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出会い
30話
しおりを挟む「飛様はこの前宴が開かれたのはご存知ですか?」
「ああ、耳にはした」
「その時に急遽給仕係として助っ人に行ったんです」
「――そうだったのか?」
飛は予想以上に驚いた様子で蓮花を見る。反応の大きさを蓮花も不思議に思ったが、厨房の小間使いが給仕係を手伝いに行くなんて普通は思わないか、と結論づける。
「私も最初言われた時驚きました。自分で助けになることが出来れば、と思ってお手伝いしたんです」
「そうか。それがその文とどう繋がるんだ?」
「私の担当のご令嬢が虎州の宋家の方だったんです。ひょんな事から少し距離が縮みまして……」
「宋 綉礼か。雲嵐の幼馴染みの」
思わぬ名前が飛の口から飛び出したので蓮花は動きが止まった。こちらから言う前に名前を言い当て、しかも雲嵐様の名前を呼び捨てにした飛。しかもなんだかんだやけにその名前を口にすることに慣れているように感じた。
「飛様も雲嵐様とお知り合いなんですか?」
しまったというような顔をしたのでこのことについてはあまり踏み込まない方が良さそうだと判断する。
「まあ、父様ともお知り合いでしたら雲嵐様とお知り合いの可能性が高いですよね」
「そう、だな。雲嵐とは小さい頃からよく会っているよ。今はここまでしか言えないんだ」
まただ。また飛は申し訳なさそうな、苦しそうな顔をする。恐らく飛自身の正体に近づくようなことを蓮花が気付く度にこの表情を見せる。
「いいんです。いつか、飛様が私に打ち明けてもいいと思えたときでいいんです。だから気になさらないでください」
「――ありがとう」
ほっとした気配を感じたが、飛の表情は晴れない。そんな表情をして欲しくなくて飛のほっぺを突く。
「いつまでもそんな顔してたらずーっとつんつんしますよ?」
「……それは困るな。分かったよ」
やっと柔らかな笑みを見せてくれた飛に蓮花は安心して話の続きをする。
「その綉礼様からお邸に遊びに来ませんかと、お誘いをいただいたんです」
「邸に?」
「はい。わたしも綉礼様ともっと仲良くなりたいと思っていたので、お誘いを受けようと思います。ただ綉礼様のような上流貴族の方のお邸にお邪魔するのは初めてで……」
そう、蓮花の交友関係は同じくらいの中流貴族か、明苑達のような平民の人達だ。自分より格上の友達や、知り合いなど身近にいない。そのため蓮花は手土産や作法など失礼があったらどうしようかと、誘いを受けることを一瞬躊躇った。
「綉礼は甘いものならなんでも好きだぞ」
「え?」
「それに宋家は堅苦しい挨拶も好まないから、自然体の蓮花でいればいい。普段の蓮花の様子を見るとそのままでも十分だ」
「飛様」
飛は綉礼とも交流があったようだ。驚く蓮花を見て人差しの指の背で軽く頬をさする。蓮花を見る目はどこまでも優しい。
「炭が飛んできたのかもな。少し黒くなってる」
「やだ、恥ずかしいです! あんまり見ないでください」
飛の口から告げられた言葉に一気に顔に熱が集まる。ただ飛は汚れを取ってくれただけなのに勘違いも甚だしい。蓮花は心の中で叫びたい気分になった。
「助言ありがとうございます。参考にさせていただきますね」
「こんな情報が役に立てればいいんだけどな。そろそろ時間だから戻るよ」
「大助かりです!ありがとうございました」
「じゃあ、――また」
今度はいつかの蓮花とは逆で飛が立ち去る。蓮花は無意識に口角が上がっていた。
「はい。――また」
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