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第36話 突然の暴走事件
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「大変です、ノエラ様!」
エミリーの慌てた声が協会の建物に響いた。私は急いで声のする方へ向かう。
「傷ついた市民が協会に助けを求めて逃げてきました!」
協会の入り口には、息を切らし、傷だらけになった数人の市民が倒れ込んでいた。
「任せて」
「お願いします」
私は急いでその人たちのそばに駆け寄り、応急処置をしていたエミリーに代わって治癒魔法を発動させる。温かい光が彼らを包み、傷が徐々に癒されていく。
とりあえずの応急処置が完了した。これで命に別状はない。だが、一体何が起きたのだろうか。私は彼らに尋ねた。
「大丈夫ですか? 何が起きたのですか?」
落ち着きを取り戻した市民の一人が、震え声で答えた。
「広場で神殿の神官のような奴らが突然、暴れ出したんだ。建物を壊して、人を襲って……もう、滅茶苦茶だった!」
神殿の神官が暴れている? 一体何が起きているというのだろう。私は即座に立ち上がった。
「皆さん、ここで待機して。逃げてきた人たちは保護して。私は様子を確認してきます」
集まってきていた協会のメンバーに指示を出し、私は協会を飛び出した。自分の目で確かめるため、事件が起きているという広場に向かう。
逃げ惑う人たちの波をかき分けて広場に着くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
見慣れた神官服を着た男たちが狂ったように暴れ回っている。傷ついて倒れている市民、崩壊する建物。石畳は割れ、噴水は破壊され、周囲の建物が崩れており、建物の破片が散らばっている。そして、その中心で理性を失ったように暴れ続けている人影がいた。
「あの人たちは……」
見覚えのある顔だった。神殿の老賢者たちだ。けれど、彼らの様子は明らかにおかしい。目は血走り、口からは泡を吹いている。まるで野獣のように咆哮を上げながら、手当たり次第に魔法を放っている。
私は急いで倒れている市民に駆け寄り、治癒魔法をかけながら状況を把握しようとした。しかし、老賢者たちの一人が私に気づき、問答無用で攻撃魔法を放ってくる。
「きゃあっ!?」
「っ! 大丈夫、落ち着いて」
近くにいた女性が叫ぶ。彼女を庇いながら、私は防御魔法で攻撃を受け止めた。だが、その威力は尋常ではない。私の知っている彼らの実力では、こんな強力な魔法なんて使えないはず。なのに、迫る魔法の威力は脅威だった。気を抜けば、危ない。
「もしかして、薬による凶暴化なの?」
彼らの能力が異常に強化されている理由に心当たりがあった。意識も完全に暴走状態で、理性が完全に失われているようだ。このままでは、敵を気絶させるのも危険。意識を失っても暴走を続けて、最悪の場合、死に至る可能性があるから。
私は市民を守りながら、安全に逃げられるよう援護を続けた。だけど、相手は複数人で暴れ回っている。しかも、無理に止めようとすれば、彼らの命が危ない。簡単には止められない。
覚悟を決めて、敵を止めないといけないのか。殺してしまうかもしれない、けれど――。
「うわぁぁぁっ!?」
一瞬の躊躇いの隙に、守っていた市民の一人が恐怖で混乱したのか、私の制止を振り切って飛び出してしまった。
「そこは、危険です! 避けて!」
タイミングが最悪だった。老賢者の一人が、強力な攻撃魔法を放とうとしている。その射線上に市民が飛び込もうとしている。
「危ない!」
恐怖に駆られた市民を守るために私が駆け出そうとした瞬間、別の人影が素早く割って入った。
「アレクシス!」
アレクシスが市民を抱えて安全な場所まで運んでくれた。その直後、一瞬前に彼がいた場所に強烈な魔法が炸裂する。彼が助けてくれなかったら、危なかった。
「こっちは、大丈夫だ!」
