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第8話: 弱さを見せるということ
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完璧超人、などと揶揄されることもある晶が、珍しく風邪を引いたのは、それから数日後のことだった。
季節の変わり目の油断か、それとも最近の気苦労のせいか。朝から体が鉛のように重く、熱を測ると微熱があった。
「晶、顔色悪いぞ。今日は休んどけ」
友人たちの心配を振り切り、なんとか午前中の授業には出たものの、午後には本格的に熱が上がり、寮の自室で寝込む羽目になった。
「何かあったら、すぐ連絡しろよ」
健太がスポーツドリンクやゼリーを枕元に置いていってくれる。礼を言って一人になると、途端に心細さが押し寄せてきた。熱に浮かされた頭はガンガンと痛み、体の節々がきしむようだ。
いつもは完璧な寮長でいなければと気を張っているが、こうして弱っていると、そんな強がりも通用しない。
結は、晶が寝込んでいることに気づいているはずだが、特に何も言わず、自分の机で静かに本を読んでいた。時折、ちらりとこちらに視線を向ける気配はするが、すぐに逸らされてしまう。
まあ、そうだよな。
晶は自嘲気味に笑った。あれだけ彼に踏み込もうとして、拒絶されてきたのだ。今さら、彼に何かを期待する方が間違っている。
意識が朦朧とする中、晶はいつしか眠りに落ちていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと目を覚ますと、部屋の中はすっかり暗くなっていた。喉がカラカラに渇いている。体を起こそうとした時、枕元に見慣れないものが置かれているのに気づいた。
新品のミネラルウォーターのペットボトルと、箱から数錠取り出された解熱剤。
「……え?」
誰が? 健太がまた来てくれたのだろうか。いや、彼は部活があるから、こんなに早くは戻ってこれないはずだ。
晶の視線は、部屋の隅、自分の机に向かって静かに座っている結の背中に吸い寄せられた。
まさか、あいつが?
結はこちらに気づいていないのか、相変わらず黙々と本を読んでいる。だが、その横顔が、いつもより少しだけ落ち着かないように見えるのは、気のせいだろうか。
確証はない。けれど、晶には分かった。
これは、結の不器用な優しさなのだと。
直接声をかけることも、看病することもできない。けれど、放っておくこともできない。その葛藤の末の、彼なりの精一杯の行動なのだろう。
胸の奥が、じわりと温かくなるのを感じた。熱のせいだけではない、確かな温もり。
弱さを見せることは、怖いことだと思っていた。完璧な自分でいなければ、人から見放される。そんな強迫観念が、ずっと晶を縛っていた。
でも、違ったのかもしれない。
弱さを見せたからこそ、触れられる優しさがある。
晶は、結が置いてくれた水を一口飲み、薬を口に含んだ。薬の苦さも、今はなぜか心地よく感じられた。
初めて見せてくれた結の優しさに、晶の心は、自分でも驚くほど強く、どうしようもなく惹かれていくのだった。
季節の変わり目の油断か、それとも最近の気苦労のせいか。朝から体が鉛のように重く、熱を測ると微熱があった。
「晶、顔色悪いぞ。今日は休んどけ」
友人たちの心配を振り切り、なんとか午前中の授業には出たものの、午後には本格的に熱が上がり、寮の自室で寝込む羽目になった。
「何かあったら、すぐ連絡しろよ」
健太がスポーツドリンクやゼリーを枕元に置いていってくれる。礼を言って一人になると、途端に心細さが押し寄せてきた。熱に浮かされた頭はガンガンと痛み、体の節々がきしむようだ。
いつもは完璧な寮長でいなければと気を張っているが、こうして弱っていると、そんな強がりも通用しない。
結は、晶が寝込んでいることに気づいているはずだが、特に何も言わず、自分の机で静かに本を読んでいた。時折、ちらりとこちらに視線を向ける気配はするが、すぐに逸らされてしまう。
まあ、そうだよな。
晶は自嘲気味に笑った。あれだけ彼に踏み込もうとして、拒絶されてきたのだ。今さら、彼に何かを期待する方が間違っている。
意識が朦朧とする中、晶はいつしか眠りに落ちていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
ふと目を覚ますと、部屋の中はすっかり暗くなっていた。喉がカラカラに渇いている。体を起こそうとした時、枕元に見慣れないものが置かれているのに気づいた。
新品のミネラルウォーターのペットボトルと、箱から数錠取り出された解熱剤。
「……え?」
誰が? 健太がまた来てくれたのだろうか。いや、彼は部活があるから、こんなに早くは戻ってこれないはずだ。
晶の視線は、部屋の隅、自分の机に向かって静かに座っている結の背中に吸い寄せられた。
まさか、あいつが?
結はこちらに気づいていないのか、相変わらず黙々と本を読んでいる。だが、その横顔が、いつもより少しだけ落ち着かないように見えるのは、気のせいだろうか。
確証はない。けれど、晶には分かった。
これは、結の不器用な優しさなのだと。
直接声をかけることも、看病することもできない。けれど、放っておくこともできない。その葛藤の末の、彼なりの精一杯の行動なのだろう。
胸の奥が、じわりと温かくなるのを感じた。熱のせいだけではない、確かな温もり。
弱さを見せることは、怖いことだと思っていた。完璧な自分でいなければ、人から見放される。そんな強迫観念が、ずっと晶を縛っていた。
でも、違ったのかもしれない。
弱さを見せたからこそ、触れられる優しさがある。
晶は、結が置いてくれた水を一口飲み、薬を口に含んだ。薬の苦さも、今はなぜか心地よく感じられた。
初めて見せてくれた結の優しさに、晶の心は、自分でも驚くほど強く、どうしようもなく惹かれていくのだった。
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