【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん

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第6話「芽生える独占欲」

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 アッシュが伝説の英雄だと知ってからも、僕たちの生活は基本的には変わらなかった。彼は相変わらず無愛想で、でも甲斐甲斐しく僕の世話を焼き、畑仕事を手伝ってくれた。
 変わったことと言えば、僕の作る野菜の噂が、行商人のロルフさんを通じて、少しずつ遠くの街まで広まり始めていたことだろうか。

 その日、僕たちの家には見慣れない商人が訪れていた。遠くの商業都市から、わざわざ噂を聞きつけてやってきたらしい。

「素晴らしい! フィン様、あなたの作る野菜はまさに奇跡です! この品質なら、王侯貴族にだって高値で売れますぞ!」

 商人は僕のトマトを一口食べるなり、大げさな身振り手振りで絶賛した。そして、ぬるりとした手つきで僕の手を握り、いやらしい笑みを浮かべる。

「ぜひ、我が商会と専属契約を結んでいただきたい! あなた様が望むなら、金も、地位も、女だって……」

「――その手を離せ」

 商人の言葉を遮ったのは、地を這うような低い声だった。
 いつの間にか僕の隣に立っていたアッシュが、商人の手首を掴んでいた。その目には、今まで見たこともないような、冷たい殺気が宿っている。

「ひっ! な、なんだお前は!」

 商人は恐怖に引きつった声を上げた。

「こいつの野菜は、俺のものだ」

 アッシュはギリっと、商人の手首を握る力を強めた。ミシミシと嫌な音が聞こえ、商人の顔が苦痛に歪む。

「それに、フィンに気安く触るな」

 その声は絶対零度の氷のようだった。嫉妬と独占欲を、隠そうともしない剥き出しの感情。僕を守るためだと分かっていても、そのあまりの迫力に、僕の心臓が大きく跳ねた。
 商人はアッシュの気迫に完全に怯え、震える声で「も、申し訳ありませんでした!」と叫ぶと、文字通り這うようにして逃げていった。

 静かになった家の中で、アッシュはまだ不機嫌そうな顔で僕を見ている。

「あ、ありがとう、アッシュ。助かったよ」

「……お前は無防備すぎる」

「え?」

「あんな奴に簡単に手を握らせるな。……お前の作る野菜も、お前自身も、俺以外のものになるのは許さん」

 そう言って、アッシュは僕の手を掴むと、まるで汚れを払うかのように自分の袖でゴシゴシと拭いた。その仕草は少し乱暴なのに、どこか優しさも感じられた。
 自分のために、こんなに本気で怒ってくれる人がいる。
 その事実に、僕の胸はドキドキと高鳴り、顔に熱が集まっていくのが分かった。アッシュの強い独占欲が、なぜだか少し、嬉しかった。
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