隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

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第9話「黒い箱の記録」

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 基地への帰還は、予想以上に騒がしいものになった。
 行方不明だった筆頭騎士と整備士の生還に、ドックは歓声に包まれたが、その裏で不穏な空気が渦巻いているのを俺は感じていた。

 特に、ゼクス隊長の視線だ。
 俺たちが無事に戻ってきたことを見て、彼は明らかに舌打ちをした。
 その顔には焦りと、隠しきれない敵意が張り付いている。

 俺はメディカルチェックを適当に切り上げ(抑制剤が効かない体になったことは、クレイドが裏から手を回して隠蔽してくれた)、すぐに整備室へと向かった。
 回収された銀狼のデータ解析を行うためだ。

「エリアン、体は大丈夫なのか? 顔色が赤いぞ」

 同僚が心配そうに声をかけてくる。
 番になったことでフェロモンの質が変わったのか、周囲のベータたちが妙に俺を気にかけるようになった気がする。

「大丈夫だ。それより、ブラックボックスのデータ抽出を急ごう」

 俺はモニターに向かい、キーボードを叩いた。
 銀狼の記憶領域には、あの時の通信ログとセンサー記録が残っているはずだ。
 案の定、ノイズに紛れて奇妙な信号波形が見つかった。

「これは……指向性のジャミング波だ」

 発信源の特定解析にかける。
 座標は、ゼクスの機体が離脱した地点と一致していた。
 やはり、あいつがやったんだ。
 さらにログを洗うと、音声データの一部が復元された。

『……くそっ、なんで落ちない! あの化け物め、オメガもろとも死ねばいいものを……』

 ゼクスの独り言だ。
 通信を切ったと思い込んでいたのだろう。
 俺がオメガであることも、彼は感づいていたのか。
 あるいは、誰かから情報を得ていたのかもしれない。

「見つけたぞ、証拠を」

 背後から声がして、俺は椅子ごと振り返った。
 クレイドが立っていた。
 軍服に着替えた彼は、完璧な『氷の騎士』の顔をしているが、俺に向ける目だけは柔らかい。

「これを上層部に提出しますか?」

「いや、それだけでは弱い。ゼクスの背後には、俺を失脚させたい派閥がいる。トカゲの尻尾切りで終わらせるわけにはいかん」

 クレイドはモニターを覗き込み、俺の肩に手を置いた。

「今夜、将校たちの晩餐会がある。そこで奴らが動くはずだ。お前も来い」

「俺も、ですか? ただの整備士なのに?」

「ただの整備士ではない。俺のパートナーだ」

 彼は当然のように言った。

「奴らは、お前を俺の弱点だと思って攻撃してくるだろう。だが、それは間違いだということを教えてやる必要がある」

 クレイドの指が、俺の首筋の痕を服の上からなぞる。

「お前は弱点じゃない。俺の最強の武器だ」

 その言葉に、俺の腹の底が熱くなった。
 守られるだけの存在じゃない。共に戦う存在として認めてくれている。
 それが何より嬉しかった。
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