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出会い
29話
しおりを挟むやっと休憩時間になった蓮花は、いつもの木陰に座り、文を広げる。そこには綺麗な筆運びでこう記されていた。
【――蓮花さん、いかがお過ごしでしょうか。最近は暑い日も出てきて体調を崩されたりしておりませんか?
私はこの文を幼馴染である雲嵐様にお預けすることといたしました。宴の計画に携わっていた雲嵐様なら、きっと蓮花さんまで繋げて下さると思ったからです。無事にこの文が届いているとよいのですが……。
さて、今回は蓮花さんさえよろしければぜひ私の邸まで遊びにいらっしゃいませんか? 宴の席では蓮花さんもお仕事中でしたのでなかなかゆっくりはお話できませんでしたから。
実は私、こうやって自分からお誘いするのは初めてなので、文字を書き進めながらとても緊張しております。
だからと言って、無理に来てほしいわけではないんです。蓮花さんご都合もあると思いますし……。もしお返事を下さるのであれば受け取ってから三日後にまた蓮花さんの元へ文を受け取りに行くとのことでした。もし遊びに来て下さることができましたら、ご都合のいい日を教えていただけないでしょうか?
最後になりますが、お忙しいとは思いますがお体ご自愛くださいませ。――宋 綉礼】
文を最後まで読み切り、ふう、と顔を上げると目の端に碧緑が映りぎょっとした。
「ふ、飛様! いつからここに――」
「ははっ、よっぽど集中していたんだな。ついさっきだよ。真剣な顔をしているもんだから邪魔しては悪いと思ってな」
「もう! お声をかけてください! 心臓が止まるかと思いました」
全く気配を感じなかったのにそこには飛がいた。蓮花の心臓はまだバクバクと音を立てている。
「時間が空いたんで蓮花がいるかと期待して寄ってみた」
「私?」
「ああ、君を見ているとコロコロ表情を変えて、見ていて飽きないからな。休憩がてらに会いに来た」
「私は飛様のおもちゃじゃありませんよ!」
飛の言い草に思わず頬を膨らませ顔をそむける蓮花。
「わかっているさ。しかし、よく膨らむほっぺただな」
「突くのはやめてください!」
蓮花の頬をツンツンと楽し気に突く手を止めようと蓮花は飛の手を掴む。背けていた顔を飛の方へ向けると飛の顔がすぐそこにあった。思わぬ距離に驚き硬直する。
飛も急に振り向くと思わなかったのか眉を上げて驚いていた。蓮花と飛の視線が絡んだまま静止する。
早く目を逸らさなければ、そう思うほどに飛の翡翠の瞳から目が離れない。
すると蓮花の手がぎゅっと握りこまれた。蓮花が掴んでいたはずの手はいつの間にか飛に包み込まれていた。
さっきとは別の意味で鼓動が高鳴ることを無視することが出来ない。どれだけの時間そうしていたか分からないが、不意に飛が目を伏せ手を離す。
「からかいすぎたな、すまない」
「い、いえ……」
「あんなに真剣に読むとは大事な内容だったのか?」
変に気まずかった雰囲気を打ち払うかのように、飛は話題を変えた。蓮花は飛の気遣いに甘えることにした。
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