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第9話: 学園祭と不協和音
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蒼葉院学園は、初秋の学園祭に向けて活気づいていた。クラスや部活ごとに企画が持ち上がり、校内のあちこちで準備が進められている。
晶のクラスの出し物は、定番のカフェに決まった。誰もが楽しそうに自分の役割を見つけていく中、当然のように、結だけはその輪から外れていた。
「雪村、お前も何か手伝えよ」
クラスの男子が声をかけるが、結は「興味ない」の一言で一蹴する。そんなやり取りにも、クラスメイトたちはもう慣れっこになっていた。
晶は、そんな結の態度を苦々しく思いながらも、無理強いはできなかった。彼が人混みや喧騒を苦手としているのは、何となく分かっていたからだ。
しかし、学園祭を数日後に控えた放課後、トラブルは起きた。
カフェで使う机や椅子を、別の校舎の倉庫から運ぶ作業をしていた時、手伝ってくれるはずだった運動部の助っ人が、急な練習試合で来られなくなってしまったのだ。
「どうするんだよ、晶! この人数じゃ、今日中に終わらないぞ!」
クラスメイトが悲鳴を上げる。陽が落ちるまでに運び終えなければ、明日の内装準備に間に合わない。晶が腕を組んで唸っていると、ふと、教室の隅で一人、帰る準備をしている結の姿が目に入った。
ダメ元で、声をかけてみるしかない。
「雪村、頼む! この通りだ! 少しだけでいいから、運ぶの手伝ってくれないか?」
晶は、クラスメイトたちの前で、結に向かって深々と頭を下げた。教室が一瞬、シンと静まり返る。
結は、驚いたように目を見開き、晶の顔をまじまじと見つめた。そのガラス玉のような瞳が、ほんの少しだけ揺らいだように見えた。
しばらくの沈黙の後、結は諦めたように、小さなため息を一つ吐いた。
「……分かった」
その一言に、クラス中から「おぉ!」という歓声が上がる。
結は相変わらず不満そうな顔をしていたが、文句も言わずに、晶の隣で黙々と机を運び始めた。華奢な見た目に反して、意外と力がある。二人一組で重い長机を運ぶ時も、息を合わせようとしてくれているのが伝わってきた。
「雪村、ありがとな。助かった」
作業の合間に晶が礼を言うと、結はふいっと顔を背け、「……別に」と短く呟いた。その耳が、少しだけ赤く染まっていることに、気づいたのは晶だけだっただろうか。
作業を手伝う結の姿に、最初は遠巻きに見ていたクラスメイトたちも、少しずつ驚きと興味を抱き始めているようだった。
「あいつ、やればできるんじゃん」
「寮長命令は絶対、ってか?」
ひそひそと交わされる会話が、耳に入る。
ほんの少し、本当にほんの少しだけ、結の世界が広がったような気がして、晶の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
このまま、少しずつでいい。彼の周りにある氷が、ゆっくりと溶けていけばいい。
そんな淡い期待を抱いた矢先、事件は起きた。
晶のクラスの出し物は、定番のカフェに決まった。誰もが楽しそうに自分の役割を見つけていく中、当然のように、結だけはその輪から外れていた。
「雪村、お前も何か手伝えよ」
クラスの男子が声をかけるが、結は「興味ない」の一言で一蹴する。そんなやり取りにも、クラスメイトたちはもう慣れっこになっていた。
晶は、そんな結の態度を苦々しく思いながらも、無理強いはできなかった。彼が人混みや喧騒を苦手としているのは、何となく分かっていたからだ。
しかし、学園祭を数日後に控えた放課後、トラブルは起きた。
カフェで使う机や椅子を、別の校舎の倉庫から運ぶ作業をしていた時、手伝ってくれるはずだった運動部の助っ人が、急な練習試合で来られなくなってしまったのだ。
「どうするんだよ、晶! この人数じゃ、今日中に終わらないぞ!」
クラスメイトが悲鳴を上げる。陽が落ちるまでに運び終えなければ、明日の内装準備に間に合わない。晶が腕を組んで唸っていると、ふと、教室の隅で一人、帰る準備をしている結の姿が目に入った。
ダメ元で、声をかけてみるしかない。
「雪村、頼む! この通りだ! 少しだけでいいから、運ぶの手伝ってくれないか?」
晶は、クラスメイトたちの前で、結に向かって深々と頭を下げた。教室が一瞬、シンと静まり返る。
結は、驚いたように目を見開き、晶の顔をまじまじと見つめた。そのガラス玉のような瞳が、ほんの少しだけ揺らいだように見えた。
しばらくの沈黙の後、結は諦めたように、小さなため息を一つ吐いた。
「……分かった」
その一言に、クラス中から「おぉ!」という歓声が上がる。
結は相変わらず不満そうな顔をしていたが、文句も言わずに、晶の隣で黙々と机を運び始めた。華奢な見た目に反して、意外と力がある。二人一組で重い長机を運ぶ時も、息を合わせようとしてくれているのが伝わってきた。
「雪村、ありがとな。助かった」
作業の合間に晶が礼を言うと、結はふいっと顔を背け、「……別に」と短く呟いた。その耳が、少しだけ赤く染まっていることに、気づいたのは晶だけだっただろうか。
作業を手伝う結の姿に、最初は遠巻きに見ていたクラスメイトたちも、少しずつ驚きと興味を抱き始めているようだった。
「あいつ、やればできるんじゃん」
「寮長命令は絶対、ってか?」
ひそひそと交わされる会話が、耳に入る。
ほんの少し、本当にほんの少しだけ、結の世界が広がったような気がして、晶の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
このまま、少しずつでいい。彼の周りにある氷が、ゆっくりと溶けていけばいい。
そんな淡い期待を抱いた矢先、事件は起きた。
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