偽りの令嬢を演じるオメガ(♂)を救うため、平民アルファの俺が傲慢な大公爵家に喧嘩を売って、二人で自由を掴み取る物語

水凪しおん

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エピローグ「君と紡ぐ物語」

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 あれから、数年の歳月が流れた。
 ケイトとセシルは、あの自由な港町アクアリアに根を下ろし、穏やかな日々を送っていた。
 ケイトのずば抜けた魔術の腕は街でも評判となり、魔物退治やトラブル解決を請け負うギルドの凄腕として、街を守る頼れる存在となっていた。かつて「成り上がり」と蔑まれた平民の少年は、今や多くの人々から尊敬と信頼を集める、立派な一人の男になっていた。
 セシルは、自身の経験を元に、街の片隅で小さな相談所を開いていた。身分や性別、家柄といった、社会の押し付ける窮屈な価値観に悩む人々の話に、静かに耳を傾ける。彼の優しく、そして芯の強い言葉は、多くの人々の心を救い、相談所はいつも人の出入りが絶えなかった。偽りの令嬢を演じていた青年は、今、ありのままの自分で、人々の心を癒す存在となっていた。
 ある晴れた日の午後、一通の手紙が二人のもとに届いた。差出人は、懐かしい友人、リアムからだった。
 手紙を読んだセシルは、驚きと感動に目を潤ませていた。隣に座ったケイトが、どうしたんだと彼の肩を抱く。
「リアムから……僕たちの事件がきっかけで、学園や貴族社会が、少しずつだけど、変わり始めているんだって」
 手紙には、こう綴られていた。ケイトという平民が魔術対抗戦で優勝したこと、そしてセシルの事件が起こした波紋により、旧態依然とした貴族たちの価値観に疑問を持つ若者が増え始めたこと。平民と貴族の間の見えない壁が、ほんの少しだけれど、低くなったこと。そして、ゼノン・ヴァレンシュタインは、家の力を笠に着た卑劣な行いが明るみに出て失脚し、クラインフェルト公爵家もまた、その権威を大きく失墜させたこと。
「僕たちのしたことは、無駄じゃなかったんだね」
 セシルの言葉に、ケイトは力強くうなずいた。
 手紙を読み終えたセシルの隣で、ケイトは愛おしそうに彼のお腹にそっと手を触れた。そこには、新しい命が宿っており、ふっくらと膨らんでいた。番となったオメガの身体に宿った、二人の愛の結晶だ。
「ああ。そして、俺たちの子供は、俺たちみたいに苦労はさせない。あの子が生まれる頃には、もっといい世界になっているはずだ。いや、俺たちが作っていくんだ。誰でも、自由に生きられる世界を」
 ケイトの力強い言葉に、セシルは世界一幸せそうな微笑みを浮かべて、こくりとうなずいた。
 窓の外では、かつて二人で絶望の淵から逃げてきたあの夜明けと同じ、美しく、希望に満ちた朝日が、穏やかな港町と、寄り添う二人、そしてその未来を、どこまでも明るく照らしていた。

 二人の物語は、まだ始まったばかり。これからも、続いていく。
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