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第4話 聖女の騎士※元女騎士ナディーヌ視点
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私の名前はナディーヌ。カプレ男爵家の四女である。
男爵家の四女という平民と地位の変わらないような私が、聖女の騎士という名誉ある任務を授かったのは、皮肉な運命の巡り合わせだった。本来であれば、もっと上の権威のある家柄の騎士が就くべき役目。高潔な血筋と輝かしい功績を持つ者こそがふさわしい地位。それを王子が特権を乱用して、神殿の老賢者が意見を汲み取り、無理矢理私に役目を与えてきたのだ。
その目的は、つまらない嫌がらせ。
エリック王子はノエラ様のことを心底嫌っていた。それは、他に好きな人がいたからだ。「お前さえいなければ」という気持ちが彼の中で渦巻いていた。婚約という形だけの鎖に繋がれた彼は、その憎しみを別の形で表現した。王子の意向を神殿の老賢者たちが忖度して、私のような者を騎士に任命した。「お前には、しっかりした騎士を専属させる価値はない」と示すかのように。
しかし、聖女ノエラ様は素晴らしい人だった。私のような頼りない女を騎士として寄こされても、嫌な顔一つせず笑顔で迎えてくれた。彼女の瞳には優しさと温かみが満ちていた。周囲の意見や反応など気にしない。彼女は、心の内面まで強い人だった。
これまでに彼女は、王都から遠く離れた村々まで、多くの人々を助けてきた。「歴代最強の聖女」と言われるほどの力を使って、傷ついた人を癒し、絶望に沈む者に光を与え、治らぬと諦められた病を癒す存在。まさに、歴史に名を残す聖女に相応しい人物だった。
それなのに、神殿や婚約相手であるエリック王子のノエラ様に対する扱いはとても酷いものであった。はたから見ていても、気の毒に思うほどだった。時には、彼女の肩に重くのしかかる疲労の色が見えることもあった。
神殿の老賢者たちは彼女の力を利用していた。数多くの仕事を押し付けて、その成果は自分たちのものに。出世や利益のために、彼女をいいように使っていたのだ。「聖女様、こちらの人々も助けていただけませんか」「聖女様、次はこちらへ」と、休む間もなく次々と仕事を押し付ける。
まるで便利な道具のように扱う彼らを見て、私は憤りを感じていた。神殿の連中に命じられて、酷使されるノエラ様が可哀想でならなかった。手の甲で汗を拭う彼女の姿を見るたび、私の胸は痛んだ。
その様子を私は、横で見ていることしかできなかった。聖女の騎士という肩書きを持ちながら、私は彼女を助けることができなかった。それでも、我慢できずに怒りを露わにしてしまう日があった。本人が一番大変だというのに、私なんかが感情を爆発させてしまうような情けない日が。
「この仕事の量は、いくらなんでも多すぎます!」
私は握りしめた拳を震わせながら叫んだ。
「神殿の連中は押し付けすぎです! これでは、ノエラ様が倒れてしまいます。どうして、拒否しないのですか!?」
私は、山積みの依頼書と、夜遅くまで続く祝福の儀式の予定表を見て堪忍袋の緒が切れて叫んでしまった。肩で息をしながら、怒りに震える私の前で、ノエラ様は疲れた顔に穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「困っている人が居るのだから、可能な限り助けたいのです。それが、聖女としての使命ですからね」
彼女の声は静かだが、真っ直ぐな芯が通っていた。
「いつか、すべての人が笑顔で過ごせる世界になればいいと思うの」
私よりも怒るべき人が冷静だった。ノエラ様は、微笑むだけ。その姿は、まるで聖像のように気高く見えた。
あまりにも健気なその姿を見ていると、涙が出そうになるほど胸が苦しくなった。私は、何も言えなくなった。困っている人々を助けるために彼女は頑張っている。彼女の心の強さと優しさを、身近で感じた瞬間だった。
