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第20話 噂の新人パーティー ※第三者視点
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「くっ、うっ。ここまで、か……」
鈍い痛みが全身を走る。目前に迫るモンスターを見つめながら、中年の冒険者の男は覚悟を決めるしかなかった。逃げ出す体力も、抵抗する気力も残っていない。
半ばから折れた剣を地面に立てて片膝をつき、ボロボロになった鎧が全身にどっしりと重くのしかかる。
血の匂いが鼻をつく。それが自分の血なのか、仲間の血なのか、倒したモンスターの血なのか。もはや区別もつかない。唯一確かなのは、この戦いが終わりに近づいていることだ。
動けない。目の前の巨大な蛇のような姿のモンスターが、今まさに自分を狙っている。赤い瞳が不気味に輝き、二又に分かれた長い舌が空気を舐める。次の瞬間には、自分の首が飛んでいてもおかしくない状況だった。
くそっ。こんなことになるなんて。男は後悔した。油断したことを。何とか今まで戦い抜いたが、もう限界だった。周囲を見渡せば、仲間たちも倒れて動けない。彼らがまだ生きているのかさえ、確かめる余裕もなかった。
さらに数を増し続けるモンスターの大群を見て、熟練の冒険者の心が折れた。自分の人生はここまでなのだと。状況は絶望的だった。仲間たちには生き残ってほしかったが、ここで全滅か。
すまない、みんな。死を覚悟して、心の中で仲間たちに謝罪した。これで俺たちの冒険は終わり。あっけない最期だった。
男が生きて帰ることを完全に諦めた、その時。
「大丈夫ですか?」
「っ!?」
聞こえてきたのは若い女性の声。ここは危険だから逃げるよう伝えなければ。体は動かない。だが、まだ声だけは出せるはずだ。
「にげ、っ!?」
口を開いた瞬間、目の前が淡い緑色の光に包まれた。温かい風が肌を撫でて、男の意識が鮮明になる。そして、感じていた痛みが薄れていく。痛みで動けなかったはずの体が、再び動くようになった。慌てて立ち上がり、自分の両手を見つめる男。何が起きているのか理解できない。
「これは……」
「エミリー、怪我人の確認を。ナディーヌは前線に。ジャメルは周囲の警戒を」
「「「了解」」」
男は口をぽかんと開けたまま、呆然としていた。何が起きているのか理解できないまま、駆けつけた者たちが素早く動き出すのを見ていた。女性の声に応じて、三人の姿が素早く広がっていく。指示を受けて、それぞれが的確に役目を果たしていく。理想的な戦い方。
若い女性が地面に倒れている同僚の冒険者たちを次々と回復していく様子を目の当たりにして、男は圧倒された。
「う、ううん」
「どう、なって……」
「な!?」
驚きの連続だった。モンスターの攻撃を受けて倒れていた冒険者たちが次々と目を覚ました。それを見た時、男はようやく理解した。彼女たちが魔法で回復して、助けてくれたのだと。これほどの回復魔法を使いこなせる者など、相当な実力者。
死にかけていた者を回復するのは上級の魔法。そんな高度な魔法を扱えるなんて、冒険者にはなかなかいない。もしかして彼女たちは神殿の者たちなのではないかと、男は考えた。彼は駆けつけてくれた者たちの様子を観察しながら、その正体について考えを巡らせた。
服装は普通の冒険者のようだった。実用的な革の防具と、質素だが丈夫そうな衣服。神殿の典型的な清楚な服装ではない。ただ、彼女たちは確かに強力な魔法を使っている。魔法を使う冒険者がそもそも珍しい。ということは、やはり神殿所属の者たちだろうか、あるいは別の組織からの派遣か。
神殿の者たちであれば、後で救助のお礼に高額の報酬を請求されるかもしれない。だが、死にかけていたところを助けてもらったのも事実だ。報酬を請求されても仕方ない。払うしかないだろう。生き残れたことを感謝するべきだ。
そう考えながら助けられた男が見つめる先では、金髪の女性騎士がモンスターたちを圧倒していた。洗練された剣さばきで、先ほどまで自分を追い詰めていた巨大な蛇型モンスターの頭を一撃で切り落とす。その背後から迫る別のモンスターは、白髪交じりの髭を持つ老人の放った魔法によって地面に沈み込んでいく。
「……すごい」
「我々が苦労した敵を、あんなに簡単に倒している」
「あっという間だ」
「助けに入ったら、邪魔になるかな」
一番最初に助けられた男と同様に、回復した仲間たちも驚きの声を上げていた。数十年も冒険者として活動してきた経験豊富な彼らだが、今まで目の当たりにしたことのない強さと連携だった。
集まっていたモンスターの大群を次々と殲滅し、不意の奇襲にも難なく対処していく。非常に戦い慣れている様子だった。勢いは完全に彼女たちにあった。最初に命令を下した女性は、冷静に戦場を見渡しながら的確な指示を続けている。美しい顔立ちとは対照的な、冷静かつ的確な判断力が光る。
その一方的な戦いを、熟練の冒険者パーティーは見ているしかできなかった。助けに入っても邪魔になると理解していたから、余計な手出しはしないように控えていた。
しばらくして、戦闘は終結した。驚くべきことに、駆けつけた者たちの中に負傷者は一人もいなかった。しかも、死の危機が迫っていた他の冒険者を回復し、守りながらの完全勝利。彼女たちの連携は、まるで何十年も一緒に戦ってきたチームのよう。自分たちよりも、遥かに上の実力者のチーム。
鈍い痛みが全身を走る。目前に迫るモンスターを見つめながら、中年の冒険者の男は覚悟を決めるしかなかった。逃げ出す体力も、抵抗する気力も残っていない。
半ばから折れた剣を地面に立てて片膝をつき、ボロボロになった鎧が全身にどっしりと重くのしかかる。
血の匂いが鼻をつく。それが自分の血なのか、仲間の血なのか、倒したモンスターの血なのか。もはや区別もつかない。唯一確かなのは、この戦いが終わりに近づいていることだ。
動けない。目の前の巨大な蛇のような姿のモンスターが、今まさに自分を狙っている。赤い瞳が不気味に輝き、二又に分かれた長い舌が空気を舐める。次の瞬間には、自分の首が飛んでいてもおかしくない状況だった。
くそっ。こんなことになるなんて。男は後悔した。油断したことを。何とか今まで戦い抜いたが、もう限界だった。周囲を見渡せば、仲間たちも倒れて動けない。彼らがまだ生きているのかさえ、確かめる余裕もなかった。
さらに数を増し続けるモンスターの大群を見て、熟練の冒険者の心が折れた。自分の人生はここまでなのだと。状況は絶望的だった。仲間たちには生き残ってほしかったが、ここで全滅か。
すまない、みんな。死を覚悟して、心の中で仲間たちに謝罪した。これで俺たちの冒険は終わり。あっけない最期だった。
男が生きて帰ることを完全に諦めた、その時。
「大丈夫ですか?」
「っ!?」
聞こえてきたのは若い女性の声。ここは危険だから逃げるよう伝えなければ。体は動かない。だが、まだ声だけは出せるはずだ。
「にげ、っ!?」
口を開いた瞬間、目の前が淡い緑色の光に包まれた。温かい風が肌を撫でて、男の意識が鮮明になる。そして、感じていた痛みが薄れていく。痛みで動けなかったはずの体が、再び動くようになった。慌てて立ち上がり、自分の両手を見つめる男。何が起きているのか理解できない。
「これは……」
「エミリー、怪我人の確認を。ナディーヌは前線に。ジャメルは周囲の警戒を」
「「「了解」」」
男は口をぽかんと開けたまま、呆然としていた。何が起きているのか理解できないまま、駆けつけた者たちが素早く動き出すのを見ていた。女性の声に応じて、三人の姿が素早く広がっていく。指示を受けて、それぞれが的確に役目を果たしていく。理想的な戦い方。
若い女性が地面に倒れている同僚の冒険者たちを次々と回復していく様子を目の当たりにして、男は圧倒された。
「う、ううん」
「どう、なって……」
「な!?」
驚きの連続だった。モンスターの攻撃を受けて倒れていた冒険者たちが次々と目を覚ました。それを見た時、男はようやく理解した。彼女たちが魔法で回復して、助けてくれたのだと。これほどの回復魔法を使いこなせる者など、相当な実力者。
死にかけていた者を回復するのは上級の魔法。そんな高度な魔法を扱えるなんて、冒険者にはなかなかいない。もしかして彼女たちは神殿の者たちなのではないかと、男は考えた。彼は駆けつけてくれた者たちの様子を観察しながら、その正体について考えを巡らせた。
服装は普通の冒険者のようだった。実用的な革の防具と、質素だが丈夫そうな衣服。神殿の典型的な清楚な服装ではない。ただ、彼女たちは確かに強力な魔法を使っている。魔法を使う冒険者がそもそも珍しい。ということは、やはり神殿所属の者たちだろうか、あるいは別の組織からの派遣か。
神殿の者たちであれば、後で救助のお礼に高額の報酬を請求されるかもしれない。だが、死にかけていたところを助けてもらったのも事実だ。報酬を請求されても仕方ない。払うしかないだろう。生き残れたことを感謝するべきだ。
そう考えながら助けられた男が見つめる先では、金髪の女性騎士がモンスターたちを圧倒していた。洗練された剣さばきで、先ほどまで自分を追い詰めていた巨大な蛇型モンスターの頭を一撃で切り落とす。その背後から迫る別のモンスターは、白髪交じりの髭を持つ老人の放った魔法によって地面に沈み込んでいく。
「……すごい」
「我々が苦労した敵を、あんなに簡単に倒している」
「あっという間だ」
「助けに入ったら、邪魔になるかな」
一番最初に助けられた男と同様に、回復した仲間たちも驚きの声を上げていた。数十年も冒険者として活動してきた経験豊富な彼らだが、今まで目の当たりにしたことのない強さと連携だった。
集まっていたモンスターの大群を次々と殲滅し、不意の奇襲にも難なく対処していく。非常に戦い慣れている様子だった。勢いは完全に彼女たちにあった。最初に命令を下した女性は、冷静に戦場を見渡しながら的確な指示を続けている。美しい顔立ちとは対照的な、冷静かつ的確な判断力が光る。
その一方的な戦いを、熟練の冒険者パーティーは見ているしかできなかった。助けに入っても邪魔になると理解していたから、余計な手出しはしないように控えていた。
しばらくして、戦闘は終結した。驚くべきことに、駆けつけた者たちの中に負傷者は一人もいなかった。しかも、死の危機が迫っていた他の冒険者を回復し、守りながらの完全勝利。彼女たちの連携は、まるで何十年も一緒に戦ってきたチームのよう。自分たちよりも、遥かに上の実力者のチーム。
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