アレクシスが私に向かって叫ぶ。そして、彼の後ろからナディーヌとエミリーも現れた。
「あの者たちを止めてください、ノエラ様! 傷ついた方々の安全確保と敵からの守りは我々にお任せを!」
「その間に、ノエラ様はあいつらを止めることに集中してください!」
ナディーヌとエミリーの力強い声が響く。二人とも剣と杖を構えて、市民たちを守る構えを見せている。考える前に、私は行動を始めていた。
「わかった! そっちは、お願いっ!」
仲間たちがいれば、私は魔法に集中できる。敵を止めるための魔法に。深く息を吸い、意識を集中させた。
暴走した老賢者たちに向かって、私は封印の応用魔法を発動させる。意識の奥底に働きかけて、凶暴化の効果を抑制しながら、意識を鎮静化させる魔法だ。彼らの動きが鈍くなり、やがて魔法の光と共に地面に崩れ落ちた。
暴れていた者たちは、今は眠ったように倒れている。誰も死んでいない。
「ふぅ」
広場に静寂が戻った。どうにか事態を収めることに成功した。けれど、街の様子は酷いものだった。建物は破壊され、怪我人も多数出ている。被害は甚大だ。
暴れていた者たちは、どうしてこんなことをしたのだろうか。神殿は、どれだけ関わっているのだろうか。罪のない市民を襲うなんて、あまりにも酷すぎる。
「遅かったか!」
振り返ると、アンクティワンとジャメル、そして見覚えのない貴族らしき男性が駆けつけてきた。惨状を見て、アンクティワンが悔しそうに拳を握りしめている。
「アンクティワン」
呼びかけると、彼らが私の近くにやって来た。
「無事ですか、ノエラさん」
アンクティワンが心配そうな表情で無事を確認してきたので、大丈夫だと頷く。そして、彼の横に立つ男性に視線を向ける。
「ノエラさん、事態を収めていただき感謝する。被害は大きいが、これだけで済んだのは貴女のおかげだろう」
貴族らしい男性に感謝の言葉を伝えられ、私は答えた。
「いいえ。私は市民の方々を助けたいと思って動いただけです」
「私はルシウス子爵。実は、この事件について重要な情報を掴んでいるので、巻き込まれてしまった君たちにも真実を伝えないといけない」
ルシウス子爵と名乗った彼は周囲を見回し、声を低めて続けた。
「これは、エリック王が仕組んだことだ」
「え?」
まさか、という思いが胸を駆け巡る。
「詳しい話は、市民の方々の保護を終えてからの方がよろしいでしょう」
「そうだな。頼む」
ジャメルの言葉に、ルシウス子爵が頷く。そして、みんなで協力して市民たちの保護と治療を完了させた。
暴れていた男たちも捕まえて、連行されていく。
それから私たちは、ルシウス子爵の屋敷に移動して詳しい事情を聞いた。
「王は神殿の老賢者たちに最後の機会として、この事件を起こすように指示を出したようだ。そして、神殿の連中は薬を服用して暴れ回った。意図的にこの騒動を引き起こさせた。そして王は、協会に事態を解決してもらった後、その功績を理由として協力を要請するつもりだったのだろう」
ジャメルとアンクティワンに視線を向けると、彼らも事態を把握しているようで、頷いていた。どうやら、それが真実らしい。
今回の騒動が起きたこと、そして事態を収めることまで計画されていた。その後の展開についても、エリック王が計画を立てているなんて。それを聞いて私は言葉を失った。あの男が、こんな手の込んだ陰謀を。
「すべての責任を神殿に押し付けて、最終的に協会を自分の配下に組み込もうという算段なのだろう。自分の思惑通りに事を進める計画だった」
「神殿は罪のない市民を巻き込んで、そんなことを……」
ジャメルが険しい表情で続ける。
「今頃、王宮では『協会の素晴らしい活躍』を讃える準備が整っているでしょう。そして問題なのは、神殿の連中はまだ全滅していないということです。各地で再び同じような騒動を起こす可能性が高い。それを阻止するために、正式な協力要請という名の命令が下されるはずです」
私は拳を握りしめた。国民を危険にさらしてまで、自分の思い通りにしようとするなんて。
これが、王のやり方なのか。
エミリーの慌てた声が協会の建物に響いた。私は急いで声のする方へ向かう。
「傷ついた市民が協会に助けを求めて逃げてきました!」
協会の入り口には、息を切らし、傷だらけになった数人の市民が倒れ込んでいた。
「任せて」
「お願いします」
私は急いでその人たちのそばに駆け寄り、応急処置をしていたエミリーに代わって治癒魔法を発動させる。温かい光が彼らを包み、傷が徐々に癒されていく。
とりあえずの応急処置が完了した。これで命に別状はない。だが、一体何が起きたのだろうか。私は彼らに尋ねた。
「大丈夫ですか? 何が起きたのですか?」
落ち着きを取り戻した市民の一人が、震え声で答えた。
「広場で神殿の神官のような奴らが突然、暴れ出したんだ。建物を壊して、人を襲って……もう、滅茶苦茶だった!」
神殿の神官が暴れている? 一体何が起きているというのだろう。私は即座に立ち上がった。
「皆さん、ここで待機して。逃げてきた人たちは保護して。私は様子を確認してきます」
集まってきていた協会のメンバーに指示を出し、私は協会を飛び出した。自分の目で確かめるため、事件が起きているという広場に向かう。
逃げ惑う人たちの波をかき分けて広場に着くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
見慣れた神官服を着た男たちが狂ったように暴れ回っている。傷ついて倒れている市民、崩壊する建物。石畳は割れ、噴水は破壊され、周囲の建物が崩れており、建物の破片が散らばっている。そして、その中心で理性を失ったように暴れ続けている人影がいた。
「あの人たちは……」
見覚えのある顔だった。神殿の老賢者たちだ。けれど、彼らの様子は明らかにおかしい。目は血走り、口からは泡を吹いている。まるで野獣のように咆哮を上げながら、手当たり次第に魔法を放っている。
私は急いで倒れている市民に駆け寄り、治癒魔法をかけながら状況を把握しようとした。しかし、老賢者たちの一人が私に気づき、問答無用で攻撃魔法を放ってくる。
「きゃあっ!?」
「っ! 大丈夫、落ち着いて」
近くにいた女性が叫ぶ。彼女を庇いながら、私は防御魔法で攻撃を受け止めた。だが、その威力は尋常ではない。私の知っている彼らの実力では、こんな強力な魔法なんて使えないはず。なのに、迫る魔法の威力は脅威だった。気を抜けば、危ない。
「もしかして、薬による凶暴化なの?」
彼らの能力が異常に強化されている理由に心当たりがあった。意識も完全に暴走状態で、理性が完全に失われているようだ。このままでは、敵を気絶させるのも危険。意識を失っても暴走を続けて、最悪の場合、死に至る可能性があるから。
私は市民を守りながら、安全に逃げられるよう援護を続けた。だけど、相手は複数人で暴れ回っている。しかも、無理に止めようとすれば、彼らの命が危ない。簡単には止められない。
覚悟を決めて、敵を止めないといけないのか。殺してしまうかもしれない、けれど――。
「うわぁぁぁっ!?」
一瞬の躊躇いの隙に、守っていた市民の一人が恐怖で混乱したのか、私の制止を振り切って飛び出してしまった。
「そこは、危険です! 避けて!」
タイミングが最悪だった。老賢者の一人が、強力な攻撃魔法を放とうとしている。その射線上に市民が飛び込もうとしている。
「危ない!」
恐怖に駆られた市民を守るために私が駆け出そうとした瞬間、別の人影が素早く割って入った。
「アレクシス!」
アレクシスが市民を抱えて安全な場所まで運んでくれた。その直後、一瞬前に彼がいた場所に強烈な魔法が炸裂する。彼が助けてくれなかったら、危なかった。
「こっちは、大丈夫だ!」
アレクシスが私に向かって叫ぶ。そして、彼の後ろからナディーヌとエミリーも現れた。
「あの者たちを止めてください、ノエラ様! 傷ついた方々の安全確保と敵からの守りは我々にお任せを!」
