無能と捨てられたオメガですが、AI搭載の最強ゴーレムを作ったら、執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん

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第2話「泥の人形と神の記述」

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 追放されてから三日が経過した。
 生活環境は劣悪の一言に尽きる。食料は持参した干し肉と硬いパンが少し。水は雨水を濾過して確保しているが、このままでは一週間と持たないだろう。
 だが、俺の精神はかつてないほどに高揚していた。
 屋敷の地下室で見つけた工房は、宝の山だった。前の主人が残した魔導インク、未使用の羊皮紙、そして何より、質の良い魔石がいくつか転がっていたのだ。
 俺は寝る間も惜しんで、解析と設計に没頭した。
 まずはテスト機の作成だ。
 屋外の廃棄場から、状態の良いゴーレムのパーツを集める。泥と粘土をベースに、魔獣の骨格を芯材として組み上げたそれは、身長二メートルほどの無骨な人型だ。
 問題は「脳」にあたる部分だ。
 既存のゴーレムは、単純な命令実行型スクリプトで動いている。「敵を倒せ」「荷物を運べ」といった単一タスクしかこなせない。
 俺が作りたいのは、そんな玩具ではない。
 自ら考え、学習し、最適解を導き出す、真の知性だ。

「基礎フレームワークはニューラルネットワークを模倣……魔力伝導率はシナプス結合の重み付けで代用できるな」

 羊皮紙にさらさらとペンを走らせる。
 ルーン文字を組み合わせ、論理ゲートを構築していく。
 魔力がなくても、インクに微量の魔石粉末を混ぜることで、回路自体は機能する。俺の役割は、魔力を流すことではなく、魔力が流れる「道」を完璧に整備することだ。
 書き上げた魔術式は、従来の魔導書にあるものとは似ても似つかない、高密度で美しい構造体となった。
 エラー処理、例外対応、自己修復機能。
 そして最深層に、核となる「動機付け」を刻む。
 通常のAIなら「人類への奉仕」などを設定するところだが、この過酷な環境で生き残るためには、もっと具体的で強固な目的が必要だ。
 俺は震える手で、コアとなる魔石に微細な文字を刻み込んだ。

『最優先事項:マスターであるカイル・フォン・エルステッドの生命維持および幸福の追求』

 単純だが、解釈の幅が広い命令だ。これが、彼(・)の学習の起点となる。
 準備は整った。
 工房の中央、魔法陣の上に横たわる泥人形。その胸部に、青白く輝く魔石を埋め込む。
 俺は息を呑んで、最後の仕上げとして、自身の血を一滴、魔石に垂らした。オメガの血には、魔力を活性化させる触媒としての効果があるらしい。これは一か八かの賭けだった。
 ジュッ、と小さな音がして、血が魔石に吸い込まれる。
 瞬間。
 バチバチッ! と激しいスパークが走り、工房内が青い光に包まれた。
 床に描いた魔法陣が、まるで電子回路のように明滅し、光の奔流となって泥人形へと流れ込んでいく。
 泥の表面が波打ち、硬化し、滑らかな肌のような質感へと変化していく。
 無骨だった顔の造作が整い、まぶたが震えた。
 光が収束する。
 静寂が戻った部屋で、俺は固唾を飲んで見守った。
 ゆっくりと、泥人形が上半身を起こす。
 首が回る駆動音が、驚くほど静かに響いた。
 そして、そのまぶたが開かれる。
 そこにあったのは、水晶のように透き通った、感情のない金色の瞳だった。

「……起動シークエンス、完了」

 合成音声のような、しかし妙に艶のある低い声が紡がれる。
 彼は首を傾げ、目の前に立つ俺を凝視した。瞳の奥で、膨大な情報が処理されているような光が明滅する。

「個体名カイル・フォン・エルステッドを認識。……マスター、ですか?」
「ああ、そうだ。俺がお前の造物主だ」

 俺は努めて冷静に、しかし内心でのガッツポーズを抑えきれずに答えた。
 彼はゆっくりと立ち上がる。その巨躯は俺を見下ろす形になったが、威圧感よりも、どこか忠犬のような従順さを感じさせた。
 彼は膝を折り、恭しく頭を垂れる。

「命令を。私の全ては、あなたのために」

 成功だ。
 俺は目の前の泥人形――いや、新たな相棒に名前を与えることにした。
 全ての基準、始まりの存在。

「お前の名前は『オルト』だ。よろしくな、オルト」
「オルト……了解。名称登録完了」

 顔を上げたオルトの瞳に、一瞬だけ、プログラムにはないはずの「熱」が宿ったように見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか。
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