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第19話 とある老賢者との会談 ※エリック王子視点
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「馬鹿か? そんな金、出すわけないだろう」
俺は、神殿の老賢者である中年男性を冷ややかな目で見下ろした。執務室に入れたことを後悔するほど、情けない姿で立っている男。額に浮かぶ汗、震える手、俯きがちな目線——すべてが弱々しく見えて、いっそう腹立たしい。同情を引くつもりか。その手には乗らんぞ。
その男は、神殿の財政難を理由に王家に資金援助を求めてやってきたのだ。
「で、ですが資金援助がないと神殿の業務が滞ってしまい……!」
恐る恐る言い訳をする老賢者に、俺は鼻で笑った。話を聞けば、最近神殿の業務が著しく滞っているらしい。王都周辺ではモンスターの出現率が増加傾向にあり、討伐依頼の失敗が続出しているという。
特に聖女が関わる祝福の儀式も不完全で、作物の出来が悪いとか。その結果、依頼の報酬を受け取れずに資金不足に陥り、人々から助けを求められても対応できない神殿の評価は日に日に下がっているとのことだ。
おまけに、そのような状況下で冒険者たちに仕事を奪われつつあるとも言う。最近、王都周辺で評判の冒険者パーティーが現れ、神殿より早く効率的に問題を解決しているという話だ。
俺は執務室の椅子に深く腰掛け、老賢者を睨みつけた。そんなこと、自分たちでどうにか解決すべき問題だろう。単純な神殿の管理不足。その責任を王家に押し付けるつもりのようだ。くだらない。
話を真面目に聞いて、無駄な時間でしかなかった。いま俺には、神殿に資金援助をするつもりなど毛頭ない。王家の金庫は無尽蔵ではないのだから。
「以前、十分な援助をしただろう? あれだけの資金を出してやったのに、お前たちはまだ足りないというのか?」
「あ、いえ。そ、それは、その……」
言葉を詰まらせる老賢者に、俺は冷たい視線を送った。愛する聖女エリーゼのために、これまで何度も資金援助してきた。本心では気が進まなかったが、彼女のためなら仕方ないと思って出したのだ。それなのに、神殿の連中はさらに要求してくる。本当に呆れた話。
ここで俺が折れれば、また同じことの繰り返しになるだろう。甘えるんじゃない。神殿には当分の間、資金援助などしないつもりだ。
俺が欲しいのは愛する聖女エリーゼだけだ。彼女が聖女であり神殿に所属しているから、俺は資金援助を行ってきたのだ。それを無駄に浪費されたのでは、腹が立って当然だろう。
「もういい! これ以上の話し合いは無駄だ。下がれ!」
俺が手を振ると、老賢者は焦った表情で一歩前に出た。
「お、お待ちください! もう一度、話をっ!!」
「ええいっ! うるさい! おい、この者を帰せ」
俺は立ち上がり、部屋の隅で控えていた兵士に目配せした。兵士は無言で頷くと、情けない老賢者の肩を掴み、部屋から連れ出した。その醜い後姿を最後まで見届け、俺はようやく安堵の溜息をついた。静かになって、落ち着くことができる。
「はぁ……」
窓辺に立ち、外の景色を眺めながら考える。神殿の連中には、本当にイライラさせられる。神殿の評判が大きく落ち込んでいるのは、依頼の失敗だけじゃない。内部での揉め事や権力争いが起こしているという噂も耳に入っている。それで無駄に消耗しているらしい。救えない奴らだ。
これまで資金を援助してやったのに、そんな状況に陥るとは。無能ばかり集まっているのだろう。まったく迷惑な話だ。
将来のことを考えると、不安になってくる。この先、俺が治める王国に影響が出てこないだろうか。神殿が負債になったりはしないだろうか? そんな懸念が頭をよぎる。
神殿の問題なのに、なぜ俺がこんなに悩まされなければならないのか。内心では苛立ちを覚えながらも、王族としての責任感から見捨てることもできない。神殿との関係は、これまで大きな歴史がある。無視はできない問題。
「まあでも」
俺は、窓から見える神殿の尖塔に目をやった。白亜の塔は、陽光を受けて神々しく輝いている。あそこには、歴代最強と言われている聖女エリーゼがいる。可憐で愛らしい彼女。誰もが知る美しく優れた聖女だ。彼女が居れば、なんだかんだ言って神殿も安泰ではある。つまり、王国も安泰というわけだ。
俺が頼りにするべきなのは神殿の老賢者の連中ではなく、聖女エリーゼなのだ。彼女さえいれば、大丈夫なはずだ。今は大変な状況でも、彼女に本気を出してもらえればきっと大丈夫。俺はそう信じている。彼女に期待しているのだ。
そのためにも、婚約者であるエリーゼとの関係を深めておくことは大切だ。ついでに、このイラつきを発散するために会いに行こう。きっと彼女も俺を待っているはずだから。彼女の美しい顔を思い浮かべるだけで、気分が良くなってくる。
俺は執務室から出ようと、足早に扉へと向かった。
「で、殿下? どこへ行かれるのですか……?」
大臣が俺を呼び止めた。不安げな表情を浮かべている。
「ああ、ちょっと重要な案件があってな」
俺は適当に言葉を濁した。エリーゼに会いに行くことを正直に言っても仕方ない。どうせ止められるだろう。これから先を見据えて、これは必要なことなのに。
「しかし、政務がまだ残っておりますが」
「それは、他の者に任せておく」
大臣は手にした書類の束を示しながら、遠慮がちに言った。 俺は軽く手を振って、その提案を一蹴する。やれる奴に任せればいいし、後回しでもいいだろう。
「し、しかしですね」
大臣がまだ何か言いかけるが、俺は構わず歩き出した。
「やるべき事がある。今は、そっちを優先しないと駄目だからな」
「……かしこまりました」
ようやく大臣は諦めたようだ。頭を下げると、もう引き留めようとはしない。それなら初めから、呼び止めなければいいのに。こういう余計な会話が、俺の時間を無駄にしている。
俺は、ちゃんと王国のために働いているのだから、心配しなくたっていい。神殿の老賢者や大臣たちの心配をよそに、俺は自分の道を突き進むべき。これが将来の国王としての決断力というものだ。
これからエリーゼに会いに行く。彼女の笑顔を見れば、この鬱陶しい気分も晴れるはずだ。神殿の問題など、彼女さえいれば解決できるだろう。そう思いながら、俺は足早に廊下を進んだ。大切な聖女のいる宮殿へ向かう。胸を高鳴らせながら。
俺は、神殿の老賢者である中年男性を冷ややかな目で見下ろした。執務室に入れたことを後悔するほど、情けない姿で立っている男。額に浮かぶ汗、震える手、俯きがちな目線——すべてが弱々しく見えて、いっそう腹立たしい。同情を引くつもりか。その手には乗らんぞ。
その男は、神殿の財政難を理由に王家に資金援助を求めてやってきたのだ。
「で、ですが資金援助がないと神殿の業務が滞ってしまい……!」
恐る恐る言い訳をする老賢者に、俺は鼻で笑った。話を聞けば、最近神殿の業務が著しく滞っているらしい。王都周辺ではモンスターの出現率が増加傾向にあり、討伐依頼の失敗が続出しているという。
特に聖女が関わる祝福の儀式も不完全で、作物の出来が悪いとか。その結果、依頼の報酬を受け取れずに資金不足に陥り、人々から助けを求められても対応できない神殿の評価は日に日に下がっているとのことだ。
おまけに、そのような状況下で冒険者たちに仕事を奪われつつあるとも言う。最近、王都周辺で評判の冒険者パーティーが現れ、神殿より早く効率的に問題を解決しているという話だ。
俺は執務室の椅子に深く腰掛け、老賢者を睨みつけた。そんなこと、自分たちでどうにか解決すべき問題だろう。単純な神殿の管理不足。その責任を王家に押し付けるつもりのようだ。くだらない。
話を真面目に聞いて、無駄な時間でしかなかった。いま俺には、神殿に資金援助をするつもりなど毛頭ない。王家の金庫は無尽蔵ではないのだから。
「以前、十分な援助をしただろう? あれだけの資金を出してやったのに、お前たちはまだ足りないというのか?」
「あ、いえ。そ、それは、その……」
言葉を詰まらせる老賢者に、俺は冷たい視線を送った。愛する聖女エリーゼのために、これまで何度も資金援助してきた。本心では気が進まなかったが、彼女のためなら仕方ないと思って出したのだ。それなのに、神殿の連中はさらに要求してくる。本当に呆れた話。
ここで俺が折れれば、また同じことの繰り返しになるだろう。甘えるんじゃない。神殿には当分の間、資金援助などしないつもりだ。
俺が欲しいのは愛する聖女エリーゼだけだ。彼女が聖女であり神殿に所属しているから、俺は資金援助を行ってきたのだ。それを無駄に浪費されたのでは、腹が立って当然だろう。
「もういい! これ以上の話し合いは無駄だ。下がれ!」
俺が手を振ると、老賢者は焦った表情で一歩前に出た。
「お、お待ちください! もう一度、話をっ!!」
「ええいっ! うるさい! おい、この者を帰せ」
俺は立ち上がり、部屋の隅で控えていた兵士に目配せした。兵士は無言で頷くと、情けない老賢者の肩を掴み、部屋から連れ出した。その醜い後姿を最後まで見届け、俺はようやく安堵の溜息をついた。静かになって、落ち着くことができる。
「はぁ……」
窓辺に立ち、外の景色を眺めながら考える。神殿の連中には、本当にイライラさせられる。神殿の評判が大きく落ち込んでいるのは、依頼の失敗だけじゃない。内部での揉め事や権力争いが起こしているという噂も耳に入っている。それで無駄に消耗しているらしい。救えない奴らだ。
これまで資金を援助してやったのに、そんな状況に陥るとは。無能ばかり集まっているのだろう。まったく迷惑な話だ。
将来のことを考えると、不安になってくる。この先、俺が治める王国に影響が出てこないだろうか。神殿が負債になったりはしないだろうか? そんな懸念が頭をよぎる。
神殿の問題なのに、なぜ俺がこんなに悩まされなければならないのか。内心では苛立ちを覚えながらも、王族としての責任感から見捨てることもできない。神殿との関係は、これまで大きな歴史がある。無視はできない問題。
「まあでも」
俺は、窓から見える神殿の尖塔に目をやった。白亜の塔は、陽光を受けて神々しく輝いている。あそこには、歴代最強と言われている聖女エリーゼがいる。可憐で愛らしい彼女。誰もが知る美しく優れた聖女だ。彼女が居れば、なんだかんだ言って神殿も安泰ではある。つまり、王国も安泰というわけだ。
俺が頼りにするべきなのは神殿の老賢者の連中ではなく、聖女エリーゼなのだ。彼女さえいれば、大丈夫なはずだ。今は大変な状況でも、彼女に本気を出してもらえればきっと大丈夫。俺はそう信じている。彼女に期待しているのだ。
そのためにも、婚約者であるエリーゼとの関係を深めておくことは大切だ。ついでに、このイラつきを発散するために会いに行こう。きっと彼女も俺を待っているはずだから。彼女の美しい顔を思い浮かべるだけで、気分が良くなってくる。
俺は執務室から出ようと、足早に扉へと向かった。
「で、殿下? どこへ行かれるのですか……?」
大臣が俺を呼び止めた。不安げな表情を浮かべている。
「ああ、ちょっと重要な案件があってな」
俺は適当に言葉を濁した。エリーゼに会いに行くことを正直に言っても仕方ない。どうせ止められるだろう。これから先を見据えて、これは必要なことなのに。
「しかし、政務がまだ残っておりますが」
「それは、他の者に任せておく」
大臣は手にした書類の束を示しながら、遠慮がちに言った。 俺は軽く手を振って、その提案を一蹴する。やれる奴に任せればいいし、後回しでもいいだろう。
「し、しかしですね」
大臣がまだ何か言いかけるが、俺は構わず歩き出した。
「やるべき事がある。今は、そっちを優先しないと駄目だからな」
「……かしこまりました」
ようやく大臣は諦めたようだ。頭を下げると、もう引き留めようとはしない。それなら初めから、呼び止めなければいいのに。こういう余計な会話が、俺の時間を無駄にしている。
俺は、ちゃんと王国のために働いているのだから、心配しなくたっていい。神殿の老賢者や大臣たちの心配をよそに、俺は自分の道を突き進むべき。これが将来の国王としての決断力というものだ。
これからエリーゼに会いに行く。彼女の笑顔を見れば、この鬱陶しい気分も晴れるはずだ。神殿の問題など、彼女さえいれば解決できるだろう。そう思いながら、俺は足早に廊下を進んだ。大切な聖女のいる宮殿へ向かう。胸を高鳴らせながら。
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