「その間に、ノエラ様はあいつらを止めることに集中してください!」
ナディーヌとエミリーの力強い声が響く。二人とも剣と杖を構えて、市民たちを守る構えを見せている。考える前に、私は行動を始めていた。
「わかった! そっちは、お願いっ!」
仲間たちがいれば、私は魔法に集中できる。敵を止めるための魔法に。深く息を吸い、意識を集中させた。
暴走した老賢者たちに向かって、私は封印の応用魔法を発動させる。意識の奥底に働きかけて、凶暴化の効果を抑制しながら、意識を鎮静化させる魔法だ。彼らの動きが鈍くなり、やがて魔法の光と共に地面に崩れ落ちた。
暴れていた者たちは、今は眠ったように倒れている。誰も死んでいない。
「ふぅ」
広場に静寂が戻った。どうにか事態を収めることに成功した。けれど、街の様子は酷いものだった。建物は破壊され、怪我人も多数出ている。被害は甚大だ。
暴れていた者たちは、どうしてこんなことをしたのだろうか。神殿は、どれだけ関わっているのだろうか。罪のない市民を襲うなんて、あまりにも酷すぎる。
「遅かったか!」
振り返ると、アンクティワンとジャメル、そして見覚えのない貴族らしき男性が駆けつけてきた。惨状を見て、アンクティワンが悔しそうに拳を握りしめている。
「アンクティワン」
呼びかけると、彼らが私の近くにやって来た。
「無事ですか、ノエラさん」
アンクティワンが心配そうな表情で無事を確認してきたので、大丈夫だと頷く。そして、彼の横に立つ男性に視線を向ける。
「ノエラさん、事態を収めていただき感謝する。被害は大きいが、これだけで済んだのは貴女のおかげだろう」
貴族らしい男性に感謝の言葉を伝えられ、私は答えた。
「いいえ。私は市民の方々を助けたいと思って動いただけです」
「私はルシウス子爵。実は、この事件について重要な情報を掴んでいるので、巻き込まれてしまった君たちにも真実を伝えないといけない」
ルシウス子爵と名乗った彼は周囲を見回し、声を低めて続けた。
「これは、エリック王が仕組んだことだ」
「え?」
まさか、という思いが胸を駆け巡る。
「詳しい話は、市民の方々の保護を終えてからの方がよろしいでしょう」
「そうだな。頼む」
ジャメルの言葉に、ルシウス子爵が頷く。そして、みんなで協力して市民たちの保護と治療を完了させた。
暴れていた男たちも捕まえて、連行されていく。
それから私たちは、ルシウス子爵の屋敷に移動して詳しい事情を聞いた。
「王は神殿の老賢者たちに最後の機会として、この事件を起こすように指示を出したようだ。そして、神殿の連中は薬を服用して暴れ回った。意図的にこの騒動を引き起こさせた。そして王は、協会に事態を解決してもらった後、その功績を理由として協力を要請するつもりだったのだろう」
ジャメルとアンクティワンに視線を向けると、彼らも事態を把握しているようで、頷いていた。どうやら、それが真実らしい。
今回の騒動が起きたこと、そして事態を収めることまで計画されていた。その後の展開についても、エリック王が計画を立てているなんて。それを聞いて私は言葉を失った。あの男が、こんな手の込んだ陰謀を。
「すべての責任を神殿に押し付けて、最終的に協会を自分の配下に組み込もうという算段なのだろう。自分の思惑通りに事を進める計画だった」
「神殿は罪のない市民を巻き込んで、そんなことを……」
ジャメルが険しい表情で続ける。
「今頃、王宮では『協会の素晴らしい活躍』を讃える準備が整っているでしょう。そして問題なのは、神殿の連中はまだ全滅していないということです。各地で再び同じような騒動を起こす可能性が高い。それを阻止するために、正式な協力要請という名の命令が下されるはずです」
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これが、王のやり方なのか。
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