芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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出会い

28話

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 蓮花は給仕係を手伝ったお礼にと、宴で余った料理をもらって帰ることとなった。食卓にそれを並べると弟妹達は目を輝かせて食事にありついた。

「それにしても急に給仕係になるなんて大変だったね」
「びっくりしたけど、内容はそんなに難しくなかったから何とかなったわ」

 王琳が蓮花をねぎらう。そういえば、と蓮花は宴で耳にしたことを父に聞いてみることにした。

「そういえばあの宴ってお后様を決めるためって聞いたけど本当なの?」
「そんな噂になっているのかい?」
「第一皇子様って確か十九とか二十歳くらいでしょう?確かにそろそろそんなお話も出てくるころよねえ」

 横で聞いていた蘭玲も会話に加わる。王琳は悩ましげな顔をしながら口を開いた。

「まあ、確かにその理由もないと言えば嘘になるけど。陛下も無理に結婚させようっていうわけではないんだよ」
「そうなの? 皆、今日集まった十人から選ばれるんだって思っているみたいだったけど」

 自分の担当のご令嬢がお后様になるかも、と宴が終わった後も話の種は尽きなかった。蓮花は綉礼の様な人がなってくれたらと思っていたが、綉礼には想い人がいるのでおそらく無理だろう。
 虎州のご令嬢にだけはならないように祈るばかりだ。

「今回の宴でもし第一皇子が気になる人を見つけられたらいいか、程度のものだと思っていてくれたらいいよ。どうやらいなかったようだけどね」
「あんなに綺麗な人たちを集めても? だったらこの国でお眼鏡にかなう方なんていないんじゃないかしら」
「あら、人の美醜は見た目だけにあらず、よ。皇子は心も清らかな方をお探しなんじゃないかしら?」

 ふふ、と笑いながら料理を運ぶ蘭玲。蓮花は会話もしていないのにどうやって性格がいいかを確認するんだと思った。しかし、だからこそ皇子は今回の宴で后を決めることはなかったのかと、同時に納得した。
 その後、話題は宴の料理にうつり、柳家は賑やかな食事を楽しんだ。



 数日後、厨房にいた蓮花の元へ、一通の文を持った奏子がやってきた。

「これ、あなたにって」
「私に? 誰から」
「それが、雲嵐ウンラン様からよ!」
「……誰ですって?」

 興奮した様子で差出人を教えてくれる奏子だったが、宮廷の人の名前などよく知らない蓮花は全く聞き覚えのない名前だった。

「ほら宴の時に助けて下さったでしょう」
「ああ! あの猫の獣人の方ね。そんなに有名なの?」

 そう聞き返すと呆れた様子で奏子は口を開いた。

「雲嵐様といえば皇族の方に仕えてらっしゃる側近の方よ! 見目麗しく、才能にも溢れていて、若い女性の人気が抜群なの」
「私そういうのには疎くて……。でもなんでそんな方が私に?」
「そんなの私が知りたいわ! とにかく届けたからね」
「わざわざありがとう。助かったわ」

 奏子は手紙の内容が気になって仕方ないという素振りだったが、仕事もあるので踵を返し帰っていった。
 手元に残った手紙を不思議に思いつつ、休憩時間に見ようと懐に直す蓮花だった。

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