無能と捨てられたオメガですが、AI搭載の最強ゴーレムを作ったら、執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん

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第1話「論理と泥の追放劇」

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 冷たい雨が、馬車の屋根を執拗に叩き続けていた。
 ガタガタと車輪が泥濘を噛む振動が、尻を通して全身に不快なリズムを刻み込む。窓の外は灰色の帳が下りており、流れる景色など何ひとつ見えやしない。ただ、湿った土の匂いと、御者が馬を急かす罵声だけが、この世界の現実感を突きつけてくる。
 私は……いや、俺、カイル・フォン・エルステッドは、小さくため息をついて、かじかんだ指先を擦り合わせた。
 指先には冷たさしかなく、魔力と呼ばれる温かな脈動は微塵も感じられない。
『無能なオメガめ。エルステッド家の恥さらしが』
 父の吐き捨てた言葉が、雨音に混じってリフレインする。
 ここは剣と魔法の世界だ。そして何より厄介なことに、人間が生まれながらにして第二の性を持つ、いわゆるオメガバースの世界観が適用されているらしい。
 前世の俺は、四角いモニターとキーボードに囲まれ、ひたすらにコードを書き続けるAI研究者だった。睡眠時間を削り、栄養剤で命をつなぎ、論理の迷宮に没頭した末に、おそらく心臓発作か何かであっけなく死んだ。
 目覚めれば、豪奢な天蓋付きのベッド。貴族の三男坊としての第二の人生。
 神様とやらの気まぐれに感謝したのも束の間、俺を待っていたのは「魔力ゼロ」という絶望的な診断と、最底辺の階級とされる「オメガ」という烙印だった。
 この世界では、魔力を持つ者がアルファとして支配層に立ち、持たざる者はベータ、そして魔力がない上に「発情期」などという厄介な生理現象を持つオメガは、徹底的に蔑まれるか、あるいは性の玩具として扱われる。
 俺は当然のように、辺境の地にある「ゴーレム廃棄場」の管理人という名目で、事実上の追放処分を受けたわけだ。

「……到着しましたぜ、坊ちゃん」

 御者のぶっきらぼうな声と共に、馬車が停止する。
 扉が開くと、湿気を含んだ冷気がどっと流れ込んできた。俺は薄い外套をかき合わせ、ぬかるんだ地面へと足を下ろす。
 そこは、まさに墓場だった。
 見渡す限りの荒野に、朽ち果てた石造りの屋敷が一軒。その周囲には、かつて栄華を極めた魔法文明の残骸――壊れたゴーレムのパーツが、山のように積み上げられている。
 雨に濡れた泥人形の残骸たちは、まるで死体の山のようだ。
 御者は俺の荷物を乱暴に降ろすと、逃げるように馬車を走らせて去っていった。泥水を跳ね上げ、あっという間に見えなくなる背中を見送りながら、俺は独り言をつぶやく。

「さて……効率的に絶望している暇はないな」

 前世からの癖で、俺は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。眼鏡なんてかけていないのに、思考を切り替えるスイッチのようなものだ。
 まずは生存領域の確保。
 俺は雨を避けるようにして、廃屋敷の重厚な扉を押し開けた。
 ギィィ、と錆びついた蝶番が悲鳴を上げる。
 中は埃とカビの臭いが充満していたが、雨風をしのぐには十分だろう。広間には蜘蛛の巣が張り巡らされ、家具のほとんどは朽ちている。だが、俺の目は部屋の隅にある書架に釘付けになった。
 あそこだけ、淡い光を放っているように見えたのだ。
 近づいてみると、分厚い革張りの本が数冊、乱雑に置かれている。
 俺は埃を払い、その一冊を手に取った。『ゴーレム工学基礎論』と背表紙にある。
 ページをめくる。
 そこには、複雑怪奇な幾何学模様と、ルーン文字と呼ばれる難解な記号がびっしりと書き込まれていた。
 普通なら、ただの呪文の羅列に見えるだろう。
 だが、俺の目には違って見えた。

『……これは、関数か?』

 心臓が早鐘を打つ。
 円環の中に記述されたルーン文字の配列。変数の定義、条件分岐、ループ処理。
 魔法とは、大気中のマナをリソースとして実行される、一種のプログラムだったのだ。
 俺には魔力を生み出す器官はない。しかし、このソースコードを理解し、最適化し、書き換える知識がある。
 魔力がないなら、魔力を持っている「何か」を動かせばいい。
 俺の視線は、窓の外へと向いた。
 そこには、動力源(魔石)を持ったまま放置されている、無数のハードウェアたちが転がっている。
 ニヤリと、自然に口角が上がった。
 前世でやり残した夢。完全自律思考型のAI開発。
 この世界でなら、倫理委員会の承認も、予算の申請も、サーバー代の心配もいらない。
 ここにあるのは、無限の素材と、俺というエンジニアだけだ。

「見せてやるよ、アルファ共。オメガの作った論理が、お前たちの魔力をどう凌駕するかをな」

 雨音が、俺を祝福する拍手のように聞こえ始めていた。
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