ならば私は、彼女の負担を少しでも減らすためにも騎士としての実力を磨き続けるしかない。そんな思いから、私は日々鍛錬を続けていた。剣を振り、馬を駆り、護身術を磨く。いつか、彼女を本当の意味で助けられるように。
聖女の騎士として、ふさわしい実力を身に着ける。そして、彼女を騎士として守り続ける。そう、私は心に誓った。月明かりが照らす練習場で、何度も剣を振るいながら。
ある日、私はノエラ様に問いかけられた。それは、私たちの運命を大きく変える問いかけだった。
「ナディーヌ、これからも、私と一緒に来てくれますか?」
彼女の瞳には決意と不安が混じり合っていた。
「もちろん! 私は、いつまでもノエラ様と一緒に居続けます!」
私は迷わず即答した。胸に手を当て、誓いの姿勢で。
するとノエラ様は、一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべた。それから再び、真剣な表情になって、静かな声で語りかけてきた。
「この世界から、私の記憶を消し去るつもりです。その時、一緒に居続けると言ってくれた貴女の存在も消す可能性があります。それでも、一緒に来てくれる?」
今度は、真剣に考える。記憶を消す。それは、どういう意味なのか理解するために時間が必要だった。正しく理解するのは難しい。世界から記憶を消す。私の存在も消えてしまう。本当に、そんな事が可能なのか?
なぜ、そんなことをするのか。どのような方法で実行するのか。分からないことが多すぎる。でも、私の答えはすでに決まっている。じっくり考えてみても、その答えは変わらない。
「もちろん、ノエラ様と一緒に行きます」
私は確固たる決意と共に答えた。
「たとえ世界から忘れ去られても、私はあなたの騎士です」
「ありがとう、ナディーヌ」
ノエラ様は、私の手を取った。
「そう言ってくれて、とても嬉しいわ。これからも一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
私は力強く頷いた。
こうして私は、ノエラ様の壮大な作戦の一員に加えてもらえたのであった。記憶を消し去り、新たな旅立ちを始める。その道のりがどれほど険しくとも、私は彼女を守り続ける。それが、私の誇り高き使命。
男爵家の四女という平民と地位の変わらないような私が、聖女の騎士という名誉ある任務を授かったのは、皮肉な運命の巡り合わせだった。本来であれば、もっと上の権威のある家柄の騎士が就くべき役目。高潔な血筋と輝かしい功績を持つ者こそがふさわしい地位。それを王子が特権を乱用して、神殿の老賢者が意見を汲み取り、無理矢理私に役目を与えてきたのだ。
その目的は、つまらない嫌がらせ。
エリック王子はノエラ様のことを心底嫌っていた。それは、他に好きな人がいたからだ。「お前さえいなければ」という気持ちが彼の中で渦巻いていた。婚約という形だけの鎖に繋がれた彼は、その憎しみを別の形で表現した。王子の意向を神殿の老賢者たちが忖度して、私のような者を騎士に任命した。「お前には、しっかりした騎士を専属させる価値はない」と示すかのように。
しかし、聖女ノエラ様は素晴らしい人だった。私のような頼りない女を騎士として寄こされても、嫌な顔一つせず笑顔で迎えてくれた。彼女の瞳には優しさと温かみが満ちていた。周囲の意見や反応など気にしない。彼女は、心の内面まで強い人だった。
これまでに彼女は、王都から遠く離れた村々まで、多くの人々を助けてきた。「歴代最強の聖女」と言われるほどの力を使って、傷ついた人を癒し、絶望に沈む者に光を与え、治らぬと諦められた病を癒す存在。まさに、歴史に名を残す聖女に相応しい人物だった。
それなのに、神殿や婚約相手であるエリック王子のノエラ様に対する扱いはとても酷いものであった。はたから見ていても、気の毒に思うほどだった。時には、彼女の肩に重くのしかかる疲労の色が見えることもあった。
神殿の老賢者たちは彼女の力を利用していた。数多くの仕事を押し付けて、その成果は自分たちのものに。出世や利益のために、彼女をいいように使っていたのだ。「聖女様、こちらの人々も助けていただけませんか」「聖女様、次はこちらへ」と、休む間もなく次々と仕事を押し付ける。
