隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

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第5話「不器用な距離感」

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 クレイドの専属になってから数日が過ぎた。
 俺の生活は激変した。
 まず、住む場所が変わった。下層区画の狭い寮から、上層区画にあるクレイドの私邸の一室へ。
 広すぎて落ち着かないし、家具がいちいち高級すぎる。

 そして何より、クレイドの態度がおかしい。

「おい、これを食え」

 整備ドックで作業をしていると、突然クレイドが現れ、包みを押し付けてきた。
 開けてみると、高級な栄養サンドイッチと、珍しい果物が入っていた。

「え、これ……?」

「食堂の飯は不味いだろう。体を作るのも仕事のうちだ」

 そう言って、彼はプイと顔を背けて去っていく。
 周りの整備士たちが、信じられないものを見る目で俺を見ていた。

「おいエリアン、あの『氷の騎士』様が差し入れかよ!?」

「お前、一体どんな手を使ったんだ?」

「うるさいな、たまたまだよ!」

 俺は誤魔化したが、顔が熱くなるのを感じた。
 それだけじゃない。
 重いパーツを運ぼうとすれば「貸せ」と言って奪い取っていくし、夜遅くまで図面を引いていると「早く寝ろ」と部屋まで言いに来る。

 過保護だ。
 明らかに、過保護すぎる。

 ある夜、リビングでクレイドと顔を合わせた。
 彼はソファで電子書籍を読んでいたが、俺に気づくと視線を上げた。

「……体調はどうだ?」

「問題ありません。抑制剤も飲んでますし」

「その薬だが、あまり強いものは使うな。体に毒だ」

 彼は眉をひそめて言った。

「でも、飲まないと匂いが……」

「私の側にいる限り、他のアルファは近寄らせん。だから、無理に抑え込む必要はない」

 彼はサラリと言ってのけた。
 その言葉の意味を理解して、俺は赤面した。
 それはつまり、彼の匂い(マーキング)があれば、他の男除けになるという意味だ。

「……それじゃ、まるで番みたいじゃないですか」

 俺は小声でつぶやいた。
 するとクレイドの手が止まり、彼は真剣な眼差しで俺を見た。

「嫌か?」

「えっ」

「私に守られるのは、不服か?」

 その問いかけに、俺は言葉に詰まった。
 不服なわけがない。
 彼の不器用な優しさは、孤独だった俺の心に少しずつ染み込んできている。
 ただ、それが主従としての義務感なのか、それとも別の感情なのかが分からなくて怖いのだ。

「……嫌じゃ、ないです。ただ、慣れないだけで」

 俺がそう答えると、クレイドは満足げに頷き、再び読書に戻った。
 だが、その耳がわずかに赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。

 こいつ、意外と可愛いところがあるのかもしれない。
 俺は自分の胸の鼓動をごまかすように、キッチンへと逃げ込んだ。
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