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第34話 王子の決断 ※エリック王子視点
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エリーゼが持ってきた神殿に関する話を聞き終えて、俺はため息をついた。神殿の体たらくぶりは想像以上に酷かった。彼女の報告は、俺の最悪な想像を遥かに超えていた。
「もはや神殿は機能していません、王子様。老賢者たちは責任を押し付け合っているし、女神官たちは次々と逃げ出し、残された者たちはただ混乱するばかりで」
俺がプライドを傷つけられたことに対する復讐も、結局は失敗に終わったようだ。何をしているんだ、まったく。
神殿に依頼した任務について、報告を求めるために老賢者たちを呼び出した。彼らはしどろもどろの言い訳を並べ立てた。
「王子殿下、申し訳ございません。神殿から裏切り者が出まして。それで依頼の内容も、有耶無耶になってしまい……」
「それだけか?」
「い、いいえっ! 他にも、邪魔をする者たちがおりまして。あのアレクシスという賢者が女神官たちを扇動し、大勢逃げ出して、神殿の機能が……」
そんな言い訳を聞いているうちに、俺の中で怒りより諦めが強くなっていった。もはや怒る気力すらない。
「わかった。もう、よい。話は終わりだ」
「ま、まだ! お話を――っ!」
喚く神殿の奴らを問答無用で兵士が連れ出して、ようやく部屋は静かになった。
長い歴史を持つ神殿の時代がついに終焉を迎えようとしている、ということだろう。終わる運命は避けられない。彼らを立て直そうと資金援助をしたこともあった。神殿を頼りにしようとしたこともあった。だが、もはや無駄な努力だった。今度こそ見限る決意をした。
感傷に浸っている暇はない。冷静に状況を分析しなければならない。神殿が機能しないなら、代わりとなるものが必要だ。王国の安定のためには、人々の心の拠り所となる存在が欠かせない。
最近、「癒しの協会」と名乗る組織が評判になっているという。神殿がやってきたような仕事を彼らがこなしているらしい。治癒や祝福の儀式を行い、市民からの評判もいい。彼らの実力は本物のようだ。
「協会、か……」
神殿の代わりに、彼らを協力させるのは良いアイデアだろう。王家が協会の存在を正式に認める。そうやって協会との関係を築きながら、新たな時代の幕開けを目指す。そう、これこそが次の一手だ。
しかし、それだけでは足りない。より大きな変革が必要だ。
「王位継承……このタイミングしかないかもしれない」
現在の王である、私の父は王国の統治に全く興味を持っていない。狩りと宴会に興じる毎日で、公務は大臣たちに任せきり。実質的には俺が取り仕切っている。そんな状況だからこそ、王位継承など俺の思うタイミングで行うことができる。
当初の計画では、神殿を建て直して盤石な状況にしてから王位を継承するつもりだった。だが残念ながら、神殿の再建は不可能だと分かった今、計画変更は不可避。
少し賭けになるが、思い切って俺が王となる。それから、すべてを動かしていく。新しい協会との関係構築から始め、国の仕組みそのものを変えていくのだ。
時期を伺っていたが、それでは大事なタイミングを逃してしまう。これ以上は待てない。役に立たない王など必要ない。
執務室の窓から王都を見下ろした。中央に聳える神殿の塔。その影に隠れるように立つ、新しい協会の建物。市民で賑わう広場。この国はもっと強くなれるはずだ。俺がそうしてみせる。
「そうだ、賭けてみよう」
新しい時代を始める。国民は王が代わって状況が良くなると期待を持つだろう。そこで、協会とやらを従わせることができれば、私の評判も上がる。王としての成功が約束される。
計画は完璧だ。さっそく進めていこうじゃないか。
まずは大臣たちを集めて、王位継承の準備を進めさせる。反対する者もいるだろうけど、現在の国王の無能ぶりを指摘すれば説得できるはずだ。彼らも、このような不安定な情勢がいつまでも続くのは望んでいないはずだ。
次に、協会に協力を要請する。誰がトップなのか、どういう組織なのか、詳しく調査させなければ。断るようなら、彼らの弱みを探し、それを利用して従わせる必要があるかもしれない。強硬な手段は避けたいが、必要とあらば、それも辞さない。
エリーゼの存在も利用できるかもしれない。彼女は、聖女の立場を捨てて、自分が王妃になることしか考えていないようだが、それは彼女次第だろう。俺の目的達成に役立つなら、その願いも叶えてやろう。だが、足手まといになるようなら、彼女との関係も見限る必要がある。俺の我慢の限界を超えてくれるなよ、エリーゼ。二度目はないぞ。
