34 / 41
第34話 王子の決断 ※エリック王子視点
しおりを挟む
エリーゼが持ってきた神殿に関する話を聞き終えて、俺はため息をついた。神殿の体たらくぶりは想像以上に酷かった。彼女の報告は、俺の最悪な想像を遥かに超えていた。
「もはや神殿は機能していません、王子様。老賢者たちは責任を押し付け合っているし、女神官たちは次々と逃げ出し、残された者たちはただ混乱するばかりで」
俺がプライドを傷つけられたことに対する復讐も、結局は失敗に終わったようだ。何をしているんだ、まったく。
神殿に依頼した任務について、報告を求めるために老賢者たちを呼び出した。彼らはしどろもどろの言い訳を並べ立てた。
「王子殿下、申し訳ございません。神殿から裏切り者が出まして。それで依頼の内容も、有耶無耶になってしまい……」
「それだけか?」
「い、いいえっ! 他にも、邪魔をする者たちがおりまして。あのアレクシスという賢者が女神官たちを扇動し、大勢逃げ出して、神殿の機能が……」
そんな言い訳を聞いているうちに、俺の中で怒りより諦めが強くなっていった。もはや怒る気力すらない。
「わかった。もう、よい。話は終わりだ」
「ま、まだ! お話を――っ!」
喚く神殿の奴らを問答無用で兵士が連れ出して、ようやく部屋は静かになった。
長い歴史を持つ神殿の時代がついに終焉を迎えようとしている、ということだろう。終わる運命は避けられない。彼らを立て直そうと資金援助をしたこともあった。神殿を頼りにしようとしたこともあった。だが、もはや無駄な努力だった。今度こそ見限る決意をした。
感傷に浸っている暇はない。冷静に状況を分析しなければならない。神殿が機能しないなら、代わりとなるものが必要だ。王国の安定のためには、人々の心の拠り所となる存在が欠かせない。
最近、「癒しの協会」と名乗る組織が評判になっているという。神殿がやってきたような仕事を彼らがこなしているらしい。治癒や祝福の儀式を行い、市民からの評判もいい。彼らの実力は本物のようだ。
「協会、か……」
神殿の代わりに、彼らを協力させるのは良いアイデアだろう。王家が協会の存在を正式に認める。そうやって協会との関係を築きながら、新たな時代の幕開けを目指す。そう、これこそが次の一手だ。
しかし、それだけでは足りない。より大きな変革が必要だ。
「王位継承……このタイミングしかないかもしれない」
現在の王である、私の父は王国の統治に全く興味を持っていない。狩りと宴会に興じる毎日で、公務は大臣たちに任せきり。実質的には俺が取り仕切っている。そんな状況だからこそ、王位継承など俺の思うタイミングで行うことができる。
当初の計画では、神殿を建て直して盤石な状況にしてから王位を継承するつもりだった。だが残念ながら、神殿の再建は不可能だと分かった今、計画変更は不可避。
少し賭けになるが、思い切って俺が王となる。それから、すべてを動かしていく。新しい協会との関係構築から始め、国の仕組みそのものを変えていくのだ。
時期を伺っていたが、それでは大事なタイミングを逃してしまう。これ以上は待てない。役に立たない王など必要ない。
執務室の窓から王都を見下ろした。中央に聳える神殿の塔。その影に隠れるように立つ、新しい協会の建物。市民で賑わう広場。この国はもっと強くなれるはずだ。俺がそうしてみせる。
「そうだ、賭けてみよう」
新しい時代を始める。国民は王が代わって状況が良くなると期待を持つだろう。そこで、協会とやらを従わせることができれば、私の評判も上がる。王としての成功が約束される。
計画は完璧だ。さっそく進めていこうじゃないか。
まずは大臣たちを集めて、王位継承の準備を進めさせる。反対する者もいるだろうけど、現在の国王の無能ぶりを指摘すれば説得できるはずだ。彼らも、このような不安定な情勢がいつまでも続くのは望んでいないはずだ。
次に、協会に協力を要請する。誰がトップなのか、どういう組織なのか、詳しく調査させなければ。断るようなら、彼らの弱みを探し、それを利用して従わせる必要があるかもしれない。強硬な手段は避けたいが、必要とあらば、それも辞さない。
エリーゼの存在も利用できるかもしれない。彼女は、聖女の立場を捨てて、自分が王妃になることしか考えていないようだが、それは彼女次第だろう。俺の目的達成に役立つなら、その願いも叶えてやろう。だが、足手まといになるようなら、彼女との関係も見限る必要がある。俺の我慢の限界を超えてくれるなよ、エリーゼ。二度目はないぞ。
「さぁ、俺の時代が、いよいよ始まる!」
王の椅子に座り、真の権力を手にする日は近い。俺こそが、王にふさわしいのだから。
「もはや神殿は機能していません、王子様。老賢者たちは責任を押し付け合っているし、女神官たちは次々と逃げ出し、残された者たちはただ混乱するばかりで」
俺がプライドを傷つけられたことに対する復讐も、結局は失敗に終わったようだ。何をしているんだ、まったく。
神殿に依頼した任務について、報告を求めるために老賢者たちを呼び出した。彼らはしどろもどろの言い訳を並べ立てた。
「王子殿下、申し訳ございません。神殿から裏切り者が出まして。それで依頼の内容も、有耶無耶になってしまい……」
「それだけか?」
「い、いいえっ! 他にも、邪魔をする者たちがおりまして。あのアレクシスという賢者が女神官たちを扇動し、大勢逃げ出して、神殿の機能が……」
そんな言い訳を聞いているうちに、俺の中で怒りより諦めが強くなっていった。もはや怒る気力すらない。
