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第33話 聖女の見限り ※偽聖女エリーゼ視点
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私の知らない間に、周囲の状況は急激に変わっていった。
数ヶ月前まで、私は神殿の最高権威だった。聖女として、皆から畏敬されていた。仕事着に身を包み、神殿内を歩けば誰もが頭を下げ、敬意を表していた。それが今や、私の言葉に耳を傾けようとしない。自分たちのことで精一杯らしい。みっともない。
振り返ってみれば、神殿の転落の始まりは王子から資金援助を受けたときだったのかもしれない。極秘の任務の依頼を受けたらしいけれど、私はその詳細を知らない。でも、王子から直接依頼されたということは大事な任務なのでしょう。
私も一緒に聞かせてほしかったけど、老賢者たちだけで勝手に話を進めた。
老賢者たちは浮かれていた。「これで神殿の影響力は復活する」と考えていたみたい。まだら髭の老賢者などは「この依頼を成功させれば、再び王家の信頼を得られるぞ」と、何度も何度も繰り返していた。
結局、その企みは大失敗に終わった。アレクシスという名前の、ちょっとだけ有名だった若い賢者。彼を慕う女神官たちが、彼と一緒に神殿から脱走したらしい。私はその時、エリック王子との大切なデートに集中していたから詳しいことは知らない。老賢者も勝手に進めていたから、知らないのも当然でしょ。でも、神殿の混乱ぶりは十分に想像できる。連中の顔が真っ青になっていたもの。
神殿から逃げ出した連中を連れ戻せと命令を出したらしいけど、それをできる人員がいなかった。脱走したのは実力者ばかり。彼女たちがいなくなったことで、神殿の機能は大きく削られてしまった。
人手不足は深刻だった。神殿に舞い込む依頼の処理能力が大幅に低下し、市民からの不満が爆発した。それでも老賢者たちは自分で何とかしようとせず、聖女である私に全てを押し付けてきた。あの老いぼれたち、自分で動こうとしないくせに。
「エリーゼ様、この依頼の処理もお願いできますか」
「エリーゼ様、こちらの祝福の儀式も」
「エリーゼ様、モンスターの討伐依頼も」
バカじゃないの? この前も思ったけど、聖女が全部やるなら、あなたたちは何のために存在するのよ。私が疲れ果てて倒れたらどうするつもり? そもそも私だって、全ての魔法を完璧に使いこなせるわけじゃないのに。実力者だとおだてて、どうにかしてもらおうと期待を向けるだけ。
「これ以上は無理。そんなの、依頼を引き受けた人たちで解決しなさいよ」
「で、ですが今までもなんとか解決してくれたのに。どうして今になって……!」
「無理なものは、無理よ。今だって無理してやってるでしょ。これ以上、私の負担を増やさないでよ」
これまで以上の働きを求められ、そんなの絶対に無理という量。しかも、もし失敗すれば私の責任にされる。そんなの絶対に嫌。これだけ働かせて、私の美貌に傷がついたり、苦労で顔にシワが増えたらどうするの? エリック王子に嫌われちゃうじゃない。
私は状況を王子に報告した。神殿が最悪な状況であることを包み隠さず話した。もちろん、私の苦労についても。
「王子様、神殿はもう崩壊寸前です。私一人では支えきれません。あの老賢者たちは何もしてくれないのに、私だけに無理な要求をしてきて……」
彼は深いため息をつき、神殿を見限ることを決めたようだった。顔に書いてある。「もう神殿の相手はしたくない」と。最近の彼は、私に対しても少し冷淡になっていた気がする。それが怖かった。
私には選択肢がなかった。神殿を離れて王宮で生活させてもらうことにした。嫌そうな表情を浮かべるエリック王子だけれど、なんとかすがりつく。ここで神殿と一緒に見捨てられたら、私は生きていけない。聖女という地位を失い、王妃の座も逃してしまったら、私はただの女神官になってしまう。絶対に嫌。
「王子様、私が神殿から離れても、聖女の務めは果たします。王宮から祝福を与えることだってできますわ。それに、あなたのそばにいれば、どんなことでも頑張れますもの」
王子の不満そうな表情に、私は必死で笑顔を作った。できるだけ可愛らしく、彼の心をつかむように。彼と一緒の立場を失わないよう、全力を尽くした。
その後、「癒しの協会」という、神殿の真似事のような組織が立ち上がったという噂を聞いた。市民からの評判はとても良いらしい。治癒や祝福の儀式を神殿より安く、しかも確実にこなしてくれるのだとか。
普通に考えたら、神殿に目をつけられて終わり。昔なら、異端として断罪されていただろう。対抗しようとしても絶対に勝つことはできないでしょう。でも今の状況なら、立場が逆転する可能性もありそう。それだけ、神殿の権威は失われている。
彼らを侮って放置していたら危ないかもしれない。そう思っていたら、神殿の連中は何も動こうとしなかった。どんどん協会の影響力が大きくなっていき、あっという間に神殿の存在感は薄れてしまった。今やもう、市民の味方は協会だけ。神殿は忌み嫌われる存在になってしまった。
「神殿は、もうダメなのね」
今の神殿の状況を見て、私は確信した。早く離れるべき。そもそも神殿に愛着なんてなかったのだから。私が欲しかったのは、神殿が持つ権威だけ。それが今や地に落ちてしまった以上、もう価値はない。
私は決心した。もう聖女という看板にしがみつくのは止めよう。それより、王妃になることを目指すべきだ。王子に近づき、彼の心を掴まなければ。
