隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

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第8話「嵐のち、刻印」

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 嵐が去った後の静寂は、耳が痛くなるほどだった。
 焚き火は燃え尽き、白い灰になっている。
 洞窟の入り口から差し込む朝の光が、俺たちの姿を照らしていた。

 俺は重い瞼を開けた。
 全身が気だるい。まるで高熱を出した後のように節々が痛み、それと同時に、芯から溶かされたような甘い余韻が残っている。
 腰に回された重みを感じて視線を落とす。
 クレイドが、俺を抱きしめたまま眠っていた。

 昨夜の記憶が鮮明に蘇り、顔がカッと熱くなる。
 俺たちは一線を越えた。
 それだけじゃない。首筋に走るピリッとした痛み。指先で触れると、そこには彼の歯型がくっきりと残されていた。

『番(つがい)』の印だ。

 もう俺は、生物学的にも彼のものになってしまった。
 後悔はない。不思議なくらい、心は凪いでいた。
 ただ、これからどうなるのかという不安だけが、胸の片隅に居座っている。

「……起きたか」

 耳元で、寝起きの低い声がした。
 ビクリと肩を震わせると、クレイドが腕に力を込め、俺をさらに強く抱き寄せた。
 彼の顔が俺のうなじに埋められ、深く息を吸い込む音がする。

「いい匂いだ。落ち着く」

「クレイド様、近すぎます……」

「様はやめろ。名前で呼べと言ったはずだ」

 彼は不満げにつぶやき、俺の首筋にある噛み痕に、愛おしげに唇を寄せた。

「お前はもう俺の番だ。誰にも渡さないし、離さない」

 その言葉には、昨夜の激情とは違う、静かで確固たる意志が込められていた。
 俺は胸が締め付けられるような幸福感と同時に、現実的な問題に引き戻される。

「でも、俺がオメガだとバレたら、軍法会議に……」

「その心配はいらない。俺がすべて片付ける」

 クレイドは俺の体を起こし、真っ直ぐに俺の目を見つめた。

「俺の権限とお前の能力があれば、上層部も文句は言えん。それに、昨日の妨害工作の件もある。ただでは済まさん」

 彼の瞳が、冷徹な騎士の色に戻る。
 昨日の暴走の原因を作った者への怒りが、静かに燃えていた。

 その時、洞窟の外からヘリのローター音が聞こえてきた。
 救援だ。
 俺たちは慌てて服を整える。
 クレイドは俺の首筋に残る痕を見て、満足そうに目を細めた後、自分のジャケットを脱いで俺に羽織らせた。

「隠しておけ。見せびらかすのは俺だけでいい」

「……わがままですね」

「アルファとはそういう生き物だ」

 彼は悪びれもせず言い放ち、俺の手を引いて光の中へと歩き出した。
 その手は大きく、頼もしかった。
 俺はこの手を握り返し、これから訪れるであろう波乱への覚悟を決めた。
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