「わかった。もう、よい。話は終わりだ」
「ま、まだ! お話を――っ!」
喚く神殿の奴らを問答無用で兵士が連れ出して、ようやく部屋は静かになった。
長い歴史を持つ神殿の時代がついに終焉を迎えようとしている、ということだろう。終わる運命は避けられない。彼らを立て直そうと資金援助をしたこともあった。神殿を頼りにしようとしたこともあった。だが、もはや無駄な努力だった。今度こそ見限る決意をした。
感傷に浸っている暇はない。冷静に状況を分析しなければならない。神殿が機能しないなら、代わりとなるものが必要だ。王国の安定のためには、人々の心の拠り所となる存在が欠かせない。
最近、「癒しの協会」と名乗る組織が評判になっているという。神殿がやってきたような仕事を彼らがこなしているらしい。治癒や祝福の儀式を行い、市民からの評判もいい。彼らの実力は本物のようだ。
「協会、か……」
神殿の代わりに、彼らを協力させるのは良いアイデアだろう。王家が協会の存在を正式に認める。そうやって協会との関係を築きながら、新たな時代の幕開けを目指す。そう、これこそが次の一手だ。
しかし、それだけでは足りない。より大きな変革が必要だ。
「王位継承……このタイミングしかないかもしれない」
現在の王である、私の父は王国の統治に全く興味を持っていない。狩りと宴会に興じる毎日で、公務は大臣たちに任せきり。実質的には俺が取り仕切っている。そんな状況だからこそ、王位継承など俺の思うタイミングで行うことができる。
当初の計画では、神殿を建て直して盤石な状況にしてから王位を継承するつもりだった。だが残念ながら、神殿の再建は不可能だと分かった今、計画変更は不可避。
少し賭けになるが、思い切って俺が王となる。それから、すべてを動かしていく。新しい協会との関係構築から始め、国の仕組みそのものを変えていくのだ。
時期を伺っていたが、それでは大事なタイミングを逃してしまう。これ以上は待てない。役に立たない王など必要ない。
執務室の窓から王都を見下ろした。中央に聳える神殿の塔。その影に隠れるように立つ、新しい協会の建物。市民で賑わう広場。この国はもっと強くなれるはずだ。俺がそうしてみせる。
「そうだ、賭けてみよう」
新しい時代を始める。国民は王が代わって状況が良くなると期待を持つだろう。そこで、協会とやらを従わせることができれば、私の評判も上がる。王としての成功が約束される。
計画は完璧だ。さっそく進めていこうじゃないか。
まずは大臣たちを集めて、王位継承の準備を進めさせる。反対する者もいるだろうけど、現在の国王の無能ぶりを指摘すれば説得できるはずだ。彼らも、このような不安定な情勢がいつまでも続くのは望んでいないはずだ。
次に、協会に協力を要請する。誰がトップなのか、どういう組織なのか、詳しく調査させなければ。断るようなら、彼らの弱みを探し、それを利用して従わせる必要があるかもしれない。強硬な手段は避けたいが、必要とあらば、それも辞さない。
エリーゼの存在も利用できるかもしれない。彼女は、聖女の立場を捨てて、自分が王妃になることしか考えていないようだが、それは彼女次第だろう。俺の目的達成に役立つなら、その願いも叶えてやろう。だが、足手まといになるようなら、彼女との関係も見限る必要がある。俺の我慢の限界を超えてくれるなよ、エリーゼ。二度目はないぞ。
「さぁ、俺の時代が、いよいよ始まる!」
王の椅子に座り、真の権力を手にする日は近い。俺こそが、王にふさわしいのだから。
722
あなたにおすすめの小説
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
婚約破棄された地味伯爵令嬢は、隠れ錬金術師でした~追放された辺境でスローライフを始めたら、隣国の冷徹魔導公爵に溺愛されて最強です~
ふわふわ
恋愛
地味で目立たない伯爵令嬢・エルカミーノは、王太子カイロンとの政略婚約を強いられていた。
しかし、転生聖女ソルスティスに心を奪われたカイロンは、公開の舞踏会で婚約破棄を宣言。「地味でお前は不要!」と嘲笑う。
周囲から「悪役令嬢」の烙印を押され、辺境追放を言い渡されたエルカミーノ。
だが内心では「やったー! これで自由!」と大喜び。
実は彼女は前世の記憶を持つ天才錬金術師で、希少素材ゼロで最強ポーションを作れるチート級の才能を隠していたのだ。
追放先の辺境で、忠実なメイド・セシルと共に薬草園を開き、のんびりスローライフを始めるエルカミーノ。
作ったポーションが村人を救い、次第に評判が広がっていく。
そんな中、隣国から視察に来た冷徹で美麗な魔導公爵・ラクティスが、エルカミーノの才能に一目惚れ(?)。
「君の錬金術は国宝級だ。僕の国へ来ないか?」とスカウトし、腹黒ながらエルカミーノにだけ甘々溺愛モード全開に!
一方、王都ではソルスティスの聖魔法が効かず魔瘴病が流行。
エルカミーノのポーションなしでは国が危機に陥り、カイロンとソルスティスは後悔の渦へ……。
公開土下座、聖女の暴走と転生者バレ、国際的な陰謀……
さまざまな試練をラクティスの守護と溺愛で乗り越え、エルカミーノは大陸の救済者となり、幸せな結婚へ!
**婚約破棄ざまぁ×隠れチート錬金術×辺境スローライフ×冷徹公爵の甘々溺愛**
胸キュン&スカッと満載の異世界ファンタジー、全32話完結!
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる