隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

文字の大きさ
7 / 16

第6話「嫉妬と疑惑」

しおりを挟む
 平穏な日々は長くは続かなかった。
 クレイドの専属になったことで、俺に向けられる視線は好意的なものばかりではなかったからだ。

 特に、第二小隊の隊長であるゼクスという男は、あからさまに敵意を向けてきた。
 彼は以前からクレイドをライバル視しており、その専属整備士が新入りの俺になったことが気に入らないらしい。

「おい、そこの腰巾着」

 廊下ですれ違いざま、ゼクスに肩をぶつけられた。
 俺はよろめきながらも踏みとどまり、彼を睨み返す。

「何か用ですか、ゼクス隊長」

「フン、ただのベータ風情が、クレイドに取り入っていい気になっているようだがな。あいつの機体が好調なのは、お前の腕がいいからじゃない。たまたまだ」

「そうですか。でも、結果は出ています」

 俺は冷静に返した。整備データを見れば一目瞭然だ。銀狼の稼働効率は以前より15%も向上している。

「口の減らないガキだ。……まあいい。次の遠征任務、失敗したらただじゃ済まさんぞ。お前の化けの皮を剥いでやる」

 ゼクスは意味深な笑みを浮かべて去っていった。
 化けの皮。その言葉にドキリとする。
 まさか、俺がオメガだと疑っているのか?

 不安を抱えたまま、遠征任務の日がやってきた。
 今回は汚染区域の深部にある、旧時代の浄化プラントを再起動させる作戦だ。
 クレイドの銀狼を先頭に、数機の機装が出撃する。
 俺は後方支援の装甲車に乗り込み、リアルタイムで機体の状態を監視していた。

「ポイントA、到達。汚染濃度、予想より高いぞ」

 無線からクレイドの声が聞こえる。
 ノイズ混じりのその声には、わずかな緊張が滲んでいた。

「クレイド様、フィルターの出力を上げてください。エンジンの冷却が追いつきません」

 俺はマイクに向かって指示を出す。

「了解。……エリアン、私の声が聞こえているか?」

「はい、クリアに聞こえています」

「ならいい。お前の声が聞こえると、不思議と落ち着く」

 不意打ちのような言葉に、俺はマイクを握りしめた。
 こんな状況で、何を言っているんだこの人は。
 でも、その信頼が嬉しかった。

 順調に進んでいた作戦だったが、プラント内部に侵入した直後、異変が起きた。
 ゼクスの機体が、突然隊列を離れたのだ。

「ゼクス隊長!? ルートが違います!」

「うるさい! こっちに近道があるんだよ!」

 ゼクスが向かった先は、構造図にはない未確認エリアだった。
 そして次の瞬間、爆発音が響き渡り、大量の汚染獣が壁を突き破って溢れ出してきた。

「なっ……罠か!?」

「違う、誘引剤だ! 誰かが汚染獣をおびき寄せたんだ!」

 混乱する通信網。
 その中で、クレイドの銀狼だけが冷静に反応した。

「総員、円陣を組め! 私が前衛に出る!」

 銀色の機体が剣を抜き、群がる敵をなぎ倒していく。
 だが、数が多すぎる。
 それに、この場所は磁場が狂っている。
 同調システムにノイズが走り始めた。

「くっ……頭が……割れそうだ……」

 クレイドの苦しげな声。
 俺はモニターを見て凍りついた。
 外部からの妨害電波だ。誰かが意図的に、クレイドの機装の制御を奪おうとしている。

 ゼクスだ。あいつ、クレイドを陥れるためにこんな真似を!

「クレイド様! 同調を切ってください! このままだと逆流します!」

「ダメだ……今引いたら、部下たちが全滅する……!」

 彼は引かない。そういう男だ。
 俺は歯を食いしばった。
 ここで俺ができることは一つしかない。
 俺はシステムに割り込みコードを打ち込んだ。
 俺の精神波を、直接回線に乗せて送る。

 距離は離れている。でも、一度繋がった俺たちなら届くはずだ。
『俺を使ってください、クレイド!』
 俺の叫びは、電子の海を越えて彼に届いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

捨てられΩの癒やしの薬草、呪いで苦しむ最強騎士団長を救ったら、いつの間にか胃袋も心も掴んで番にされていました

水凪しおん
BL
孤独と絶望を癒やす、運命の愛の物語。 人里離れた森の奥、青年アレンは不思議な「浄化の力」を持ち、薬草を育てながらひっそりと暮らしていた。その力を気味悪がられ、人を避けるように生きてきた彼の前に、ある嵐の夜、血まみれの男が現れる。 男の名はカイゼル。「黒き猛虎」と敵国から恐れられる、無敗の騎士団長。しかし彼は、戦場で受けた呪いにより、αの本能を制御できず、狂おしい発作に身を焼かれていた。 記憶を失ったふりをしてアレンの元に留まるカイゼル。アレンの作る薬草茶が、野菜スープが、そして彼自身の存在が、カイゼルの荒れ狂う魂を鎮めていく唯一の癒やしだと気づいた時、その想いは激しい執着と独占欲へ変わる。 「お前がいなければ、俺は正気を保てない」 やがて明かされる真実、迫りくる呪いの脅威。臆病だった青年は、愛する人を救うため、その身に宿る力のすべてを捧げることを決意する。 呪いが解けた時、二人は真の番となる。孤独だった魂が寄り添い、狂おしいほどの愛を注ぎ合う、ファンタジック・ラブストーリー。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...