18 / 41
第18話 新たな楽しみ
しおりを挟む
聖女時代のことを振り返ると、もっとおしゃれに気を配るべきだったと思う。けれど、そんな余裕はまったくなかった。
私の髪は伸びっぱなしで、時には目元も隠れるほど長くなっていた。慌ただしい朝、鏡に映る自分の顔を見て「切らなきゃ」と思いながらも、次々と舞い込む仕事に追われてそのままになることの繰り返し。服装も仕事着を着ている時間が長くて、着替える暇すらないほど仕事に没頭していた。最低限の身だしなみを整えるのが精一杯で、それ以上は時間を割く余裕がなかったほど。
申し訳なかったのは、弟子のエミリーに対してのこと。彼女は私に憧れていて、そんな彼女は私の真似をして修行や仕事に没頭し、私と同じように自分の容姿を磨くことさえ後回しにしていた。そこまで真似しなくていいのにと思っていた。あれだけ可愛いのに、もったいない。
神殿から解放された私たちには、時間に余裕ができた。様々なことに自由に時間を使えるようになり、おしゃれを楽しみたいという気持ちが湧いてきた。
冒険者としての活動も軌道に乗り、それなりに依頼をこなして評価も得た。生活の基盤がしっかりと確立してきて、冒険者活動にも余裕が出てきたからこそ、他のことにも目を向けられるようになったのでしょう。
今日、私はエミリーと一緒に、アンクティワンが経営するお店の一つである服屋を訪れていた。店内は柔らかな光に包まれ、色とりどりの服が美しく並べられている。花のような香りが漂う中、エミリーは少し緊張した様子で私の隣に立っていた。
「エミリー、この服なんてどうかしら?」
柔らかな青色の生地に白い刺繍が施された上品なワンピースを手に取って彼女に見せる。優雅な曲線を描くデザインと、細やかな手仕事が光る一着だ。
「え!? ノエラ様、それお高いやつじゃないですか! 私に買うなら、もっと安いやつでも……」
「いいのよ、せっかくだから着てみなさい。店員さんが言ってくれているように、きっと似合うと思う。私があなたに着てもらいたいと思ったのだから遠慮せずに」
「はい。きっとお似合いですよ」
私の横に立つ店員も優しく微笑みかける。彼女はアンクティワンが管理するお店の従業員らしく、一流の接客で私たちをもてなしてくれていた。
「そ、そうですか……。じゃあ、着てみます!」
遠慮するエミリーを説得して、私は彼女に似合いそうな服をいくつか見繕った。自分のセンスはあまり信用していなかったので、店員たちと相談しながら選んでいく。そして、それらをエミリーに試着してもらうことにした。
「ど、どうですか……?」
おずおずと試着室から出てきたエミリーを見て、私はとても満足だった。彼女の魅力を最大限に引き出したコーディネートだった。青色のワンピースは彼女の明るい髪を引き立て、白い刺繍は清楚な雰囲気を演出している。予想していた通り、とても可愛らしく、それでいて上品さも兼ね備えている。彼女本来の愛らしさが十分に発揮されていた。
「すごく似合っているわよ、エミリー」
心からの感嘆の声を上げる。神殿の硬い雰囲気から離れた彼女は、こんなにも生き生きと輝くのだと実感する。
「はい、とてもお似合いです!」
相談に乗ってくれた店員たちも、彼女の試着した姿を見て喜びの表情を浮かべる。
「えへへ、ノエラ様や店員の皆さまに、そう言ってもらえると嬉しいです」
照れたように笑うエミリーは、やっぱり可愛くて仕方がなかった。この子の笑顔を見ていると、自然と私も笑みがこぼれる。
神殿にいた頃、こんなに素敵な表情を見られなかったのは本当に残念。仕事なんて少しは後回しにして、あの時からもっとおしゃれに取り組んでおいた方が良かったかもしれない。
でも、後悔しても遅い。ならば、今から全力で楽しめばいいのよ。
「じゃ、じゃあ次は! ノエラ様が着替える番ですよ!」
今度は私の番だと言って、エミリーが明るい声で提案してくれる。彼女だけ選んだ服を着てもらって、私が断るわけにはいかない。それに、私自身もこの機会を一緒に楽しみたい。
「そうね。せっかくだから、私に似合いそうな服をエミリーに選んでもらいましょうか」
「え!? わ、私が、ですか? ……わかりました! 全力で選びます!!」
気合の入った様子で店内を駆け回るエミリーを眺めながら、私もいくつかの服を手に取った。そうして、二人で買い物を楽しんだ。聖女時代には決してできなかったことを、今は思う存分に堪能している。
「ノエラ様も、とっても素敵です! 美しすぎます……!」
エミリーが選んでくれたドレスは、私の雰囲気にぴったりだったようだ。肩の部分が少し露出しているデザインで、聖女時代には決して選ばなかったスタイル。でも、鏡に映る自分の姿は悪くない。むしろ、新鮮で心地よい。
「ありがとう、エミリー」
お互いに選んだ服を着ながら、それぞれの姿を見て褒め合ったり、店員たちから様々なファッションの知識を教えてもらったり。今まで関心を持てなかった領域に、今は積極的に挑戦していくことができる。髪型の話から、靴の選び方、アクセサリーの合わせ方まで、私たちは新しい知識を吸収していった。
「次回は、ナディーヌも一緒に連れて来ようかしら」
彼女も、いつも実用的な服ばかり着ている。けれど、もっと女性らしい服も似合うはず。
「はい! それ、すごくいいですね! ナディーヌさんは背が高くてスタイルもいいから、きっといろんな服が似合うと思います!」
エミリーの目が輝く。彼女も同じことを考えていたのだろう。服を選ぶのがもっと楽しくなるに違いない。そんなことを想像して、私たちは笑顔を浮かべた。
そして、ジャメルの服装に関しても。彼も、神殿から出てきた後も同じような服ばかり着ている。彼にも新しい服を選んであげようかな。きっとそれも楽しいだろうと思った。
私の髪は伸びっぱなしで、時には目元も隠れるほど長くなっていた。慌ただしい朝、鏡に映る自分の顔を見て「切らなきゃ」と思いながらも、次々と舞い込む仕事に追われてそのままになることの繰り返し。服装も仕事着を着ている時間が長くて、着替える暇すらないほど仕事に没頭していた。最低限の身だしなみを整えるのが精一杯で、それ以上は時間を割く余裕がなかったほど。
申し訳なかったのは、弟子のエミリーに対してのこと。彼女は私に憧れていて、そんな彼女は私の真似をして修行や仕事に没頭し、私と同じように自分の容姿を磨くことさえ後回しにしていた。そこまで真似しなくていいのにと思っていた。あれだけ可愛いのに、もったいない。
神殿から解放された私たちには、時間に余裕ができた。様々なことに自由に時間を使えるようになり、おしゃれを楽しみたいという気持ちが湧いてきた。
冒険者としての活動も軌道に乗り、それなりに依頼をこなして評価も得た。生活の基盤がしっかりと確立してきて、冒険者活動にも余裕が出てきたからこそ、他のことにも目を向けられるようになったのでしょう。
今日、私はエミリーと一緒に、アンクティワンが経営するお店の一つである服屋を訪れていた。店内は柔らかな光に包まれ、色とりどりの服が美しく並べられている。花のような香りが漂う中、エミリーは少し緊張した様子で私の隣に立っていた。
「エミリー、この服なんてどうかしら?」
柔らかな青色の生地に白い刺繍が施された上品なワンピースを手に取って彼女に見せる。優雅な曲線を描くデザインと、細やかな手仕事が光る一着だ。
「え!? ノエラ様、それお高いやつじゃないですか! 私に買うなら、もっと安いやつでも……」
「いいのよ、せっかくだから着てみなさい。店員さんが言ってくれているように、きっと似合うと思う。私があなたに着てもらいたいと思ったのだから遠慮せずに」
「はい。きっとお似合いですよ」