「さぁ、俺の時代が、いよいよ始まる!」
王の椅子に座り、真の権力を手にする日は近い。俺こそが、王にふさわしいのだから。
「もはや神殿は機能していません、王子様。老賢者たちは責任を押し付け合っているし、女神官たちは次々と逃げ出し、残された者たちはただ混乱するばかりで」
俺がプライドを傷つけられたことに対する復讐も、結局は失敗に終わったようだ。何をしているんだ、まったく。
神殿に依頼した任務について、報告を求めるために老賢者たちを呼び出した。彼らはしどろもどろの言い訳を並べ立てた。
「王子殿下、申し訳ございません。神殿から裏切り者が出まして。それで依頼の内容も、有耶無耶になってしまい……」
「それだけか?」
「い、いいえっ! 他にも、邪魔をする者たちがおりまして。あのアレクシスという賢者が女神官たちを扇動し、大勢逃げ出して、神殿の機能が……」
そんな言い訳を聞いているうちに、俺の中で怒りより諦めが強くなっていった。もはや怒る気力すらない。
「わかった。もう、よい。話は終わりだ」
「ま、まだ! お話を――っ!」
喚く神殿の奴らを問答無用で兵士が連れ出して、ようやく部屋は静かになった。
長い歴史を持つ神殿の時代がついに終焉を迎えようとしている、ということだろう。終わる運命は避けられない。彼らを立て直そうと資金援助をしたこともあった。神殿を頼りにしようとしたこともあった。だが、もはや無駄な努力だった。今度こそ見限る決意をした。
感傷に浸っている暇はない。冷静に状況を分析しなければならない。神殿が機能しないなら、代わりとなるものが必要だ。王国の安定のためには、人々の心の拠り所となる存在が欠かせない。
最近、「癒しの協会」と名乗る組織が評判になっているという。神殿がやってきたような仕事を彼らがこなしているらしい。治癒や祝福の儀式を行い、市民からの評判もいい。彼らの実力は本物のようだ。
「協会、か……」
神殿の代わりに、彼らを協力させるのは良いアイデアだろう。王家が協会の存在を正式に認める。そうやって協会との関係を築きながら、新たな時代の幕開けを目指す。そう、これこそが次の一手だ。
しかし、それだけでは足りない。より大きな変革が必要だ。
「王位継承……このタイミングしかないかもしれない」
現在の王である、私の父は王国の統治に全く興味を持っていない。狩りと宴会に興じる毎日で、公務は大臣たちに任せきり。実質的には俺が取り仕切っている。そんな状況だからこそ、王位継承など俺の思うタイミングで行うことができる。
当初の計画では、神殿を建て直して盤石な状況にしてから王位を継承するつもりだった。だが残念ながら、神殿の再建は不可能だと分かった今、計画変更は不可避。
少し賭けになるが、思い切って俺が王となる。それから、すべてを動かしていく。新しい協会との関係構築から始め、国の仕組みそのものを変えていくのだ。
時期を伺っていたが、それでは大事なタイミングを逃してしまう。これ以上は待てない。役に立たない王など必要ない。
執務室の窓から王都を見下ろした。中央に聳える神殿の塔。その影に隠れるように立つ、新しい協会の建物。市民で賑わう広場。この国はもっと強くなれるはずだ。俺がそうしてみせる。
「そうだ、賭けてみよう」
新しい時代を始める。国民は王が代わって状況が良くなると期待を持つだろう。そこで、協会とやらを従わせることができれば、私の評判も上がる。王としての成功が約束される。
計画は完璧だ。さっそく進めていこうじゃないか。
まずは大臣たちを集めて、王位継承の準備を進めさせる。反対する者もいるだろうけど、現在の国王の無能ぶりを指摘すれば説得できるはずだ。彼らも、このような不安定な情勢がいつまでも続くのは望んでいないはずだ。
次に、協会に協力を要請する。誰がトップなのか、どういう組織なのか、詳しく調査させなければ。断るようなら、彼らの弱みを探し、それを利用して従わせる必要があるかもしれない。強硬な手段は避けたいが、必要とあらば、それも辞さない。
エリーゼの存在も利用できるかもしれない。彼女は、聖女の立場を捨てて、自分が王妃になることしか考えていないようだが、それは彼女次第だろう。俺の目的達成に役立つなら、その願いも叶えてやろう。だが、足手まといになるようなら、彼女との関係も見限る必要がある。俺の我慢の限界を超えてくれるなよ、エリーゼ。二度目はないぞ。
「さぁ、俺の時代が、いよいよ始まる!」
王の椅子に座り、真の権力を手にする日は近い。俺こそが、王にふさわしいのだから。
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