まるで便利な道具のように扱う彼らを見て、私は憤りを感じていた。神殿の連中に命じられて、酷使されるノエラ様が可哀想でならなかった。手の甲で汗を拭う彼女の姿を見るたび、私の胸は痛んだ。
その様子を私は、横で見ていることしかできなかった。聖女の騎士という肩書きを持ちながら、私は彼女を助けることができなかった。それでも、我慢できずに怒りを露わにしてしまう日があった。本人が一番大変だというのに、私なんかが感情を爆発させてしまうような情けない日が。
「この仕事の量は、いくらなんでも多すぎます!」
私は握りしめた拳を震わせながら叫んだ。
「神殿の連中は押し付けすぎです! これでは、ノエラ様が倒れてしまいます。どうして、拒否しないのですか!?」
私は、山積みの依頼書と、夜遅くまで続く祝福の儀式の予定表を見て堪忍袋の緒が切れて叫んでしまった。肩で息をしながら、怒りに震える私の前で、ノエラ様は疲れた顔に穏やかな微笑みを浮かべながら答えた。
「困っている人が居るのだから、可能な限り助けたいのです。それが、聖女としての使命ですからね」
彼女の声は静かだが、真っ直ぐな芯が通っていた。
「いつか、すべての人が笑顔で過ごせる世界になればいいと思うの」
私よりも怒るべき人が冷静だった。ノエラ様は、微笑むだけ。その姿は、まるで聖像のように気高く見えた。
あまりにも健気なその姿を見ていると、涙が出そうになるほど胸が苦しくなった。私は、何も言えなくなった。困っている人々を助けるために彼女は頑張っている。彼女の心の強さと優しさを、身近で感じた瞬間だった。
ならば私は、彼女の負担を少しでも減らすためにも騎士としての実力を磨き続けるしかない。そんな思いから、私は日々鍛錬を続けていた。剣を振り、馬を駆り、護身術を磨く。いつか、彼女を本当の意味で助けられるように。
聖女の騎士として、ふさわしい実力を身に着ける。そして、彼女を騎士として守り続ける。そう、私は心に誓った。月明かりが照らす練習場で、何度も剣を振るいながら。
ある日、私はノエラ様に問いかけられた。それは、私たちの運命を大きく変える問いかけだった。
「ナディーヌ、これからも、私と一緒に来てくれますか?」
彼女の瞳には決意と不安が混じり合っていた。
「もちろん! 私は、いつまでもノエラ様と一緒に居続けます!」
私は迷わず即答した。胸に手を当て、誓いの姿勢で。
するとノエラ様は、一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべた。それから再び、真剣な表情になって、静かな声で語りかけてきた。
「この世界から、私の記憶を消し去るつもりです。その時、一緒に居続けると言ってくれた貴女の存在も消す可能性があります。それでも、一緒に来てくれる?」
今度は、真剣に考える。記憶を消す。それは、どういう意味なのか理解するために時間が必要だった。正しく理解するのは難しい。世界から記憶を消す。私の存在も消えてしまう。本当に、そんな事が可能なのか?
なぜ、そんなことをするのか。どのような方法で実行するのか。分からないことが多すぎる。でも、私の答えはすでに決まっている。じっくり考えてみても、その答えは変わらない。
「もちろん、ノエラ様と一緒に行きます」
私は確固たる決意と共に答えた。
「たとえ世界から忘れ去られても、私はあなたの騎士です」
「ありがとう、ナディーヌ」
ノエラ様は、私の手を取った。
「そう言ってくれて、とても嬉しいわ。これからも一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
私は力強く頷いた。
こうして私は、ノエラ様の壮大な作戦の一員に加えてもらえたのであった。記憶を消し去り、新たな旅立ちを始める。その道のりがどれほど険しくとも、私は彼女を守り続ける。それが、私の誇り高き使命。
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