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第5話 仲間たちとの合流
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「エミリー、ジャメル!」
その姿が見えた時、私は馬上から片手を高く掲げて2人に呼びかけた。夜空に浮かぶ月明かりの下、森の縁で待機していた馬上の人影が徐々にはっきりと見えてくる。彼らの姿を認めた途端、私の胸にはこみ上げるような安堵感が広がった。計画通り、無事に合流できる。
「ノエラ様ッ!」
若く澄んだ声が夜の静けさを破る。
「エミリー」
もう一度、彼女の名を呼ぶ。見ると心が和む愛らしい笑顔で私の名を呼んでくれた少女は、私の一番弟子のエミリー。緑色の瞳と麦わら色の髪が月明かりに照らされて煌めいている。私の計画に気付いて、自ら「一緒に行きます」と申し出てくれた優しい子。そんな彼女が、元気よく手を振り返してくれた。
そして彼女の隣には、静かな威厳を纏った姿があった。
「ご無事で何よりです、聖女ノエラ」
落ち着いた深い声で答えた男性は、老賢者ジャメル。白髪交じりの髭を整え、年齢を感じさせる刻まれた皺が、その経験と知恵を物語っている。彼は私の姿を認めると、長い間抱えていた緊張から解放されたかのように、ほっとした表情で微笑んだ。
「ジャメル。私はもう聖女ではありません。ただのノエラです」
彼が使った呼称を、私は訂正する。
「そうですね」
そう言うと、彼は少し悲しそうな表情を浮かべた。瞳の奥には複雑な感情が揺れていた。幼い頃から私の面倒を見てくれて、聖女としての務めを果たすために必要な知識や魔法を教え、様々な困難の中で支えてくれた人。
そして今回も、私が無茶とも言える計画を実行し、彼のことも巻き込んでしまった。深い心配と計り知れない苦労をかけてしまい、申し訳ない気持ちが胸の内に込み上げてくる。
元聖女である私。護衛を務めてくれていた女騎士のナディーヌ。一番弟子で女神官のエミリー。そして長年神殿で老賢者を務めてきたジャメル。彼らが私の大事な仲間。あともう一人、ここには来ていない商人のアンクティワンが協力してくれている。
ここに集まったのは、すでに何者でもない、ただの平民になってしまった者たち。あの魔法によって記憶を消し、私たちの正体を知る者は王国中からいなくなった。新たな人生を始めるための第一歩を、私たちは今踏み出したところだ。
「ノエラ。早速、拠点に向かいましょう」
ジャメルが周囲を警戒しながら提案した。
「そうね」
「行きましょう」
ジャメルの言葉に私が頷くと、エミリーが子供のような無邪気さで賛成してくれる。その明るい声色に、緊張していた空気が少し和らいだ。とりあえず今は拠点に行って落ち着きたい。そこで、今後の動きについてじっくり話し合いたい。
「こちらの道が近道です。人目につかず、安全に移動できます」
「ありがとう。案内して、ナディーヌ」
「お任せください、ノエラ様」
ナディーヌが手慣れた動作で馬を操り先頭に立つと、私たち3人はその後に続いた。騎士としての鋭い眼で周囲を警戒しながら進む彼女の背中には、頼もしさと緊張感が同居していた。
目的地は、今日のために用意しておいた私たちの隠れ家。王都から十分に離れた森の奥、人目につかない場所にある小さな山荘。アンクティワンが手配してくれた安全な避難所だ。
王都を警備する兵士や巡回する騎士たちに遭遇することなく、私たちは無事に拠点まで到着した。馬から降り、やっと一息つくことができる。
「ノエラ。今日はもう、休みなさい。疲れが見えますよ」
ジャメルが私の顔をじっと見つめながら言う。
「いえ、それは……」
そんなに疲れた表情をしていたのかしら。自分ではあまり感じていなかった。まだ休むのは早いと思うけれど。状況の確認や今後について、みんなで話し合う必要があるはず。
だけど、ジャメルの顔に浮かぶ心配の色を見て、少し考えてから私は首を縦に振った。そうね、彼の言う通りにするべき。
「わかりました。今日はもう、休ませてもらいます」
「それがよろしいでしょう。あのような魔法を使ったのですから、体力の消耗は相当なもののハズです」
ジャメルの気遣いに感謝して、素直に従うことにした。彼の言う通り、今日使った魔法は尋常ではない力を要した。しっかり休んで体力を回復させる。明日からの新しい生活に備えた方がいい。
「それでは先に、休ませてもらいます。みんなも無理しないようにね?」
「お疲れさまでした」
ナディーヌが丁寧に一礼する。
「おやすみなさい、ノエラ様。素敵な夢を」
エミリーが明るく微笑みながら見送ってくれる。
「ゆっくりお休みください」
そしてジャメルが、父親のような優しい眼差しで見送ってくれた。
おやすみの挨拶を交わしてから、用意された部屋へと向かった。私は急いで着替えを済ませ、柔らかな寝具に身を横たえる。自分でも気付いていなかったけれど、実は限界近くまで疲れていたのだろう。横になった途端、重い瞼が閉じていく。
魔法の効果によって、多くの人々の記憶から私の存在は消え去った。もう私は、聖女じゃない。それは現実なのに、まだ夢の中にいるような不思議な感覚があった。これから先、この感覚が普通になっていくのでしょうか。
そして、これからどんな人生が待っているのでしょう。そんな思いを抱きながら、私は深い眠りに落ちていった。
その姿が見えた時、私は馬上から片手を高く掲げて2人に呼びかけた。夜空に浮かぶ月明かりの下、森の縁で待機していた馬上の人影が徐々にはっきりと見えてくる。彼らの姿を認めた途端、私の胸にはこみ上げるような安堵感が広がった。計画通り、無事に合流できる。
「ノエラ様ッ!」
若く澄んだ声が夜の静けさを破る。
「エミリー」
もう一度、彼女の名を呼ぶ。見ると心が和む愛らしい笑顔で私の名を呼んでくれた少女は、私の一番弟子のエミリー。緑色の瞳と麦わら色の髪が月明かりに照らされて煌めいている。私の計画に気付いて、自ら「一緒に行きます」と申し出てくれた優しい子。そんな彼女が、元気よく手を振り返してくれた。
そして彼女の隣には、静かな威厳を纏った姿があった。
「ご無事で何よりです、聖女ノエラ」
落ち着いた深い声で答えた男性は、老賢者ジャメル。白髪交じりの髭を整え、年齢を感じさせる刻まれた皺が、その経験と知恵を物語っている。彼は私の姿を認めると、長い間抱えていた緊張から解放されたかのように、ほっとした表情で微笑んだ。
「ジャメル。私はもう聖女ではありません。ただのノエラです」
彼が使った呼称を、私は訂正する。
「そうですね」
そう言うと、彼は少し悲しそうな表情を浮かべた。瞳の奥には複雑な感情が揺れていた。幼い頃から私の面倒を見てくれて、聖女としての務めを果たすために必要な知識や魔法を教え、様々な困難の中で支えてくれた人。
そして今回も、私が無茶とも言える計画を実行し、彼のことも巻き込んでしまった。深い心配と計り知れない苦労をかけてしまい、申し訳ない気持ちが胸の内に込み上げてくる。
元聖女である私。護衛を務めてくれていた女騎士のナディーヌ。一番弟子で女神官のエミリー。そして長年神殿で老賢者を務めてきたジャメル。彼らが私の大事な仲間。あともう一人、ここには来ていない商人のアンクティワンが協力してくれている。
ここに集まったのは、すでに何者でもない、ただの平民になってしまった者たち。あの魔法によって記憶を消し、私たちの正体を知る者は王国中からいなくなった。新たな人生を始めるための第一歩を、私たちは今踏み出したところだ。
「ノエラ。早速、拠点に向かいましょう」
ジャメルが周囲を警戒しながら提案した。
「そうね」
「行きましょう」
ジャメルの言葉に私が頷くと、エミリーが子供のような無邪気さで賛成してくれる。その明るい声色に、緊張していた空気が少し和らいだ。とりあえず今は拠点に行って落ち着きたい。そこで、今後の動きについてじっくり話し合いたい。
「こちらの道が近道です。人目につかず、安全に移動できます」
「ありがとう。案内して、ナディーヌ」
「お任せください、ノエラ様」
ナディーヌが手慣れた動作で馬を操り先頭に立つと、私たち3人はその後に続いた。騎士としての鋭い眼で周囲を警戒しながら進む彼女の背中には、頼もしさと緊張感が同居していた。
目的地は、今日のために用意しておいた私たちの隠れ家。王都から十分に離れた森の奥、人目につかない場所にある小さな山荘。アンクティワンが手配してくれた安全な避難所だ。
王都を警備する兵士や巡回する騎士たちに遭遇することなく、私たちは無事に拠点まで到着した。馬から降り、やっと一息つくことができる。
「ノエラ。今日はもう、休みなさい。疲れが見えますよ」
ジャメルが私の顔をじっと見つめながら言う。
「いえ、それは……」
そんなに疲れた表情をしていたのかしら。自分ではあまり感じていなかった。まだ休むのは早いと思うけれど。状況の確認や今後について、みんなで話し合う必要があるはず。
だけど、ジャメルの顔に浮かぶ心配の色を見て、少し考えてから私は首を縦に振った。そうね、彼の言う通りにするべき。
「わかりました。今日はもう、休ませてもらいます」
「それがよろしいでしょう。あのような魔法を使ったのですから、体力の消耗は相当なもののハズです」
ジャメルの気遣いに感謝して、素直に従うことにした。彼の言う通り、今日使った魔法は尋常ではない力を要した。しっかり休んで体力を回復させる。明日からの新しい生活に備えた方がいい。
「それでは先に、休ませてもらいます。みんなも無理しないようにね?」
「お疲れさまでした」
ナディーヌが丁寧に一礼する。
「おやすみなさい、ノエラ様。素敵な夢を」
エミリーが明るく微笑みながら見送ってくれる。
「ゆっくりお休みください」
そしてジャメルが、父親のような優しい眼差しで見送ってくれた。
おやすみの挨拶を交わしてから、用意された部屋へと向かった。私は急いで着替えを済ませ、柔らかな寝具に身を横たえる。自分でも気付いていなかったけれど、実は限界近くまで疲れていたのだろう。横になった途端、重い瞼が閉じていく。
魔法の効果によって、多くの人々の記憶から私の存在は消え去った。もう私は、聖女じゃない。それは現実なのに、まだ夢の中にいるような不思議な感覚があった。これから先、この感覚が普通になっていくのでしょうか。
そして、これからどんな人生が待っているのでしょう。そんな思いを抱きながら、私は深い眠りに落ちていった。
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