芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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出会い

25話

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 隣の奏子の様子を盗み見るが、虎州のご令嬢の対応に困り果てているのがわかる。幸い小声での応酬なので宴に影響を及ぼすものではない。
 助けに入ろうかと悩んだが、奏子は心配するなとでもいうように目で合図する。給仕歴は圧倒的に彼女の方が長いので、下手に蓮花が口を出すとご令嬢のことを逆撫でしてしまう可能性がある。蓮花は奏子の様子を気にしつつ、今は綉礼の給仕をしくじらないように気を引き締めた。

 その後、順調に宴は進み、料理もご令嬢のもとに運ばれ続ける。いよいよ宴も中盤に差し掛かり、主菜が運ばれてくる。これが問題の林檎のタレを使用した料理だ。
 蓮花は間違わないように匂いや見た目をじっくり観察する。林檎の不使用のタレに変更されているのを確認したのち、念には念を入れて味見をすることにする。

「綉礼様。こちらがご連絡をいただいておりました、林檎のタレを使用している料理でございます。事前に綉礼様の分は別のタレに変更させていただいておりますが念のため少し毒見をさせていただいてよろしいでしょうか」
「ええ、お手数をお掛けして申し訳ありませんがお願いしていいですか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 綉礼は不快な顔をすることなく快諾してくれる。タレの端の方を少し小皿に取り分け、後ろを向き味を見る。確かに林檎の風味等はせず別のものに変更されていた。こそぎ取った部分を清潔な布で拭き見た目を整える。そして料理の皿を綉礼の前へと置いた。

「失礼いたしました。問題ございませんので、どうぞお召し上がりください」

 ――そう蓮花が頭を下げた時だった。

「ちょっと、こんなの食べられる訳がないでしょう!すぐに別のものを用意してきなさいよ」
「申し訳ございません、品目は当初予定していたものしかご用意がございません……」

 今までの応酬より一段と大きい声の虎州のご令嬢の声が届く。陛下たちの席から一番遠くにあるとはいえ、所詮同じ建物の中。それに加えてどんどん見過ごせない声量になってきている。

「綉礼様、少々御前を失礼してもよろしいでしょうか」
「ええ。私は大丈夫ですから行って差し上げてください」

 綉礼はちら、と奏子たちの方を見て頷く。そんな彼女に一礼し、蓮花は騒ぎの元凶に近づいた。

「失礼いたします。どうなさいましたか?」
「タレの味付けが甘すぎると仰るの。替えのものはないとお伝えしたんだけど……」

 奏子は気まずそうに蓮花に耳打ちする。そもそも虎州のご令嬢からは副菜の変更は何点か要望があったが、主菜に関しては特に変更は伝えられなかったのだ。
 しかしそんなことは知るかと言わんばかりに語気を荒らげるご令嬢。いくら見た目を着飾っても、目を吊り上げ騒ぐ姿では美しさから遠ざかるばかりだ。
 蓮花は綉礼とは雲泥の差だな、と感じながらご令嬢をなだめようと声をかけることにした。



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