私の横に立つ店員も優しく微笑みかける。彼女はアンクティワンが管理するお店の従業員らしく、一流の接客で私たちをもてなしてくれていた。
「そ、そうですか……。じゃあ、着てみます!」
遠慮するエミリーを説得して、私は彼女に似合いそうな服をいくつか見繕った。自分のセンスはあまり信用していなかったので、店員たちと相談しながら選んでいく。そして、それらをエミリーに試着してもらうことにした。
「ど、どうですか……?」
おずおずと試着室から出てきたエミリーを見て、私はとても満足だった。彼女の魅力を最大限に引き出したコーディネートだった。青色のワンピースは彼女の明るい髪を引き立て、白い刺繍は清楚な雰囲気を演出している。予想していた通り、とても可愛らしく、それでいて上品さも兼ね備えている。彼女本来の愛らしさが十分に発揮されていた。
「すごく似合っているわよ、エミリー」
心からの感嘆の声を上げる。神殿の硬い雰囲気から離れた彼女は、こんなにも生き生きと輝くのだと実感する。
「はい、とてもお似合いです!」
相談に乗ってくれた店員たちも、彼女の試着した姿を見て喜びの表情を浮かべる。
「えへへ、ノエラ様や店員の皆さまに、そう言ってもらえると嬉しいです」
照れたように笑うエミリーは、やっぱり可愛くて仕方がなかった。この子の笑顔を見ていると、自然と私も笑みがこぼれる。
神殿にいた頃、こんなに素敵な表情を見られなかったのは本当に残念。仕事なんて少しは後回しにして、あの時からもっとおしゃれに取り組んでおいた方が良かったかもしれない。
でも、後悔しても遅い。ならば、今から全力で楽しめばいいのよ。
「じゃ、じゃあ次は! ノエラ様が着替える番ですよ!」
今度は私の番だと言って、エミリーが明るい声で提案してくれる。彼女だけ選んだ服を着てもらって、私が断るわけにはいかない。それに、私自身もこの機会を一緒に楽しみたい。
「そうね。せっかくだから、私に似合いそうな服をエミリーに選んでもらいましょうか」
「え!? わ、私が、ですか? ……わかりました! 全力で選びます!!」
気合の入った様子で店内を駆け回るエミリーを眺めながら、私もいくつかの服を手に取った。そうして、二人で買い物を楽しんだ。聖女時代には決してできなかったことを、今は思う存分に堪能している。
「ノエラ様も、とっても素敵です! 美しすぎます……!」
エミリーが選んでくれたドレスは、私の雰囲気にぴったりだったようだ。肩の部分が少し露出しているデザインで、聖女時代には決して選ばなかったスタイル。でも、鏡に映る自分の姿は悪くない。むしろ、新鮮で心地よい。
「ありがとう、エミリー」
お互いに選んだ服を着ながら、それぞれの姿を見て褒め合ったり、店員たちから様々なファッションの知識を教えてもらったり。今まで関心を持てなかった領域に、今は積極的に挑戦していくことができる。髪型の話から、靴の選び方、アクセサリーの合わせ方まで、私たちは新しい知識を吸収していった。
「次回は、ナディーヌも一緒に連れて来ようかしら」
彼女も、いつも実用的な服ばかり着ている。けれど、もっと女性らしい服も似合うはず。
「はい! それ、すごくいいですね! ナディーヌさんは背が高くてスタイルもいいから、きっといろんな服が似合うと思います!」
エミリーの目が輝く。彼女も同じことを考えていたのだろう。服を選ぶのがもっと楽しくなるに違いない。そんなことを想像して、私たちは笑顔を浮かべた。
そして、ジャメルの服装に関しても。彼も、神殿から出てきた後も同じような服ばかり着ている。彼にも新しい服を選んであげようかな。きっとそれも楽しいだろうと思った。
907
あなたにおすすめの小説
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる