芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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出会い

26話

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 蓮花は怒り心頭なご令嬢に近づき話しかける。

「横から失礼いたします。今回の宴は皇帝陛下もご出席されております。どうか声を落としていただけないでしょうか」
「なによ、ただの給仕のくせして私に指図しようっていうの? 何様のつもり⁉」

 急に現れた蓮花を不審そうに見たご令嬢は、忠告を受けるとさらに頭に血を上らせたようで顔がさらに赤くなる。そして勢いよく席を立ったかと思うと、ドンッと蓮花の肩を力任せに押した。
 まさかご令嬢が力業に出てくるとは思っていなかった蓮花は体の均衡をくずす。しまった――と思い、倒れる覚悟をして目を強く瞑った。

「おっと」

 蓮花はいつまでも床の感触が来ないと不思議に思い、恐る恐る目を開ける。そこには白い猫の獣人の男性が蓮花の体を支えてくれていた。
 現状を把握した蓮花は慌てて離れて頭を下げる。

「大変申し訳ありません!」
「いえ、お怪我はございませんか?」
「おかげさまでなんともございません」

 青年はにっこり笑い蓮花に問いかける。ご令嬢は自分の行動が少しずつ大事になってきていることにやっと気づいたのか、顔色が少し悪い。

「さて」
「あ、あの、私怪我をさせるつもりじゃ……」
「少々おいたが過ぎたようですね」

 蓮花に問いかけた時と表情は変わらないのに、声の温度が全く違う。横にいる蓮花も緊張してしまう程なのに、相対しているご令嬢はもっと怖いだろう。

「この場での立ち居振る舞いも弁えられないようでしたら即刻、ご実家にお帰りいただいても構いませんが――いかがいたしますか?」

 わなわなと口を震わせたのは怒りからか、それとも恐怖からか。キッと蓮花を睨みご令嬢は口を開いた。

「ふ、ふん。今日のところは我慢してあげるわ」
「それは賢明なご判断です。さ、引き続き料理をお楽しみくださいませ」

 今度は本当の笑みを見せて一礼して去る青年を見送りながら見事な収拾のつけ方に関心する。こういったも揉め事などの調整の場数を踏みなれている感じがする。
 私もあれくらい上手くあしらいたいものだ、と思いながら蓮花は綉礼の元に戻る。





「ただいま戻りました。お騒がせしてしまい申し訳ありません」
「――っいえ、怪我がなくてよかったです」

 どうやら一部始終を綉礼も見ていたようだ。下げていた頭を上げて彼女の顔を見ると少し赤くなっていることに気づいた。まさか、林檎が含まれている料理が他にあったのを見落としてしまったのか――と思い至り、一気に血の気が引く。

「綉礼様、お体がおかしく感じることはございませんか? 少々お顔が熱を持っていらっしゃるようにお見受けいたします。もしや、林檎の入った料理を召し上がってしまわれたのでは?」

 早く確認を、と焦った気持ちが出てしまい早口で綉礼に質問をする。それを聞いた綉礼は慌てて両手で頬を包む。

「そういう訳ではございませんのでご心配なさらないでください。久方ぶりにお姿を拝見したので舞い上がってしまっただけなのです」
「先ほどのお方とお知り合いなのですか?」

 蓮花が聞くと、綉礼はしまったという風な顔で口を抑えた。それからおずおずと続けた。

「ええ、実は幼馴染なのです。今もそう呼んでいいのかはわかりませんが……」

 ますます顔を赤くする彼女の様子を見て、鈍い蓮花でも気づいてしまった。
 どうやら綉礼は、彼に想いを寄せているらしい、と。



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