神殿の没落と共に「聖女」の価値も下がってしまった今、私に残された道はそれしかない。もう聖女の立場なんか捨てて、素直に欲望に従おう。
私、エリーゼは王妃になるのよ。
数ヶ月前まで、私は神殿の最高権威だった。聖女として、皆から畏敬されていた。仕事着に身を包み、神殿内を歩けば誰もが頭を下げ、敬意を表していた。それが今や、私の言葉に耳を傾けようとしない。自分たちのことで精一杯らしい。みっともない。
振り返ってみれば、神殿の転落の始まりは王子から資金援助を受けたときだったのかもしれない。極秘の任務の依頼を受けたらしいけれど、私はその詳細を知らない。でも、王子から直接依頼されたということは大事な任務なのでしょう。
私も一緒に聞かせてほしかったけど、老賢者たちだけで勝手に話を進めた。
老賢者たちは浮かれていた。「これで神殿の影響力は復活する」と考えていたみたい。まだら髭の老賢者などは「この依頼を成功させれば、再び王家の信頼を得られるぞ」と、何度も何度も繰り返していた。
結局、その企みは大失敗に終わった。アレクシスという名前の、ちょっとだけ有名だった若い賢者。彼を慕う女神官たちが、彼と一緒に神殿から脱走したらしい。私はその時、エリック王子との大切なデートに集中していたから詳しいことは知らない。老賢者も勝手に進めていたから、知らないのも当然でしょ。でも、神殿の混乱ぶりは十分に想像できる。連中の顔が真っ青になっていたもの。
神殿から逃げ出した連中を連れ戻せと命令を出したらしいけど、それをできる人員がいなかった。脱走したのは実力者ばかり。彼女たちがいなくなったことで、神殿の機能は大きく削られてしまった。
人手不足は深刻だった。神殿に舞い込む依頼の処理能力が大幅に低下し、市民からの不満が爆発した。それでも老賢者たちは自分で何とかしようとせず、聖女である私に全てを押し付けてきた。あの老いぼれたち、自分で動こうとしないくせに。
「エリーゼ様、この依頼の処理もお願いできますか」
「エリーゼ様、こちらの祝福の儀式も」
「エリーゼ様、モンスターの討伐依頼も」
バカじゃないの? この前も思ったけど、聖女が全部やるなら、あなたたちは何のために存在するのよ。私が疲れ果てて倒れたらどうするつもり? そもそも私だって、全ての魔法を完璧に使いこなせるわけじゃないのに。実力者だとおだてて、どうにかしてもらおうと期待を向けるだけ。
「これ以上は無理。そんなの、依頼を引き受けた人たちで解決しなさいよ」
「で、ですが今までもなんとか解決してくれたのに。どうして今になって……!」
「無理なものは、無理よ。今だって無理してやってるでしょ。これ以上、私の負担を増やさないでよ」
これまで以上の働きを求められ、そんなの絶対に無理という量。しかも、もし失敗すれば私の責任にされる。そんなの絶対に嫌。これだけ働かせて、私の美貌に傷がついたり、苦労で顔にシワが増えたらどうするの? エリック王子に嫌われちゃうじゃない。
私は状況を王子に報告した。神殿が最悪な状況であることを包み隠さず話した。もちろん、私の苦労についても。
「王子様、神殿はもう崩壊寸前です。私一人では支えきれません。あの老賢者たちは何もしてくれないのに、私だけに無理な要求をしてきて……」
彼は深いため息をつき、神殿を見限ることを決めたようだった。顔に書いてある。「もう神殿の相手はしたくない」と。最近の彼は、私に対しても少し冷淡になっていた気がする。それが怖かった。
私には選択肢がなかった。神殿を離れて王宮で生活させてもらうことにした。嫌そうな表情を浮かべるエリック王子だけれど、なんとかすがりつく。ここで神殿と一緒に見捨てられたら、私は生きていけない。聖女という地位を失い、王妃の座も逃してしまったら、私はただの女神官になってしまう。絶対に嫌。
「王子様、私が神殿から離れても、聖女の務めは果たします。王宮から祝福を与えることだってできますわ。それに、あなたのそばにいれば、どんなことでも頑張れますもの」
王子の不満そうな表情に、私は必死で笑顔を作った。できるだけ可愛らしく、彼の心をつかむように。彼と一緒の立場を失わないよう、全力を尽くした。
その後、「癒しの協会」という、神殿の真似事のような組織が立ち上がったという噂を聞いた。市民からの評判はとても良いらしい。治癒や祝福の儀式を神殿より安く、しかも確実にこなしてくれるのだとか。
普通に考えたら、神殿に目をつけられて終わり。昔なら、異端として断罪されていただろう。対抗しようとしても絶対に勝つことはできないでしょう。でも今の状況なら、立場が逆転する可能性もありそう。それだけ、神殿の権威は失われている。
彼らを侮って放置していたら危ないかもしれない。そう思っていたら、神殿の連中は何も動こうとしなかった。どんどん協会の影響力が大きくなっていき、あっという間に神殿の存在感は薄れてしまった。今やもう、市民の味方は協会だけ。神殿は忌み嫌われる存在になってしまった。
「神殿は、もうダメなのね」
今の神殿の状況を見て、私は確信した。早く離れるべき。そもそも神殿に愛着なんてなかったのだから。私が欲しかったのは、神殿が持つ権威だけ。それが今や地に落ちてしまった以上、もう価値はない。
私は決心した。もう聖女という看板にしがみつくのは止めよう。それより、王妃になることを目指すべきだ。王子に近づき、彼の心を掴まなければ。
神殿の没落と共に「聖女」の価値も下がってしまった今、私に残された道はそれしかない。もう聖女の立場なんか捨てて、素直に欲望に従おう。
私、エリーゼは王妃になるのよ。
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