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出会い
51話
しおりを挟むお弁当のおかずを食べ進めた蓮花はそろそろ飛に変わろうとお箸を差し出した。
「ん? もういいのか?」
「はい、次は飛様が召し上がってください」
「そうか。じゃあこれがいいな」
蓮花の差し出したお箸を取る素振りも見せず口を開ける飛。しかし蓮花は負けじとお箸を飛の方へと押す。
「使い終わったのでどうぞ」
「蓮花が食べさせてくれないなら私はお腹を空かせたまま仕事に戻るしかないな……」
「なんでそうなるんですか! お箸渡してるじゃないですか!」
「はあ……」
飛がしゅんとしている様子をしばらく見つめていた蓮花はついに根負けしておかずを飛の口元に持っていく。
飛はさっきまで落ち込んでいたとは思えないほどガラッと切り替わって口を開けておかずを頬張る。
次はこれ、と指示を出しながらもぐもぐと食べる飛を見ていると、自分より年上だろうに餌付けをしている気分になってきた。
口を開ける度に見える少し尖った八重歯が可愛らしさを更に演出している。
できるだけ平常心を保って口元に運ぶが緊張ゆえの微かな震えは恐らく伝わってしまっているだろう。
ようやく全てのおかずを食べ終え、お茶を一服していると次は飛が小さめの容器を出してくる。
「それはなんですか?」
「これがお詫びの品で、馬拉糕だ。食べたことはあるか?」
「前に名前だけ聞いたことがあります! 確か他国のお菓子を天聖国風にしたものだって」
「ああ、食後の甘味にいいかと思って持ってきた。ほら」
蓋を外すと黄色い生地から卵と甘いいい匂いが辺りに広がる。生地の上には干しぶどうらしきものが乗っている。
「いい匂い……これ早速頂いていいですか?」
「もちろん、一緒に食べよう」
飛は容器から一つ取り出し蓮花に渡す。蓮花はそれを受け取るとふわふわの感触に驚く。
そして唾をごくりと飲み馬拉糕を口に含んだ。
手で触るよりふわふわに感じる食感と卵の風味が鼻から抜ける。噛むほどに干しぶどうの酸味が甘味と混ざり味の調和を感じられた。
「すっごく美味しいです!」
「良かった。どれどれ……うん、美味いな」
飛も馬拉糕を食べて頷く。二人で白の話や、蓮花の弟妹たちの話をして過ごす。
楽しい時間はあっという間で馬拉糕を食べ終わった頃、そろそろ休憩時間が終わりそうな事に気付く。
「飛様、すいませんそろそろ時間が……」
「もうそんな時間か。蓮花と話しているとあっという間だな。今日は暑いから倒れないように気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
馬拉糕の容器を飛に返し、戻る準備をする。名残惜しいが仕事には戻らねばならない。
「飛様も最近すごく暑くなってきたのでお体気を付けてくださいね」
「ありがとう。ほら、もう行って。遅れるぞ」
蓮花は飛の言葉に頷くと一礼して持ち場へと戻って行った。
そんな蓮花の後ろ姿を見送りながら、午後からの執務の事を考えると出そうになる溜息を抑える。
蓮花の頑張っておかずを食べさせてくれる様子や、馬拉糕を食べた時の笑顔を思い出すと自然と飛の顔に笑みが浮かぶ。
飛は気持ちを切り替えるように息を吐く。自分の執務室に戻ろうと立ち上がり、重たい足を前へと踏み出した。
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