこから出しているんだ。

「あたいにもくれよ」

 ハチさんが手を伸ばす。
 巨大な手でマシュマロを摘むと、指ぬきのように見えた。

 ミレイが俺の隣に座った。

「ねえ、カイトさん」

「なんだ」

「こうやって増えていくの? 従業員」

「必要に応じて」

「……大家族みたいだね」

 ミレイの声が、少し柔らかかった。

「会社だ。家族じゃない」

「そう?」

 俺は答えなかった。

 焚き火の炎が揺れる。
 怪異たちの影が、壁に伸びる。

 ——ゴゴゴ……。

 その時、地鳴りが響いた。

「……なに、今の」

 ミレイが立ち上がった。

 地面が、微かに揺れている。

『警告:大型敵性存在を感知』
『推定位置:第三階層深部』
『警告レベル:高』

 DMSのアラートが赤く点滅した。

「建築の音が響いたか……」

 俺は立ち上がった。

「何かを起こしたみたいだな」

「……ボス、とか?」

「かもな」

 地鳴りが、また響いた。
 今度は、さっきより近い。

「明日は忙しくなりそうだ」

 俺はマシュマロを口に放り込んだ。

 甘い。
 平和な味だ。

 ——たぶん、今夜が最後の。

                     続く
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